軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

可愛いと思ってしまったのは秘密だ

ルナさんと一悶着あった後、一緒にリリアさんたちがいる飲食店に向かって歩いていたのだが……どうやらまだ、万事解決とはいかないらしい。

「……あの、ルナさん? そろそろ機嫌直してくれませんか?」

「……は? いったいなにを仰られているのでしょうか? それではまるで、私が怒っているように聞こえるではありませんか?」

「……いや、だって、さっきからそっぽ向いたままですし……怒ってるというか、拗ねてますよね?」

先程からかったのがよほど悔しかったのか、ルナさんはずっとそっぽを向いたままで言葉にもどこかトゲがある。

しかも、本人は断固としてそれを認めないという……なんとも面倒な状況になりつつあった。

「はっ、私が拗ねている? ミヤマ様もおかしなことを仰いますね。まさか、私がたかだか20年程度しか生きていない若造にいいように弄ばれて、反論ができずにいるみたいじゃぁないですか? 思い上がりも甚だしいですね!」

「……い、いや、でも、実際」

「いいですか、『拗ねているって言った方が拗ねているんです』。つまり本当に敗北感を感じているのは、ミヤマ様の方ではありませんか?」

「……そ、そうですね」

子供かこの人は!? 完全に『馬鹿って言った方が馬鹿理論』じゃないか!? 悪戯好きだったり、元々子供っぽい面はあったけど……怒り方まで子供なのか、ルナさん。

しかし、まいった。この拗ね方だと、すぐには機嫌を直してくれそうにはない。出来ればリリアさん達に合流するまでには、なんとか修復したいところだが……。

「る、ルナさん、俺が悪かったですから機嫌を……あれ?」

「……」

出来るだけ下手に出てルナさんの怒りを鎮めようと、意を決してルナさんの方を向いたが……向いた方向にルナさんの姿は無かった。

そして、直後になぜか、後ろから俺の両肩に手が置かれた。

「へ? ちょっ、ルナさん!? どうしたんですか?」

「……助けて……」

「……は?」

「……助けてください。カイトさん……」

「だ、大丈夫ですか? どこか体調が……」

状況はまったく分からなかったが、俺の肩を掴むルナさんの手が震えており、首だけ振り返ってみるとルナさんは青い顔で俯いていた。

明らかに様子がおかしく、俺のことも普段とは違い『カイトさん』と弱々しい声で呼んでいる。もしかして体調が悪くなったのかと思って声をかけるが、ルナさんは俯いたままで首を振る。

その反応に俺が首を傾げると、ルナさんは手を震わせながらどこかを指差した。

「……あ、ああ、あれ……」

「……うん? って、アレは……『芋虫』?」

「ひぃっ!?」

ルナさんが指差した先には、小さな……本当に小さな芋虫らしきものが居た。

もしかして、あの芋虫に怯えてるの? なんか、悲鳴あげながら俺の背中にしがみ付いてきたし……って、そう言えば、ルナさんって虫が苦手だってリリアさんが言ってたような気がする。

「……虫、やだ……虫やだぁ……『ワーム』はやだぁぁぁぁぁ」

「る、ルナさん、落ち着いてください!? だ、大丈夫です! 俺が居ますから、すぐにどかしますから……」

「うぅ、カイトしゃん……は……はやく……やっつけてぇ……」

「りょ、了解です。だから、ちょっとだけ手を離して……」

「やっ! 行っちゃやだぁ!?」

「……」

どうすりゃいいんだよこの状況!? 完全に幼児化してるじゃないかルナさん!? 肩にしがみ付かれたままで、どうやって芋虫をどけろっていうんだ? 足? 足でどかすの?

いや、それにしても近付かなきゃいけないわけで、この状態のルナさんを芋虫に近付けたらどうなるか分からない。

「……アリス、ヘルプ」

「いやいや、カイトさん? 『花も恥じらう乙女』に芋虫処理しろなんて……」

「大丈夫。お前は、俺の中で花も恥じらう乙女にカテゴライズされてないから」

「何気に酷いっす……いや、まぁ、実際平気なんですけどね」

文句を言いながらもアリスは、芋虫をひょいっと摘み上げて遠くに放り投げてから姿を消した。うん、やっぱり非常に頼りになる。今度なにか奢ってあげよう。

「ほ、ほら、ルナさん? もう虫は居なくなりましたよ! 大丈夫ですからね?」

「うぅぅ……ほ、ほんとですか?」

「ええ、大丈夫です! もしまた虫が出ても、俺がちゃんと守りますから! ルナさんには指一本触れさせませんから、安心してください!!」

「か、カイトさん……」

震えるルナさんに必死で声をかけると、ルナさんはようやく顔を上げ、潤んだ目で俺を見詰めてきた。

不覚にも、ドキッとしてしまった。ルナさん、性格はアレだけどすごい美人だし、普段とは違う弱々しい姿のギャップもあって、儚げな美女に見えた。

ルナさんは少しの間俺を見詰めた後、ハッとした表情に変わり、慌てて俺から離れた。

「……み、見苦しいところをお見せしました」

「い、いえ……誰にでも苦手なものはありますから……」

メイド服のほこりを払うように手を動かしながら、耳まで真っ赤にして顔を逸らすルナさん。まさか、ここまで虫が苦手とは、流石に想像して無かった。

尋常じゃない怯え方だったし、ワームは嫌だとか言ってたから……虫の中でも特にワームが苦手なのかな? もしかしたら、なにかしら幼少期のトラウマとかあるのかもしれない。

「い、行きましょうか!」

「え、ええ……」

余程恥ずかしいのか、こちらを向かないまま言葉を発し、さっさと歩き始めてしまうルナさんを慌てて追いかける。

そして、俺の少し前を早足で歩くルナさんは、赤くなった顔を俯かせながら、微かに聞こえる程度の小さな声で呟いた。

「……み、ミヤマ様」

「え? はい?」

「……ま、守ってくれて……あ、ありがとうございました。えっと、その……ちょっと、か、カッコ良かった……です」

「……へ?」

「な、なんでもありません! お嬢様たちを待たせてもいけません、急ぎましょう!!」

「ちょっ、ルナさん。待っ……早っ!?」

拝啓、母さん、父さん――ルナさんが虫嫌いというのは聞いていたが、まさか幼児逆境するレベルで苦手だとは思わなかった。まぁ、でも、失礼な話かもしれないが……虫に怯える弱々しいルナさんを見て、普段とは全然違う姿を、少し――可愛いと思ってしまったのは秘密だ。