軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そう簡単にはいかないだろう

現在のスタンプは三つ……そして目の前にあるのが、四つ目の闘技場。

イプシロンさんからスタンプをもらった後、道中の出店で軽く食事をしつつ辿り着いた闘技場は、いままでの三つを比べると少し小さいように思えた。

しかし、まぁ静かなものだ。祭りの最中ってのを忘れてしまいそうな……というかここまでの三つもそうだったけど、俺以外の挑戦者は居ないのだろうか? 単純にスタンプ集めに手間取っているのか、それとも戦王五将に挑むなんて馬鹿なことだと最初から挑戦する気が無いのか……。

頭に疑問を浮かべつつ、闘技場の中に入ると……これはまた変な方が居た。

「……ん? あぁ、いらっしゃい。悪いね。ちょっとこれ一本吸うまで待ってくれ」

「あ、はい」

赤錆のような色あせたボサボサの赤毛。ヨレヨレで皺だらけのコートを着て、無精ひげを生やした男性は煙草をくわえながらそう告げた。

なんか、駄目な大人って感じの見た目……というか全然覇気が無いけど、この人が戦王五将?

目の前の男性には、バッカスさん、コングさん、イプシロンさん……そしてアグニさん。その四人からは雰囲気は違えど感じた……なんというか、強者のオーラみたいなのが全然なかった。

それこそ休日にパチンコ屋に居そうな感じで、変な頼りなさを感じる。

少し虚を突かれた感じになって沈黙していると、男性は煙草を吸い終え、携帯灰皿みたいなものに吸殻を入れてからこちらを向く。

「いや、待たせて悪いね~。改めて、ようこそミヤマくん。おじさんは『オズマ』って言うんだ。まぁ、よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「いや~それにして、お疲れ様。あちこち回るのは大変だろう? コーヒーでも飲むかい?」

「あ、い、いえ、お構いなく」

う、う~ん。やっぱりなんというか緩い。本当に気の良い中年のおじさんって雰囲気で、威圧感とか全然感じない。

「ちょっとスタンプカード見せてくれるかな?」

「え、えぇ……」

「おぉ! もう三つも集めたのかい? いや~若い子ってのは元気でいいねぇ。というか、おじさん四つ目? いやいや、駄目でしょ。まずは『戦王五将最弱』のおじさんのとこ来なくちゃ」

「え? そ、そうなんですか?」

「そうだよ。イプシロンちゃんなんて、アグニちゃんに次ぐぐらい強いんだからさ……いや~でもまぁ、それをクリアしてるミヤマくんなら、おじさんなんて楽勝かな?」

自分のことを戦王五将最弱だと告げるオズマさんだが、その言葉は己を卑下しているという風でも無く、非常に気楽に聞こえた。

「……まぁ、アレコレ引き留めてもアレだね。さっそく始めようか? そっちの女の子が、ミヤマくんの代理かな?」

「……いえ、その、出来れば、今回は『俺が挑戦したい』です」

「ご主人様!? だ、駄目です! 危険です!! だらしなく、覇気の欠片も無い屑のような男でも、一応は戦王五将なんですよ!」

「……最近の若い子はストレートに物事を言うから、正直おじさんちょっと傷つくな~」

俺自身が挑戦したいという言葉を告げると、アニマが慌てた様子で止めてくる。

もちろん俺だって、結構無謀だとは思ってる。けど、やっぱり……。

「アニマ、俺はここまでずっと代理に頼んでばかりだった。ちゃんと、俺にもチャンスがあるようにハンデを用意してくれてるのにも関わらず」

「……ご主人様?」

「メギドさんは俺自身に戦えとは言わなかったけど、わざわざこうやってハンデとか考えてくれてるってことは……俺が挑戦することも期待してるんだろ思う。だから、俺も一回ぐらい頑張りたいんだ……最後にちゃんと胸を張って勝ったって言えるように……」

「いいねぇ、おじさん、そういうのは大好きだよ」

コレは俺の本心だ。仮にこのまま代理に任せてメギドさんのところに辿り着いたとして、俺はきっと後悔すると思う。チャンスは……頑張る機会はあったはずだって。

だから、うん。一度ぐらいは見栄張って頑張ってみよう……まぁ、ぶっちゃけ、あちらから攻撃はしてこないんだし……安全というのも背中を押してくれた。

「し、しかし!? ご主……」

「おっと、待ちなお嬢ちゃん」

「……む?」

「男って生き物には、そういう時もあるんだよ。意地張って、見栄張って、それでも戦おうって思う時はある。周りが余計な茶々入れるもんじゃねぇよ」

「ぐっ……そ、それは……」

「こういう時はなぁ、余計なことは言わずに背中押してやるのが、いい女ってもんさ……」

オズマさんが穏やかながら強い口調で告げると、アニマはそれ以上なにも言わずに沈黙する。

そんなアニマに、俺は一度振り返って笑顔を浮かべ、片手とグッと握る。

「まぁ、そういうことだから……頼りないとは思うけど、挑戦してくるよ」

「……はい。ご主人様、頑張ってください!」

「うん」

力強い応援の言葉を背に受け、俺はオズマさんの前まで歩いて行って向い合う。

オズマさんは相変わらず緩い表情のままだが、目には少しだけ強い光が宿っているようにも見えた。

「……それじゃ、軽くルールのおさらいだ。おじさんの方からミヤマくんには攻撃しないし、魔力も使わない。ついでに片腕と片足も使用禁止……んで、移動制限がかかるわけだけど、そうだなぁ……円はこのぐらいでどうだい?」

そう言ってオズマさんは半径二メートルぐらいの小さな円を地面に書き、俺に尋ねてくる。

「……大丈夫です」

「んじゃ、移動速度だけど……ミヤマくんが反応出来ない速度じゃ移動しない。まぁ、こんぐらいだよ」

片足で、俺がゆっくり歩くぐらいの速度で移動して見せるオズマさん。かなり遅い気がしたが、それでも大丈夫だと言う自信があるのだろうか?

ともかく条件は俺に有利過ぎるぐらいだし、それで問題はないと頷いて伝える。

「ミヤマくんの勝利条件は、おじさんに指一本でも触れること……制限時間は、う~ん。一時間ぐらいでいいかな?」

「はい!」

「よし、じゃあ、始めようか……おじさん弱いから、手加減してね~」

「全力で頑張ります!」

「ありゃりゃ、若い子は本当に元気だねぇ。おじさんには眩しいよ」

一度目を閉じて息を整えてから、俺は円の中心でへらへらと笑っているオズマさんに向けて走り出した。

拝啓、母さん、父さん――四つ目の闘技場で会ったオズマさんに、俺は代理を立てずに挑んでみることにした。条件は俺に非常に有利だが、それでも相手は戦王五将――そう簡単にはいかないだろう。

「ふむ、カイトさんの相手は『静空』のオズマさんですか……」

「強いのか?」

「う~ん。本気で戦えば、戦王五将筆頭の『アグニさんより強い』ですけど……相手の力量に合わせて手加減するタイプですからね。勝算はあると思いますよ」

「……ふむ」

闘技場を見下ろせる高所に二つの影があり、静かに言葉が交わされている。

二人の視線の先には、オズマに挑む快人の姿があった。

「……まぁ、オズマさんに関してはカイトさんの頑張り次第ですけど……問題はその後っすね。アグニさんは手加減するような性格じゃないので、カイトさんの同行者で勝てるのは……あの神ぐらいしかいませんよ。いや~カイトさんはどうするんでしょうね?」

「白々しい、我がここに居ることが答えであろう?」

「……ブランク大丈夫ですか?」

「さてな、その辺りは実戦で調整するほかあるまい……」

「自信ないなら止めてもいいっすよ?」

「……寝言なら寝てから言うんだな」

「ふふふ、じゃあ、よろしく頼みますよ……相棒」

長い付き合いのような気安さで言葉を交わし、二つの影はその場から姿を消した。