軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

くすぐったい気分だ

六王祭四日目を一緒に回ったフィーア先生とノインさんと別れ、ベルとリンをリリアさんの屋敷に戻すと、空はすっかり暗くなっていた。

とはいえ、まだ祭りは継続中であり会場である都市は明るい。

道中の出店で果物を買って、俺はある場所……リリアさんたちが宿泊している場所へと向かっていた。レインボードラゴンの件で気絶してしまったジークさんのお見舞いだ。

事前にハミングバードで確認したところ、ジークさんはすでに目覚め、ポンと手に入った10億円ショックからも立ち直ったらしい。

というわけで、リリアさんたちの宿泊施設にやってきた。この宿泊施設もかなり巨大ではあったが、俺が泊まっているところほど非常識ではなく正直ちょっと羨ましい。

いや、クロたちが用意してくれた中央塔もいいんだけど……正直あまりに広すぎて、六王祭中に堪能しきれる自信はないんだよなぁ……。

「……いいですか、約束ですよ? 絶対に私の指示なくあの宝石を出しちゃ駄目ですからね! 知らない人にあげたりしては駄目ですよ」

「……」

宿泊施設付きの使用人に案内されて辿り着いた談話室らしき場所では、ジークさんが真剣な表情で話をして、レインボードラゴンが無言で頷くという光景があった。

「特に、あそこ……見てください。あのルナマリアという女性の顔はしっかり覚えてください。そして、絶対『彼女の言うことを聞いては駄目』ですからね。餌を持ってきても受け取っては駄目です。あと、私からの伝言ですとか、そんな手も使うと思いますが……絶対に信用してはいけませんよ。いま見たので知ってるでしょうが……『知らない人』だと思って接してください」

「……」

何度も絶対と繰り返しながら告げるジークさんの言葉を、少し後方にて唖然とした表情で聞いているルナさん。

そして、そんなルナさんの隣で苦笑を浮かべているリリアさんに近付くと、声が聞こえてきた。

「……私なら絶対やるだろうという、親友からのあまりにも深い信用。不肖、ルナマリア……涙を禁じえません」

「正直、私はジークの対処は正しいと思います」

「お嬢様!?」

「俺もそう思います」

「ミヤマ様まで!? あ、あまりにも失礼ではありませんか? これは、人格の否定に等しい行為ですよ。ええ、私は深く傷つきました」

大袈裟なリアクションでどこからともなく取り出したハンカチを口元に当て、泣いているような振りをするルナさんに、俺は淡々と言葉を続ける。

「……でも、ジークさんが注意して無かったら、やってたんでしょ?」

「……まぁ……否定は困難ですね」

……やる。この顔は釘を刺していなかったら、絶対にやる顔だ。流石ルナさん、まったくぶれない。ジークさんは親友だけあって、ルナさんの性格も熟知しているみたいだ。

そこで話は終わりかなと思ったが、ジークさんは次にリリアさんの方をチラリと見てからレインボードラゴンに話しかける。

「……あと、あちらに居るリリ……リリア・アルベルト公爵は私達が住む家の当主です。お世話になるのですから、基本的にはしっかり言うことを聞くように……」

「おぉ、リリアさんは高評価ですね」

「まぁ、私はルナと違ってお金儲けを考えているわけではありませんしね」

リリアさんの指示に関しては、基本と前置きしてから従うようにと告げている。たぶん、宝石関係以外ではということだろう。

まぁ、リリアさんとしても8億~10億の宝石を渡されても困るだろうけど……気絶すらあり得る。

「……ただし、鱗が欲しいとか、たてがみを切らせてほしいとか言ってきたら、断ってください。あと部屋に連れ込まれそうになったら逃げてください」

「……え? ちょ、ちょっと、ジーク……なにを?」

「リリは前に『リンちゃんを自分の部屋に連れ込もうとして噛まれた』前科がありますから、くれぐれも注意してください」

ちょっといま聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような。リンを部屋に連れ込もうとして噛まれた? リリアさんそんなことしてたの!?

「……リリアさん、リンの飼い主としてあとで話があります」

「ご、ごめんなさい。一度だけ……出来心で……」

「後で話があります」

「……はい」

リンも同意の上ならともかく、噛みついたってことは嫌がっていたんだろうしちゃんと注意はしておこう。まぁ、リリアさんも反省しているみたいなので、きつく言う必要はないだろうけど……。

そして次にジークさんは俺の方をチラリと見てから、再びレインボードラゴンに話しかける。あれ? 俺も?

「……あそこに居る男性。ミヤマカイトさんに関しては、ちゃんと言うことを聞くようにしてください。私のとても大切な人です。もしカイトさんが、宝石が欲しいと言ったらあげてください」

「……」

「カイトさんは流石の高評価ですね」

「なんでしょう? 私の大切な人ですとか……惚気てるようにしか聞こえないんですが……」

拝啓、母さん、父さん――ルナさんの言葉通り、なんて言うか、ジークさんが真剣にとても大切な人だと言ってくれたのが、嬉しくて……なんだか――くすぐったい気分だ。