軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『弱者は静かに牙を研ぐ』

快人とメギドの三本勝負。その最終戦である障害物競走は、メギドのリードで幕を開けた。

現在メギドは、快人と同じ身体能力しか行使しておらず、単純に言ってしまえば身体強化魔法を使用できる快人の方が、スピードもパワーも上である。

しかし、それでも現状はメギドが大きくリード……その要因の一つは、スタミナの差だろう。

メギドは確かに快人と同じ身体能力で走っているが、メギドはこのままゴールまでトップスピードを維持し続けることが出来る。

しかし快人の方は、スタミナを調整しながら走らなければならず、結果として障害物二つ分ほどの差が開いていた。

だが、ハッキリ言ってここまでの展開は『メギドも予想していた』。というよりは、コレが必然なのだ。

性能の同じ車に乗ったとしても、ドライバーがF1レーサーと素人では発揮できる力に差がある。メギドリードは当然の結果と言えた。

そう、だからこそ、メギドは……『アリスに障害物作成を依頼』した。

『さあ、メギドさん速い! すでにコースの前半部分は走破しそうな勢い。カイトさん、少し距離をあけられている!』

実況を行っているアリスにチラリと視線を向けた後、メギドはニヤリと笑みを浮かべてコースに視線を戻す。

(分かってるさ……まだ、これからなんだろ? シャルティア、テメェはカイト贔屓なんだ。だからこそ、テメェに頼んだんだ! テメェなら、この条件でも『カイトが俺に勝てる可能性が十分にあるコース』を作るだろ? そうじゃなくちゃ面白くねぇ! さあ、なにを用意してきた?)

心底楽しそうな笑みを浮かべながら、次の関門を目指す。そんなメギドの前に、次の関門が現れた。

机の上に置かれた小さな立方体。それを見たメギドは速度を緩め、不思議そうに首を傾げる。

(……なんだこれ?)

『さあ、メギドさんは前半の山場に辿り着きました。そこの関門は『ルービックキューブ』です! 異世界の遊具ですね。説明は机に貼ってありますよ~』

ルービックキューブを初めて見るメギドは、机に貼られた説明に素早く目を通す。

(なるほどな……パズルみてぇなもんか……ふむ、異世界の遊具もある程度は知ってるつもりだったが、コレは初めて見たぜ……まぁ、たかが六面揃えるだけ、さっさとクリアするか)

組み合わせを確かめつつ、キューブを動かしていくメギド……初めて体験する品とはいえ、遊び方は単純、順調に色を揃えていく。

そしてメギドがこの関門に辿り着いて、一分ほどたった辺りでようやく快人が追いついてきた。

『さあ、カイトさんもやってきました。この品は異世界の遊具、異世界出身のカイトさんには有利ですが……ここで逆転なるか?』

(……あめぇな、確かに俺より快人の方が慣れてるだろうが……こっちはもう三面揃ってる。あと一分もありゃ楽勝で……うん?)

まだここでは逆転されないと、そう考えながらメギドが快人の方をちらりと見ると……カイトはルービックキューブを手に持ち、様々な角度から十秒ほど眺めた。

そして……。

「な、なにぃぃぃ!?」

直後に快人の手が一切の淀みなく動き、瞬く間に六面全てを揃えてしまった。

『カイトさん凄い! あっという間に完成させ、関門をクリア! 逆転です!!』

(ば、馬鹿な!? なんだ今のは? 二十秒……いや、十五秒足らずで完成させやがったぞ!?)

快人にとってはルービックキューブは数少ない特技であるが、そんなことは知らないメギドは思わず手を止めてしまうほどに驚愕する。

(ま、まるで最初から手順を知ってるみたいに……まさか、シャルティアが教えたのか? いや、それはねぇ。アイツがそんな露骨な手段を使うわけがねぇ……カイトに有利なようにコースを作ってるのは間違いねぇが、それはもっと分かりにくいもんだ……)

一瞬答えがリークされていたという可能性も考えたが、メギドはすぐに頭の中でそれを否定し、ルービックキューブを揃える作業に戻る。

しかし、やはり動揺は軽くはなく、ややてこずってしまっていた。

(……最初の飛び石は足場がでかかったし、間隔も狭かった。二つ目の坂も滑りにくい素材を使ってたし……運動慣れしてないカイトでも突破しやすいように調整はされていた。そう、シャルティアの手助けはその程度のはず……それ以上は、むしろカイトが納得しねぇだろう。ってことは、さっきのはカイトの実力か? だが、どうやってあんなに早く……いや、待てよ?)

圧倒的と言えた快人の速度に対して、メギドは動揺を落ち着かせるように頭の中で整理していく。

そのタイミングでメギドも六面を揃え、先を行く快人へ追いつくために走り出しながら思考を続ける。

(最初にカイトは十秒ぐらいキューブを眺めていやがった……まさか、あの十秒で完成までの手順を見切ったってことか!? と、とんでもねぇな……)

快人のルービックキューブの腕前を実感し、メギドは軽く戦慄した様子で肩を一度震わせ……凶悪な笑みを浮かべた。

「は、ははは! そうだ!! そうこなくっちゃなぁぁぁぁ!!」

『おおっと、メギドさんが咆哮! 凄まじい速度で関門を突破していく!』

メギドにとって競争とは至高……メギドは、相手が強ければ強いほどやる気を出す生粋のバトルマニア。

いま、その闘争心に火が付いた。

しっかりと身体能力の基準は守っているが、先程までよりさらに動きから無駄が消え、どんどんキレが増していく。

その勢いは、先行していた快人にすぐさま追いつき、追い抜くほど……。

『こ、ここで再度逆転!? 熱い戦いです!!』

『……ねぇ、ノーちゃん? 少し疑問なんだけど……』

『うん? どうしました?』

『カイちゃんさ、さっきから……『集中しきれてない』感じがするんだけど?』

『あ~そうですね。ちょっと動きに無駄が多い感じですね~』

『……なにかしてるよね?』

『……さて? 予想は出来ますが、それは見てからのお楽しみでしょうね』

燃え上がる闘争心と共に疾走するメギドに徐々に引き離されながらも、快人の表情は変わらない。

そして、口は小さな声でなにかを呟いていた。

「……これで……終盤の術式設定は完了……もう……少しで……」

快人は静かに、しかし着実に準備を進めていく……差が広がろうと、その目にはまだ諦めの色は欠片もない。

現在のメギドとの差は、関門三つ分に広がったが……それでも、まだ『射程距離内』だから……。