軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とても楽しい食事だった

服を買い終えた俺達は、昼食を食べるために街中を移動していた。目指す場所は、クロのガイドブックで『女性にお勧め』と書かれていた店。

「……むぅ、なんだかカイトさんに貰ってばかりです」

「気にしないでください。俺が好きで買ったんですから」

「ありがとうございます……えぃ」

「は? なぁっ!?」

先程のことをまだ少し気にしているジークさんに、気にしないでくれと再度伝える。するとジークさんは嬉しそうに微笑みを浮かべた後、とても可愛らしい掛け声と共に俺の左腕に抱きついてきた。

「じ、ジーク!? い、一体なにを……」

「リリ、いいですか? 私達とカイトさんは恋人同士なんです。こうやって腕を組んで歩くのは、ごく自然なことなんですよ」

「……い、いや、それは言い過ぎな気が……」

「なるほど、そ、そうだったんですね……こ、ここ、こうして……」

「リリアさんまでっ!?」

ジークさんのやや誇張した言葉をアッサリと信じたリリアさんも、意を決するように真っ赤な顔で俺の右腕に抱きついてきた。

両手を抱きしめられるという、恐るべき挟撃……一瞬で体温が上がり、顔が熱くなってくる。

両サイドから感じる柔らかな感触。リリアさんは恥ずかしがっているのか、やや強めに体押し付けてきており、恐ろしいほど柔らかい双丘が俺の腕を挟みこんでおり、大変危険な状態だ。

ジークさんの方は、リリアさんに比べればいくらか余裕があるのか、抱きついたまま俺の手に自分の手を重ねて恋人繋ぎにして、しなだれかかるように抱きついてくる。

こ、これはヤバい……なぜいきなりこんな状況になったのかは分からないが、この感触は非常にヤバい。

リリアさん、ジークさん……そのどちらも驚くほど柔らかく、温かく、いい匂いがする。

身長が高くスレンダーなジークさんの体は、ピッタリと隙間を埋めるように俺の腕に密着しており、俺の肩に顔を擦りつけるような体勢になっているので、顔が物凄く近くに見える。

リリアさんはジークさんほどの身長はないが、その胸にはたいそう立派な凶器を備えており、それが密着することで俺の腕に当り形を変えている。

恥ずかしくてたまらないのか、俺の腕で顔を隠すような仕草も可愛らしく、ガリガリと理性が削られていく感じだった。

それぞれの長所を持つ美女に両腕を取られている状況は、まさに両手に花……完全に今の俺はリア充だろう。

しかし、そのことを楽しむ余裕なんてなく、両側から漂ってくる香りと温もりに包まれ、クラクラとする頭をなんとか冷静にと、そんなことばかりを考えていた。

いきなり理性に大ダメージを受けながら、俺は街行く人達の視線を感じつつレストランを目指した。

目的のレストランに辿り着くと、ジークさんとリリアさんはようやく俺の両手を開放してくれた。危なかった……なんかいろいろ危なかった。こういういかにも恋人ですみたいなシチュエーションも、意外と理性に大ダメージがあるものだ。

辿り着いたレストランは、大通りからは少し外れておりそれほど店内が広いというわけでは無かったが、綺麗でセンスのいいテーブルや椅子が並び、お洒落な感じだった。

お昼時だというのにあまり客が居ないのは気になったが

テーブルに座って、店員の持ってきたメニューを眺めてみると……なるほど、女性にお勧めというだけあって、卵や野菜を使った料理が多く、サラダの種類も豊富な感じだった。

勝手な偏見かもしれないが、女性のランチに向いてる品目……うん、ジークさんのイメージにはピッタリだと思う。

ただ、リリアさんは……どっちかって言うとお肉食べてそうなイメージが……。

「カイトさん? いま、なにか変なこと考えてませんか?」

「い、いえ!?」

……危ないところだった。危うく説教されるところだった。

やや焦りつつも注文を終え、雑談をしながら待っていると……他に客が居ないこともあって、すぐに料理が出てきた。

俺はオススメセットで頼んだのだが、オムレツにパン、サラダにスープとシンプルながら美味しそうな感じがする。

まぁ、男の俺としては少し少ない気もするが……足りなければ追加で注文すれば良いし、とりあえずいただいてみることにしよう。

軽く手を合わせ、まずはサラダからと思ってフォークをそちらに向け……俺は即座にフォークを引っ込めた。

……ミタクナイヤサイガアル。

煌々と存在感を示すように輝く緑の物体……細くカットされ、サラダに加えられているソレは、言いようのない恐怖を俺に与えてきた。

……ピーマンである……大事なことなのでもう一度言うが、ピーマンである。

どうにもならない。残念ながらこのサラダは諦める他ないだろう。ピーマンは無理だ。ピーマンマジ怖い。ピーマンなんて絶滅すれば良いのに……。

っと、そんなことを考えながらサラダを諦めようとしたタイミングで、横から伸びてきた手がサラダの入った皿を掴んだ。

「……すみません。カイトさん。私、実は『本当はこのサラダが食べたかった』んですが、注文を間違えてしまいまして……ワガママを言って申し訳ないですが、交換していただけたら助かります」

「え? ええ……」

「ありがとうございます」

そういって微笑みを浮かべ、ジークさんは俺のサラダと自分のサラダを取り換える。ジークさんはオススメセットではなく、サラダは個別に注文していて……俺の前におかれたのは、ごく普通のシーザーサラダだった。

皿を交換した後でジークさんの方を向いてみると、ジークさんはパチリとウインクをしてから、何事も無かったかのようにサラダを食べ始めた。

リリアさんも特にピーマンのことには触れず、にこやかに他愛の無い雑談をしながら食事を進めていく。

子供っぽい俺の味覚を馬鹿にすることもなく、むしろ優しく気遣ってくれる……改めてこの二人の優しさを実感した。

……うん、これは惚れ直す。ジークさんも、リリアさんも、本当に素敵な女性で、この二人と恋人だと思うと凄く誇らしい気持ちになった。

その日食べたサラダは、不思議と……いつもより美味しく感じた。

拝啓、母さん、父さん――気遣って、気遣われて……好意を向けると、好意を返してくれて……改めて、恋人って良いものだなって思ったよ。温もりって言うのかな? 一緒に居てホッと心が休まるような、そんな――とても楽しい食事だった。