軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

病んでて恐ろしい方ですとは言い辛い

リリアさんの執務室にて、フィーア先生から事情の説明が行われた。

その結果……現在は、修羅場と言って差し支えない状況になっている。

「離して下さい、フィーア先生! 私は、私はもう、限界なんです!!」

「駄目だよ、リリアちゃん! 『胃薬』をそんなに大量に飲むのは、医者として見過ごせないよ! 薬は用法用量を守って……」

「飲まなきゃやってらんないんですよ!!」

「お酒じゃないから! 飲んだところで精神が落ち着く作用はないからね!?」

フィーア先生が魔王という事実を知り、数度の気絶を繰り返した後、リリアさんは引き出しから『何種類もの胃薬』を取り出し、それを飲もうとしたところでドクターストップがかかった。

そして現在、胃薬を飲もうとするリリアさんと、それを阻止しようとするフィーアさんの構図が出来上がっている。

俺はというと、この状況に切り込むことは出来ず、ルナマリアさんが淹れてくれた紅茶を飲みながらことの成り行きを見守っていた。

うん、決してリリアさんが怖くて話しかけられないとか、そういうことではない……。

「……あっ、この紅茶いつもと少し違いますね。美味しいです」

「なにまったり休憩モードに入ってるんですか!? カイトさん!!」

「ひぃっ!?」

……しまった。つい現実逃避の言葉が口から零れ、それに反応したリリアさんの標的がこちらに移った。

リリアさんは目に涙を浮かべながらこちらに近付いて来て、流れるような動きで俺の胸倉を掴む。

「ぐぇっ……」

「どぉいうことですか、これは!! 分かってますよ! 今回の件は、カイトさんの責任じゃないのは、私だって分かってますよ! でも、限度ってものがあると思いませんか!!」

「り、リリアさん……くるしっ……絞まって……」

「本当に貴方はいったいどうなってるんですか!? なんで、この世界に来て半年足らずで、こんな次々ととんでもないことばかり引き寄せるんですか! 私もう限界だって言ったじゃないですかぁぁぁぁ!!」

「……」

「どこを目指してるんですか!? どれだけこの世界の深奥を私の元に集めたら気が済むんですか! まだあるんでしょっ! 絶対まだなにか隠してますよね!?」

胸倉を掴まれて前後に激しく許されながら……申し訳ない気持ちでいっぱいになるが……リリアさん、ちょ、ちょっと落ち着いて……マジで苦しい……落ちる。

完全にいっぱいいっぱいで、涙を流しながら叫ぶリリアさんの猛攻を受けつつ、俺は助けを求めるようにルナマリアさんの方に視線を動かす。

「……クッキー美味しいです。おかわりを所望します!」

「畏まりました。幻王様」

おい、こら馬鹿……お前なに当然のようにクッキー食べながらくつろいでんの? 助けてほしいんだけど……このままだと俺が気絶しちゃうんだけど!?

「り、リリアちゃん……落ち着いて、ミヤマくんだって悪気があったわけじゃ……」

「もうやだぁぁぁぁぁ!? カイトさん怖いぃぃぃ!! カイトさんがいじめるぅぅぅ!?」

フィーア先生がリリアさんを止めようと声をかけてくれたが、テンパっているリリアさんには届いてない。

リリアさんは子供のように泣きじゃくりながら、さらに勢いよく俺を前後に揺らす。

「リリアちゃん、聞いて! ミヤマくんの顔が青くなってるから……いったん手を離して……えっと……『グラビティフォール』!」

「ふぎゃっ!?」

フィーア先生の言葉と共にリリアさんは地面に叩きつけられ、俺の体が半ば強引に解放された。

ようやく解放され荒い呼吸で酸素を取り込む俺の前で、顔から地面に叩きつけられたリリアさんは再び目を回して気絶していた。

「……本当にごめんなさい」

「い、いえ、俺の方こそ、いつも迷惑かけてすみません」

フィーア先生の治癒魔法で回復したリリアさんは、どうやら冷静になってくれたみたいで、深く頭を下げて謝罪してきた。

いや、まぁ、なんというか……これまでの積み重ねが積み重ねだっただけに、文句など言えるはずもなく、むしろ俺の方こそ必死に謝罪する。

そのまましばらくリリアさんと「こちらこそごめんなさい」を繰り返し、ある程度互いに落ち着いてから話を再開する。

「……取り乱してしまってすみません、フィーア先生。お話は理解しました」

「う、うん……というか、リリアちゃん大丈夫? 今回の件じゃなくて、普段の状況……」

「……よい胃薬はありませんか?」

「う、う~ん……ストレスかな? 若くして公爵になったんだし、色々大変だとは思うけど、あんまり薬に頼っちゃ駄目だよ」

「……いえ、ストレスはストレスですが、原因はそこじゃないんです……」

「うん?」

遠い目……なにやら諦めの境地に達していそうな目で呟くリリアさんを見て、フィーア先生はよく分からなかったのか首を傾げる。

はい、ごめんなさい……だいたい俺のせいです。

「しかし、初代勇者様だけでなく魔王も生きていたとは……私の中の常識は、この半年で粉々になりました」

「あ、あはは……驚かせちゃってごめんね」

「いえ、フィーア先生はまったく悪くありません。貴女の人柄は私もよく知るところですし、いまさら1000年も昔のことをアレコレいうつもりもありませんよ」

「……ありがとう」

落ち着いたリリアさんは、穏やかな微笑みでフィーア先生の過去を受け入れると告げ、フィーア先生は嬉しそうにお礼の言葉を口にする。

「……まぁ、それはそれとして……カイトさんには、別件で話があります」

「……え?」

「私の直感が言っています。絶対カイトさんはまだ、なにか隠してると……具体的には、先の件で桁違いの魔力を感じました。アレなんですか?」

「……え~と」

「あっ、それは私も気になってた。ミヤマくん、あの方は何者なの? あんなとんでもない力を持ってる存在なのに、いままで見たことも無かったんだけど……」

二人の視線が俺に向けられる。

ああ、そうか……フィーア先生の件を説明し終えても、まだ俺には説明しないといけないことがあった。

そう、エデンさんのことだ……リリアさんには、さわりだけ伝えてあるが、フィーア先生にしてみれば正に未知の化け物だっただろう。

しかし、あの滅茶苦茶濃いエデンさんのことを、どんな風に説明するべきか……。

まだまだ話は終わらないことを実感しつつ、俺は二人に説明するために口を開いた。

拝啓、母さん、父さん――フィーア先生の件はリリアさんも、かなりテンパリはしたものの納得してくれた。あとは、エデンさんのことを説明するわけだけど……本当にどう説明しよう。こう、仮にも俺達が居た世界の神なわけで――病んでて恐ろしい方ですとは言い辛い。