軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相当無理をしていたみたいだ

高級中華風フレンチは、見た目と名前のギャップこそすごいものの、味は流石人気店といった感じで非常に美味しかった。

メインのペキンダック風の肉料理は、これがまた鳥の旨味が極限まで凝縮されて、まるで鳥を丸ごと一羽食べたかのような満足感だった。

うん、あれ……鶏肉だよね? でかいワームの肉とか、カエルの肉とかじゃないよね? ……うん、考えないようにしよう。

とまぁ、そんな感じで楽しく食事を続けていたのだが……途中からふと、あることに気付いた。

「……」

隣のテーブルで食事をしているリリアさんから、時折視線を感じる。しかし、声をかけてくるわけではない。

そして感応魔法でリリアさんから感じる気持ちは……心配? どういうことだろうか?

「……あの、リリアさん?」

「……カイトさん、少しだけ時間をいただいても大丈夫ですか?」

意を決してリリアさんに声をかけて見ると、リリアさんは少し迷うような表情を浮かべてから言葉を返してきた。

「え? えぇ……」

「では、少しだけ席を外しましょう。ルナ、私とカイトさんの料理を遅らせるように伝えておいてください」

「畏まりました」

どうやらリリアさんは俺に話があるみたいで、ルナマリアさんに少し席を離れることを告げる。そして、この展望席から扉をひとつまたいだ場所にあるバルコニーに向かって歩き始めた。

リリアさんの意図が分からないまま、俺はリリアさんの後を追ってバルコニーに移動する。

流石に高級店というだけあって、バルコニーもかなりの広さだった。

六王祭の会場でにある店としては、意外なほどに静かなそのバルコニーを、俺とリリアさんは無言で歩いていく。

そして、ある程度食事の席から離れてたところで、リリアさんは立ち止まってこちらを振り返った。

夜の涼しげな風が吹き、リリアさんは揺れる髪を片手で押さえながら口を開いた。

「……カイトさん」

「はい?」

「……私の勘違いであればいいのですが、もしかして……なにか『悩んでいますか?』」

「……え?」

リリアさんの告げた言葉には、率直に言って……驚いた。

昼間にあった、母さんにそっくりな女性との遭遇。それは、アイシスさんのお陰である程度割り切ることはできていたし、笑顔も浮かべられていた。

しかし、それでも完全に忘れることはできず、時折思い出していた。リリアさんが言っているのは、そのことなんだと思う。

しかし、あの件に関しては……俺自身そこまで深刻に考えてはいなかったので、まさか気付かれるとは思っていなかった。

「その、私もハッキリと根拠があるわけではないのですが……カイトさんの笑顔に、少しだけ影がある気がしたんです」

「……」

「作り笑いというわけではありません。ちゃんと心から笑顔を浮かべていたと思います。でも、その、なんとなくいつもと少し違うような気がして……」

驚いた……そして、なにより嬉しかった。

リリアさんは本当に俺のことをよく見てくれているからこそ、些細な変化に気付いてくれた。そして、先程ずっと感じていた心配する感情……ただただ、ありがたい。

「……それほど大層な話ではないんですが……すぐに終わるので、少しだけ聞いてくれますか?」

「ええ、私でよければ」

だから、俺はリリアさんに正直に話すことにした。

今日の昼間に死んだ母さんとそっくりの女性にあったこと、深刻に考えたりしているわけではないが、それにもやはり気になるということ……。

それらをすべて伝え終えると、リリアさんは一度納得した様子で頷いた。

「……なるほど、無理もないでしょうね。私もまだ若輩とはいえ、死による別れを一度も経験したことがないわけではありません。私の母上は健在ですが、義理の母……父上の側室は、何人か亡くなっています」

「……」

「親しい人物の生前にそっくりな相手と出会えば、動揺してしまうのも当然です」

そう言いながら、リリアさんは俺の方へ近づいてきて、そっと俺の胸にもたれかかるように身を寄せてきた。

「……でも、よかったです。カイトさんが、あまり深く悩んでいなくて……安心しました」

「リリアさん……」

「すみません。貴方は、とても強い方ですから……きっと大丈夫なんだとは分かっています。けど、少しぐらい心配させてください。私だって、貴方の恋人なんですから……」

「はい、いや、というか……心配して貰えて、すごく嬉しいです」

身を寄せてくるリリアさんを軽く抱きしめ、その温もりを感じながら感謝の気持ちを伝える。

するとリリアさんも俺の背中に手を回してきて、そのまま少しの間無言で抱き合っていると、ふとリリアさんが顔を上げてはにかむように微笑んだ。

「……カイトさん」

「はい?」

「……キス……しませんか?」

「……え?」

まさか、恥ずかしがり屋のリリアさんからそんなことを言ってくるとは思わなかったので、つい間抜けな声を出してしまった。

「そういえば、まだしていなかったと思いまして……カイトさんは、嫌ですか?」

「い、いえ、そんなことは……で、でも、リリアさんは大丈――ッ!?」

リリアさんは大丈夫なんですか? と、そう尋ねようとしたが……その言葉は、目を閉じて顔を少し上げたリリアさんを見て止まる。

ここで余計なことを言ったり、引くのはリリアさんに失礼だ。

俺は、リリアさんの方を両手で掴み、ゆっくりと顔を近づける。そして……。

「んっ……」

驚くほど柔らかいリリアさんの唇に俺の唇が重なり、リリアさんの口から小さな声が漏れた。

リリアさんが俺に向けてくれる深い好意を感じながら、少しの間その温もりを味わってから唇を離した。

「……え、えと、リリアさん。ありがとうございました」

「……」

アイシスさんとはまた違った形の、恥ずかしがり屋のリリアさんが精一杯の勇気を振り絞っての行動。それが嬉しくて、つい自然とお礼の言葉が口を突いて出た。

しかし、リリアさんから反応はない。

「……あれ?」

「……」

「り、リリアさん?」

「………………きゅ~」

「リリアさん!? ちょっ、ちょっと、しっかりしてください!?」

突如崩れ落ちそうになるリリアさんを慌てて抱きとめたが……リリアさんは目を回して気絶していた。

拝啓、母さん、父さん――リリアさんとの初めてのキス。それは、彼女が俺のために振り絞ってくれた、精一杯の勇気の賜物だった。本当に嬉しくて、幸せだったけど……やっぱりというか、なんというか、恥ずかしくてたまらなかったんだろう。リリアさんは――相当無理をしていたみたいだ。