軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とんでもないVIP待遇は確定している

六王祭の会場である都市に入った俺達の……いや、俺の元に天使のような笑顔を浮かべながら、クロが駆けよってきた。

周りから突き刺さる「誰だアイツ?」と「ああ、アイツが噂の……」という二種類の視線。場所も悪く。門のすぐ近くであるココには結構な人が居るので注がれる視線も多い。

……気分は動物園のパンダである。

現実逃避したい気分になりながら、駆け寄ってくるクロに手を振り返していると、すぐ近くでルナマリアさんがしゃがみ込む。

「……尊い」

……誰か、この駄メイド病院に連れて行ってくれないかな? 鼻押さえて涙流してるんだけど……。

クロはそんなルナマリアさんの反応を気にすることもなく、近くに来ると少し速度を落として俺に抱きついてきた。

「えへへ、我慢できなくて会いに来ちゃった。カイトくん、いらっしゃい」

「う、うん」

……可愛い。コレはもう、壮絶に可愛い。

大量の視線なんか忘却の彼方に消し去ってしまうほど可愛い。あっ、いや、嘘です。やっぱ視線めっちゃ気になる。というか、恥ずかしくてたまらない。

「……で、では、カイトさんは冥王様とのお話もあるでしょうし、私達は先に……」

「リリアさん!? 見捨てようとしてません? この注目の中から、俺を生贄にして逃げ出そうとしてません!?」

「……き、きのせい、ですよ?」

俺の指摘に目線を泳がせながら、リリアさんはこの場から離脱しようとする。

他の面々も、このテンション最高潮と言っていいクロの邪魔をするのは命が危ないと思ったのか、俺がリリアさんに訴えかけている間にスッと移動を始めていた。

しかし、そこで意外なことに、クロが抱きついていた手を離してリリアさんに話しかけた。

「あっ、リリアちゃん。ちょっと待って、連絡することがあるんだ」

「え? れ、連絡、ですか?」

「うん。まぁ、シャ……ノーフェイスに頼めば良かったんだけど、カイトくんに会いたかったからボクが伝えにきたんだ」

クロに呼び止められ、恐縮しながら尋ね返すリリアさんに対し、クロは笑顔のままでどこからともなく手紙ぐらいのサイズのカードを取り出す。

「リリアちゃんたちは、皆招待状のランクがバラバラだよね?」

「え、あ、はい」

「通常だとランクごとに宿泊施設が変わるって聞いてると思うんだけど……六王同士の話し合いで、満場一致で『カイトくんの知り合いだから特別扱い』することに決まったんだ」

「……そ、それは、こ、ここ、光栄です」

「うん。それでそのカードに書かれている場所に『リリアちゃんたち専用の宿泊施設』を作っておいたから、皆そこに泊まってね」

「……は?」

クロの言葉を聞いたリリアさんは、それはもう分かりやすいほど唖然とした表情を浮かべる。

それもそのはずだ。六王が自分たちのために、わざわざ宿泊施設を新規で建ててくれたわけだし……。

「あっ、ちなみに『専属使用人』は『300ほど配置』しておいたけど、足りなかったら言ってね?」

「……へ?」

「腕のいい料理人も付けておいたし、食材も『最高級』のを揃えておいたから、ゆっくり楽しんでね」

「……」

ヤバい、リリアさんがショート寸前になってる。まさかここまで六王からVIP待遇で迎えられるとは思ってなかったらしい。

陸に上がった魚のように口をパクパクと動かして硬直してしまっている。

というか、俺以外の皆は同じ場所に泊まれるのか……。

「……く、クロ。俺もその宿泊施設に……」

「駄目」

「……はい」

力強く迷いないNOであった。

ガックリと肩を落とす俺だったが、思わぬところから援護の言葉が飛んできた。

「め、冥王様、恐れながら……ミヤマくんも、皆と一緒の方が気が楽なのでは?」

「……きょ、今日一日ぐらいとかなら……」

「……レイさん、フィアさん……」

クロに対して委縮しながらも、今日一日ぐらい俺も皆の居る場所に泊まればいいのではないかと、クロに進言してくれる。

な、なんていい人達なんだ。俺はいままでレイさんとフィアさんのことを誤解していた。

「う~ん。ボクはそれでもいいと思うけど、皆は大丈夫なの?」

「え、えと、大丈夫といいますと?」

意外とアッサリそれでも構わないと告げたクロだが、なにやら表情は微妙だ。

それを疑問に思ったレイさんが尋ねると、クロはリリアさん達を見渡した後で口を開く。

「……カイトくんが泊まるところ……『アイシス』来るよ?」

「さあ、皆! 六王様がせっかく宿泊施設を用意してくれたんだ。私たちはすみやかにそちらに向かうことにしようじゃないか!」

「ええ、そうしましょう!」

……鮮やかな掌返しである。貴方達、そんなにアイシスさんが怖いか……って、よくよく考えたら、ここに居るメンバーの多くは『アイシスさんがブラックベアーを絶滅させた』のを見てた人達か……。

リリアさん達も首振り人形の如く頷いてるし……う、うん。流石にここまで怖がっていると……リリアさん達の場所に宿泊するのは諦める他ない。

クロにしっかりと挨拶をしてから皆は宿泊施設に向かい、俺はキャラウェイさんから案内を引き継いだクロと一緒に中央塔に向かっていた。

まぁ、他の皆はともかく、あんなてかい中央塔に泊まる俺は、案内なんてなくても辿り着けそうな気はする。

「……と、ところでクロ? リリアさん達の宿泊施設、もの凄い感じだったけど……俺が泊まる所にも、使用人とかいっぱいいるの?」

嬉しそうに俺の手を握り、ニコニコと満面の笑顔で歩いていたクロに尋ねる。

リリアさん達の宿泊施設は、使用人が300人も居る規模……それは凄まじいだろうが、俺の場合はそれ以上にとんでもないんじゃないかと不安になる。

流石に見ず知らずの使用人が山ほどいるような場所に一人泊まるのは、なんというか小市民の俺には精神的に辛いものがある。

「ううん。カイトくんが泊まる場所の専属は一人だけだよ」

「え? そうなの? それは、安心したけど……意外だ」

「だって他に必要ないしね。カイトくんの専属は『アイン』だから」

「ああ、うん。もう全部納得した」

なるほど、アインさんが配置されてるのか……確かにそれは他の使用人は必要ないな。だってアインさんだもん。アインさんが居るだけで、もう既に世界最上級の待遇が保証されてるようなものだし……。

「ねぇ、カイトくん」

「うん?」

「泊まる場所、案内した後でさ……ボクと少し出かけない?」

「それは構わないけど、どこに行くの?」

「それは着いてからのお楽しみ!」

そう言って悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべるクロは、どうしようもないほど可愛かった。

最近はクロが六王祭の準備で忙しそうだったし、クロとのんびりできるのは、正直凄く楽しみだ。

ただ、まぁ、出来ればあんま注目されないところがいいかな……。

拝啓、母さん、父さん――リリアさん達と別れ、クロに案内されながら中央塔を目指す。まだ俺の泊まる場所がどんなところかの詳細は分かっていないけど……まぁ、でも、あの超人メイドが専属の時点で――とんでもないVIP待遇は確定している。