軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

商才もあるんじゃなかろうか?

クロとフィーア先生の話はまだ続いているらしく、俺とノインさんは雑談をしながら時間を潰していた。

しばらく経つと、どうもお腹が空いてきた。

「なんだか、お腹が空きましたね」

「そうですね。私も大分激しく動いたので……お恥ずかしながら、空腹です」

フィーア先生の件が一段落したこともあって、張り詰めていた気も抜け、お腹は空腹を訴えている。

なにかお腹に入れたいところだが、ノインさんの手前友好都市に行くわけにはいかないし、かといって帰ってしまうのも気が引ける。

「う~ん。なにかありましたかね?」

マジックボックスの中に白米とたくあんぐらいならあっただろうと思い。俺がマジックボックスを掌に出現させると、丁度そのタイミングでアリスが姿を現した。

「……アリス?」

「……」

アリスは無言でどこからともなく木材を取り出し、一瞬手元が光ったかと思うと、そこにはなかなか立派な屋台が出来上がっていた。

屋台の看板には『アリスちゃんの美味しい出店』と書かれている。

「ちなみに価格は『出張費込み』の特別価格です!」

「……」

……コノヤロウ。少しの間に、随分と商売が上手くなったじゃないか……ご丁寧にカウンターには、二つ椅子まで置いてある。

どう考えてもぼったくる気満々に見えるが、悲しいほどにいまの俺達には効果絶大だ。

俺とノインさんは顔を見合わせ、どちらともなく諦めるように溜息を吐いてから、カウンターの席に座る。

「いらっしゃ~い。はい、こちらメニューです」

「……うん?」

「えっと……幻王様? これはいったい?」

「書いてある通りですよ?」

アリスが満面の笑顔で手渡してきたメニューには『なんでも・時価』とだけ書かれていた。コレはつまりアレか? 食べたいものは何でも作るけど、お代は品によって変動するってことか?

しかし、アリスが凄いのは知ってるけど……本当にどんな品物でも作れるんだろうか?

そんな俺の疑問を察したのか、アリスは不敵な笑みを浮かべて口を開く。

「おや? 疑ってますね? では、こうしましょう……私が言われた品を作れなかったり、美味しくなかったら『お代は結構』です。でも、美味しかったら……お代は『金貨一枚』ってことで、いかがですか?」

「金貨一枚って……またふっかけてきたな」

「幻王様を疑うわけではありませんが……私は、日本食にはうるさいですよ?」

俺とノインさんが要求した料理を作れなければ無料、作れたら金貨一枚……つまり百万円。アリスはよっぽど自信があるらしい。

しかし、勝算が無いとも思えない。この世界にない料理であれば、いくらアリスと言えども作れないだろう。

「……分かった。受けよう」

「流石カイトさん、話が分かりますね~それでは、どうぞご注文を……」

「で、では、私は『寿司』をお願いします」

俺が受けることを伝えると、アリスは深い笑みを浮かべて注文を促す。

その言葉に従ってノインさんが寿司を注文するが……コレはなかなか良い注文じゃないだろうか? この世界でご飯食は一般的ではない。

刺身ならハイドラ王国でも見たが、寿司は見た覚えがないし、美味しく作るには技術がいる。

これはノインさん、やったんじゃ……。

「ニギリズシなら、並と上と特上がありますけど、どれがいいっすか?」

「むぅっ……で、では、特上を……」

「はいはい」

しかしそんな期待を裏切り、アリスはあっさりと握りの種類はどれがいいか尋ねてきた。こ、コイツ……寿司を知っている。さ、流石は幻王というべきか……。

いや、まだだ。まだ味がどうか分からない。ノインさんは和食にはうるさいらしいし、そう簡単には……。

そんなことを考えた直後、ノインさんの前には綺麗な入れ物に入った握り寿司が並ぶ。

そしてそれを見たノインさんは……無言で懐から金貨を取り出して、カウンターに置いた。

「……まいりました」

「まいどあり~」

「え? の、ノインさん!? まだ食べてないですよ!?」

「……食べなくても分かります。コレ絶対美味しいやつです……」

かと思ったら一瞬で敗北した!? 和食党のノインさんが、見ただけで絶対美味しいと称する寿司……アリス、なんて恐ろしいやつなんだ。

「さて、カイトさんはなんにしますか~?」

「うぐっ……くっ、お、俺は……」

寿司は駄目か……後はなんだ? この世界に無い料理……思い出せ、俺だって半年間この世界を見て来たんだ。それにクロに貰ったガイドにも目を通したし、『アレ』が無いのは知っている。

「……『ラーメン』……」

そう、この世界で麺と言えばパスタ……正直それ以外の麺料理は見たことがないし、ラーメン屋が無いのも確認済みだ。

というのも、俺がラーメンを食べたくてクロのガイドブックを見て探したんだけど、見つからずに落ち込んだ覚えがあるから……これなら十分勝機は……。

「味はなににしますか? 塩? ミソ? 醤油? とんこつ? パイタン? タンタンメンでもいいですよ?」

「……なんっ……くっ……トンコツ醤油で……」

「麺の硬さはどうします?」

「……硬め」

「はいはい」

……駄目だ。コイツ知ってやがる……い、いや、まだ味がどうか分からない! もしかしたら美味しくないなんてことも……小数点以下の確率であるかもしれない。

そして少しすると、俺の前に美味しそうな香りと共にラーメンが置かれた。

「はい、どうぞ~サービスでチャーシュー多めにしときました」

「あ、ありがとう……いただきます」

食べざかりの男にとって嬉しい心遣い……駄目だ。コイツに勝てる未来が見えない。というか、レンゲと割り箸までついてるし……。

俺はレンゲを手に取り、恐る恐るスープを飲み……麺を一口食べてから……無言で金貨を取り出して、カウンターに置いた。

「……まいりました」

「まいどあり~」

悔しいけど超美味い!? ドヤ顔腹立つけど、文句も言えないぐらい美味い!!

久々のラーメンってこともあるんだろうけど、濃いめのスープが麺にからみ、厚めにカットされたチャーシューもジューシーで文句のつけようがない。

これは、完全な負けである……敗北して良かったとすら思うほど、完敗だった。

「……その、アリス」

「なんすか?」

「……もしかして、牛丼とかハンバーガーも作れたりする?」

「いまなら一つ『銅貨一枚』で、マジックボックスに入れてお持ち帰りOKですよ?」

「……高い。買う」

「まいどあり~」

一品一万円……非常に割高ではあるが、食べたい。

特に牛丼とかハンバーガーとか、時々無性に食べたくなるから是非欲しい。

「あっ、ちなみに和菓子も取りそろえてたりします! どら焼きとかもありますよ」

「買います!」

そしてノインさんも喰いついた!?

うん、もうこれ、駄目だ……完全にアリスの独壇場だ。けど、買っちゃう……勝てない。

拝啓、母さん、父さん――なんていうか、アリスのスペックの高さを思い知ると共に……戦慄もした。実はアリスって、あの雑貨屋での姿は演技で、本当は――商才もあるんじゃなかろうか?