軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本当に天使だと思う

湖のほとり、浴衣に身を包んだクロたちと、色とりどりの花火を楽しむ。

誰が用意したのか分からないが、元の世界で見たような手持ち花火であり、ご丁寧に線香花火、ロケット花火、ねずみ花火……そして安物感漂う打ち上げ花火まで用意してある充実ぷリ。

「火、つけるよ~」

少し離れた場所に置いた打ち上げ花火にクロが火をつけ、少しすると小さいながら綺麗な花火が上がる。

……信じられるか? ここ『室内』なんだぜ? 本当にどれだけ常識外れの広さなんだよここ……。

「アイシスさんは、線香花火ですか?」

「……うん……これ……好き」

しゃがんだ状態で線香花火を手に持ち、微笑んでいるアイシスさんはとても絵になり、なんというか風情を感じる。

「く、クロさん!? それは飛ぶやつで――うひゃぁっ!?」

「あっ、ごめん! 大丈夫?」

「やってくれましたね、クロさん……喰らえ! 花火投擲!」

「よっ」

「あっ、ちょっ!? 打ち返さないでくださ――ひぎゃぁぁぁ!?」

「ご、ごめん……」

企画者でもあり一番楽しんでいるクロだが、どうやら彼女は花火に関しては中途半端にしか知らないようだ。

ロケット花火を手に持って火を付け、アリスが飛んできたそれを回避していたりと……アイシスさんと違ってこっちは賑やかだ。

アインさんが用意してくれたスイカらしきものを食べながら、騒がしくも楽しいその光景を見て、俺は自然と笑みを浮かべた。

楽しい花火はあっという間に終わり、俺達は広すぎる寝室へと移動した。

しかしまだ寝るには少々早い時間で、これからどうするんだろう? と思っていると、クロとアイシスさんとアリスが静かに睨み合いはじめた。

「……ふたり共、準備はいいね?」

「……ええ、いつでもどうぞ」

「……かかって……こい……私が……勝つ」

睨み合う三人の間にはバチバチと火花が散り、緊迫した空気が伝わってくる。

え? なにこれ? なんで急に一触即発みたいな空気になってるの? 皆さっきまで楽しく花火してたのに……ま、不味い! 止めないと……。

「勝負は『ババ抜き』! 負けたひとりは『カイトくんの隣じゃ寝られない』……いいね!」

「……うん……勝負」

「ええ、勝たせてもらいますよ……って、あれ? カイトさん、なに寝転んでるんすか? まだ寝るのは早いですよ」

……違う、コレはずっこけたんだ。なにやってんのこの人達!? ババ抜き? それで「いざ決闘」みたいな空気出してたの!?

というか、そもそも俺は両脇に二人抱えて、真ん中で寝ること決定なの?

「それじゃあ、アイン! カードを配って!」

「かしこまりました」

唖然とする俺だが、三人は真剣そのもので、アインさんに配られたカードを手に持ち、真剣な表情を浮かべる。

というか、ちょっと待って? 『俺にもカードが配られている』んだけど? え? 俺も参加?

戸惑いつつ俺もカードを手に持つと、アリスがこちらを見て不敵な笑みを浮かべた。

「……ふふふ、カイトさん。いいことを教えてあげますよ。いかにカイトさんの運がよかろうと、この勝負……カイトさんの勝ちはありません。いえ、カイトさんだからこそ……勝てません」

「ど、どういうこと……」

「じゃあ、スタート!」

「お~い……クロ……」

俺だからこそ勝てないババ抜きという言葉の意味を尋ねようとしたが、それより早くクロがスタートを宣言してしまった。

ちなみに、カードを引く順番はクロ、アリス、アイシスさん、俺……まぁ、参加するからには真剣にやることにしよう。

そう思ってババ抜きを始めたが、アリスが語った言葉の意味はすぐに理解することができた。

アリスからカードを引いたアイシスさんは、分かりやす過ぎるほど落ち込んだ表情を浮かべた……あれ、絶対ジョーカー引いた。アイシスさん、分かりやす過ぎる。

そして俺の番になり、俺がアイシスさんからカードを引こうとして、一枚のカードに手を伸ばすと……アイシスさんの顔がパァッと明るくなる。

それを見てから別のカードに手を動かすと、今にも泣き出しそうな表情に変わる。

……アイシスさん。分かりやす過ぎる。というか、ババ抜き弱すぎる。もうジョーカーがどこにあるのか分かっちゃったよ。

しかし、えっと、コレは……なるほど……無理だ。俺は勝てない。だって俺がババ以外を引くと、アイシスさんが泣きそうな顔になっちゃうわけだし……。

お、俺には、アイシスさんの涙と引き換えの勝利を掴む非情さはない。

ニヤニヤと笑うアリスに負けた気分を味わいつつ、俺はアイシスさんの表情が明るくなるカードを引いた。

……って、あれ? ジョーカーじゃない? なんで? あんなに分かりやすかったのに……。

引いたカードはババどころか、俺の手持ちとペアになるカードであり、そのおかげで俺はあと二枚……次はクロが俺から引くから、実質的にリーチというわけだ。

俺が首を傾げていると、アリスも俺がババを引いたと思っていたのか、なにやら驚いた表情を浮かべていた。

もしかしてカードを勘違いしちゃったかな? よし、今度こそ……。

再び俺に順番が回ってくると、俺は今度こそアイシスさんの表情をしっかり確かめ。明るい笑顔になるカードを引いた……すると、俺の手元からカードが無くなった。つまり、あがりである……なんで?

その結果に首をかしげつつアイシスさんの方を見ると、アイシスさんはカードをテーブルに置いて、小さく拍手をしていた。

「……カイトが一番……すごい」

「……」

そうか、アイシスさんは『俺に一番になってほしかった』から、俺が『ババを引こうとすると』、悲しそうな表情を浮かべていたのか……。え? なにこの人、天使なんじゃない? いや確実に天使だよ。ものすっごく可愛いし……。

「……そ、そうきましたか……こ、コレは読めなかったっすね」

流石にアイシスさんが俺を勝たせようとしているとは思っていなかったみたいで、アリスも苦笑を浮かべていた。

そしてその後、再開されたババ抜きでは、アイシスさんが怒涛の追い上げを見せた。そしてアレほど表情の変化が分かりやすく、ババ抜きが弱そうなアイシスさんは、次々にペアを揃え、残り二枚となった。

アイシスさんの手持ちはジョーカーとエース。次はアイシスさんが引く番なので、これでエースを揃えれば、アイシスさんはあがりである。

「あっ、アイシスさん。それじゃなくて右のカードがいいですよ」

「……うん……わかった」

「ちょっとぉ!? カイトさん、アイシスさんに指示出すのやめてくれませんか! さっきからアイシスさんの引くカード、全部ペアになってるじゃないすか!? 貴方の運はチートなんすから!?」

……すまない、アリス。俺は、天使の笑顔を守りたいんだ。

拝啓、母さん、父さん――六王は仲良しというのはよく聞く話だが、実際俺もそうだと思う。なんだかんだで皆ワイワイと楽しそうで、見ている俺まで楽しい気分になった。まぁ、それはそれとして、アイシスさんは――本当に天使だと思う。