軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋をした

トラブルはあったものの、一緒にいる相手がほぼ最強という事もあって、デートは問題無く続く。

「見て見て、カイトくん! 勇者役から広まった調味料売ってるよ」

「……マヨネーズ? へぇ、こんなのも伝わってるんだ」

「これは、新しい味に挑戦してみるのも良いかもしれないね!」

「ベビーカステラに入れるのだけはやめてくれよ」

「え?」

「いや、え? じゃなくて……」

食料品が売られている市場を見て回ったり……

「へぇ、いろんな色の花が売ってる。こういうの見ると、異世界って気がするなぁ~」

「あ、カイトくん。その花『噛みつく』から気を付けてね」

「何でっ!? てか、そう言うのは先に言ってくれ!!」

「あはは、ごめんごめん。でもその花、美味しいよ」

「……いやいや、色々意味が分からない」

花屋で奇妙な色の花に噛みつかれたり……

「カイトくん、どっちが似合うと思う?」

「う~ん。クロの普段の服装は黒いし、銀色のネックレスの方が良いんじゃないかな?」

「そっか~でもこれ短いね。魔獣モードになると切れちゃうかも」

「……魔獣モードって何?」

「魔獣の姿になった時の事だね。大体アハト位のサイズだよ」

「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」

装飾品店でウィンドショッピングを行ったり……

「カイトくん、串焼き買って来たよ~一緒に食べよ」

「ああ、ありがとう……うん、美味いけど、変わった食感の肉だな。これ何の肉?」

「これは『タイラントワーム』の肉だね」

「ぶぅっ!?」

異世界の食材に驚愕したり……

「どんな本買うの?」

「う~ん。出来れば暇な時間に読めたりするのが良いんだけど、何が良いかな?」

「じゃ、これなんてどう? 初代勇者の話を物語風に脚色した本だよ」

「へぇ、初代勇者の話か、面白そうだ。初代勇者が凄い人だってのは分かってるけど、どんな感じの人だったんだろ?」

「うん? カイトくんも『前会った』じゃん」

「……え?」

本屋で驚愕の新事実が発覚したり……

「クロム様、お取り込みの所失礼します」

「うぉっ!? あ、アインさん!? いつの間に……」

「どうかしたの?」

「王宮よりハミングバードにて連絡が、先のワイバーン討伐の件で是非直接会って礼が言いたいと」

「……ボク、デート中なんだけど……」

「畏まりました。『血祭り』にあげてきます」

「よろしく~」

「いやいや、よろしくじゃない!? アインさんストップ、ストオォォォップ!!」

ワイバーンという脅威が去ったと思ったら、王宮に更なる 脅威(メイド) が襲来しかけたり……

そんな風に慌ただしくも楽しく、あっという間に時間は過ぎて行った。

「いっぱい遊んだね~楽しかった~」

「うん。何か所々とんでもない事が起こった気がするけど、確かに楽しかった」

夕暮れに染まった噴水広場で、クロと並んで腰掛けながら今日の余韻に浸る様に言葉を交わす。

本当にあっという間に時間が過ぎて行った。こんなに騒がしくも楽しく一日を過ごしたのは、いつ以来だろうか?

「クロ……今日は、本当にありがとう」

「うん? ボクもすっごく楽しかったよ。また一緒に遊びに行こうね!」

満面の笑顔を浮かべてこちらを見つめてくるクロに、俺も笑顔でお礼を告げる。

今日は本当に楽しかったし、今まで知らなかった事も色々知る事が出来た。

だけど同時に、俺はこの世界に来てクロに色々な物を貰ってばかりだと……彼女に世話になりっぱなしなんだと、改めて実感した。

そして同時に、俺はまだクロの事を全然知らないんだと思った。

クロは俺の事は何でもお見通しと言った感じだが、俺は冥王であるクロの凄ささえほんの一部しか知らない。

今まではそれでもいいと思ってた。彼女は俺とは全く次元の違う存在なんだし、理解が及ばなくても当然のことだと……

だけど今日クロと一緒に過ごして、もっとクロの事を知りたいと思った。貰うばかりでなく何かお返しをしたいと感じた。

「……まだ時間はたっぷりあるし、焦る必要なんてないよ」

「……ああ」

……やっぱり、俺の考えはお見通しみたいだ。

この世界に来てまだ二週間と少し程度、共に過ごした時間はまだ決して長くはないと思う。

ソレは理屈じゃない、時間の長さなんて関係ない……そんなものは物語の中でだけだと思ってた。

――認めよう。

その感情はいつの間にか、自分自身でも気付かないほど自然と心の中に生まれていた。

俺はこの無邪気で明るく、奔放で優しい、規格外の魔族に――心惹かれているのだと……

いかんせんクロは強敵だと思う。何せ、普段は異様に鋭い癖に、こういう関係だけはやたらと疎く鈍い相手だ。

ある意味無謀な挑戦と言えるのかもしれないけど……クロが言った通り、まだ時間はあるのだから焦る必要はない。

少しずつ彼女の事を知っていこう、少しずつ彼女の心に近付いてみよう。

「クロ、次がいつになるかは分からないけど……今度は俺の方から誘っても良いかな?」

「……うん。楽しみにしてるよ」

一先ず、今日は自分の気持ちを認識するところから始めよう。

そして次はその想いを行動に表していこう……正直何もかも初めてだし、不安は山ほどあるけど……頑張ってみよう。

拝啓、母さん、父さん――ある意味これは異世界に来て一番大きな変化なのかもしれない。元の世界で他人との関わりから逃げ続けていた俺は、異世界に来て不思議な魔族と出会い――恋をした。

クロと噴水広場で別れ、リリアさんの屋敷に向かって夕暮れの道を歩く。

楽しかった今日一日の事を思い返し、自然と口元に微かな笑みを浮かべながら歩を進め、少しして――違和感に気が付いた。

時刻は夕暮れ時、本来なら帰宅する人や夕食に出かける人で込み合う時間帯の筈だが、広く真っ直ぐな道は人影すら無く、異様な静けさに包まれていた。

まるで世界からこの空間だけ切り離されたかの様な、明らかに異常な光景の前に自然と足が止まる。

「……なんだ、これ――ッ!?」

直後に背中に寒気が走り、全身が総毛立つ。

周辺の建物が腐る様に溶け、目の前の道が崩れて行く様な、そんな光景が頭に思い浮かぶ程、得体のしれない恐ろしい感覚。

何故かはわからないが身体が小刻みに震え、酷く渇いた喉がやけに大きな音を響かせる。

そして頭で考えた訳ではなく、全身が……本能が激しく警告を告げる。

――何か、とても『恐ろしいモノ』が来る。

以前リリアさんの屋敷をクロが尋ねた際に感じた魔力による重圧とは違う。もっと根本的な生物としての本能に警告を促す様な、どうしようもなく恐ろしい感覚。

言うならばそれは、肌で感じる程に濃厚な――死の気配。

そして静寂に染まる薄暗い道の先から、ソレは現れた。

灰の様に白い長髪、病的な程に白い肌、血の様に深く暗い深紅の瞳。

ゴシックドレス風の衣服に身を包み、淡く青い光に包まれた女性が、フワフワと浮きながら、不気味な気配を纏ってこちらに近づいてくる。

その姿はまるで亡霊の様で、絶世の美女と言える程美しい筈の顔も、ただただ恐怖を際立させる。

上手く呼吸が出来ない。本能が強烈に告げる。

ソレに関わるな、すぐに逃げろと……

しかしそんな思いに反して、体は凍りついた様に動いてくれない。

「……奇妙な魔力……貴方……勇者?」

「ッ!?」

冷たい声が響き、赤い瞳が俺を見据える。

まるで全身が凍りつく様な錯覚を覚え、茫然と目の前の女性を見つめる。

日が沈み、暗く染まりかける道の真ん中で、俺は――死の化身と対峙した。