軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

近付いていければいいと思うから

食事とは言っても、あまり長くリリアさんたちを待たせてしまっても悪いので、店等には入らず出店で済ますことにする。

というか、こうして食事目的で探してみて気付いたけど……普通に飲食店みたいなのもあるんだ。流石規模が凄まじいというか、なんというか……。

出店で魚の塩焼きと数品を購入して、少し出店の並ぶエリアから逸れたところにあるベンチに、アニマと一緒に腰掛ける。

そしてさっそく一口魚の塩焼きを食べてみると、パリパリに焼かれた皮の中から、淡白で塩と合う白身が現れ、口の中に柔らかく広がっていく。

味付けは本当にシンプルだが、塩と白身魚の相性は言うまでも無く抜群。非常に美味しい。

「うん。美味しい……って、アニマ? 食べないの?」

「あっ、い、いえ、食べます」

横を向いてみると、どこか浮かない表情で塩焼きの刺さった串を見つめているアニマの姿があった。

俺が声をかけると、アニマは少し慌てた様子で塩焼きを口に運ぶが、一口食べた後で動きが止まる。

「……美味しくなかった?」

「い、いえ、とても美味しいです……」

アニマの表情はどこか妙な感じだった。こう、説明するのは難しいが……落ち込んでいたりする感じではなく、なんというか戸惑っているように感じる。

しかし、一体なにに対して戸惑っているのかが分からない。

言葉を続けられない俺の前で、アニマはしばらく沈黙してから、ポツリと呟いた。

「……ご主人様」

「うん?」

「……その、申し訳ありません。我儘を言ってしまって……」

「……」

なんだろう? やはりアニマはなにかに戸惑っているみたいで、いまの呟きと共に感応魔法で感じる困惑が強くなった。

しかし、俺の感応魔法を心を読むわけではない。あくまで表面的な感情しか読みとれないし、アニマが困惑していることは分かっても、その原因は分からない。

答えの出ない疑問が頭に浮かぶが、その答えは直後にアニマの口から告げられた。

「……自分は……ど、どうして、あんなことを……」

「……へ?」

「自分は、ご主人様に仕える配下です……自分は、ご主人様に絶対の忠誠を誓っています……誓っていた筈なのに……なぜ? 自分が己の我儘で、ご主人様の行動に口出しをするなど、あってはいけないのに……」

「……アニマ」

アニマの戸惑いの理由は、いまの言葉で理解できた。彼女はたぶん、少しだけ、本当に少し……ハッキリと言葉に出来るほどではないにせよ、気付いたんだろう。

自分の心の中にある。俺に対して向けられる、忠誠心とは別の感情に……。

だからこそ、アニマはいますごく戸惑っている。いままでの自分と違う行動をとってしまった原因、自分の中にある感情の正体に、ハッキリとした答えが出ないから……。

ハッキリと理解出来る忠誠心と、もう一つの感情……アニマにしてみれば、まるで自分の忠誠心が揺らいだかのように感じてしまって、不安なんだと思う。

でも、だからと言って……ここで俺が、その答えを口にすることは出来ない。

なぜなら、アニマの中でその感情はまだ芽生え始めたばかりであり、確たるものになっていないから……。

もし仮に、アニマがちゃんとした答えを出して自分の感情を受け入れる前に俺が答えを告げてしまったら……アニマはきっと、戸惑いながらも無理やり自分を納得させてしまう。

『主である俺が言ったから間違いない』と……自分の気持ちをしっかりと理解する前に、こうあるべきだと勝手に決め付けてしまうだろう。それじゃ、駄目なんだ。

「アニマ」

「は、はい!?」

「……なに言ってるの? アニマは『俺の我儘に付き合ってくれた』んだよ」

「い、いえ、しかし……」

「うん? それともアニマは、俺と一緒に食事するのは嫌だった?」

「そんなことはありません!!」

だから、俺がいましてあげるべきなのは、アニマに落ち着いて自分の心を見つめる時間を作ってあげること。

その結果、彼女がどんな答えを出すのかは、俺には分からない。

忠誠心を優先し、その感情を押し込めてしまうか……それとも、受け入れて変化していくか……。

「ねぇ、アニマ? 俺と一緒に食事できて、アニマは嬉しい?」

「はい! その……不思議と、いつもより、美味しい気がします」

「そっか……じゃあ、問題無いよね? 俺もアニマと一緒に食事が出来て嬉しいし、互いに嬉しいんだから……むしろいい選択だったんじゃないかな?」

「……はい」

これは、あくまで想像でしかないんだけど……アニマがもし、ちゃんと自分の気持ちを受け入れたなら……彼女は、いまよりずっとずっと大きく成長すると思う。

それは肉体的なものではなく、精神的な……そう、アニマはいま以上に強く魅力的な女の子になると思う。

「……ご主人様」

「うん?」

「……えっと、その……美味しいですね」

「ああ」

だから、俺はいまはなにも言わない。

「……ご主人様」

「うん?」

「その、なんでしょう? 不思議と心が温かい気がするんです」

「……そうだね。俺も丁度そんな気持ちだよ」

アニマは気付いていないだろう。いつの間にか、塩焼きの串を片手で持っていることを……。

空いた手を俺の手の隣に置いていることを……小指だけ、微かに俺の手に触れていることを……。

「……ご主人様」

「うん?」

「……ありがとうございます」

「なにが、かな?」

「……分かりません。けど、なんとなく、お礼を言いたかったんです」

「そっか……」

いまは、そう、気長に待つことにしよう。

いままで『俺の後ろに居ること』を良しとしていた彼女が、いつか『俺の隣に立つこと』を望んでくれる。そんな未来を、期待しながら……。

拝啓、母さん、父さん――アニマは少しずつだけど、変わり始めている。いまはまだ戸惑いが大きいみたいだけど、焦る必要はない。こうして穏やかに流れる時間を、これからも一緒に過ごしながら……少しずつ――近付いていければいいと思うから。