軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『始まりと終わりの場所』

教会前の結界の内部。快人が通過したことを確認したゼクスは、戦いを止めて何度か手を叩く。

「いやはや、我等の負けですな。皆、ワシの我儘に付き合っていただき、感謝しますぞ。治癒魔法が使える者は、怪我をしている者の治療をお願いしますぞ」

「……」

快人が通過するなりアッサリと負けを認め、集まった魔族達に戦闘終了の指示を出していくゼクスに、リリア達はやや戸惑った表情を浮かべていたが、シアだけは驚くこともなく大鎌を引く。

「……『憎まれ役』は大変だな、死霊の大賢者?」

「ほほほ、いやはや、若者の背を押すのが年長者の務め……というのは良く言い過ぎですかな?」

「さあな、まぁ、芝居はへたくそだったな」

「おやおや、これは手厳しい」

のんびりとした口調で話すゼクスに、シアは微かに微笑みを浮かべながら告げる。

まるで先程までのゼクスの行動が、全て演技だったとでも言いたげに……。

「良くも悪くも家族という関係は近過ぎますらのぅ……だからこそ、難しいこともあります。ミヤマ殿には、後日改めて感謝をせねばなりませんな」

「気の早いことだ、まだこれからだろう?」

「いえ、ミヤマ殿なら大丈夫でしょう……事実、ノイン殿も吹っ切れたようですからな……下手な芝居をしたかいもありますな。いやはや、災厄神様も『ご協力』ありがとうございました」

「……なんのことか分からんな」

「また、御冗談を……貴女が本気で戦っていれば、我等など一瞬で無力化できたでしょう?」

「……チッ」

ゼクスがそう言って頭を下げると、シアは心底面倒そうな表情で舌打ちをするが、否定しないところを見ると手を抜いていたのは事実らしい。

そう、パワーバランスなどシアが参加していた時点で、すでに圧倒的に快人の側に傾いていた。

「貴女様のご慈悲に、感謝するばかりですな」

「……勘違いするな。私は確かに慈悲深い女神だ。助けを求められたら応える……が、助けを求めもしない大馬鹿をわざわざ救ってやるほどお人好しではない。私が協力したのは……あくまであの人間が『力を貸してくれ』と言ったから……初めから『三人』救うつもりだったあのお人好しのためだ」

「なるほど」

「……まぁ、結局……それすらも『ヤツの思惑通り』と思うと、腹が立つがな……」

「あぁ、やはりそうでしたか……」

快人が助けを求めなければ、そもそもこの件に関わるつもりなど無かったと告げた後、シアは今回の件には黒幕が居ると告げる。

そしてそれはゼクスも分かっていた様子で、特に驚くこともなく頷いた。

「……そもそも前提条件からして都合が良過ぎる。私好みの新作が今日発売されるという情報が神界に流れてきて、その場所が都合よくこの近くで……そこに初めて友人に敵意を向けられて消沈しているカイトが通りかかる」

「ですなぁ、ワシの元に情報を流すのも、あの御方なら容易いことでしょうな。それに絶妙のタイミングでの援軍……その中には別の国の国王までいらっしゃる」

「まぁ、そうだろうな……コレはやつが書いた筋書き、大方カイトも含めて『四人を救う物語』ってところか?」

「……それは誤解っすね」

「「むっ?」」

影で糸を引いた存在について話すシアとゼクスだが、その直後二人の傍にその話題の存在が現れる。

顔が見えない特殊なフード、鎖の付いたローブ……。

「……幻王ノーフェイス……やっぱりお前か」

「これは幻王様……して、誤解とは?」

「いえね。まず大前提として……ヒカリさんもフィーアさんも、私にとっては『どうでもいい』んですよ。ああ、勘違いしないでくださいね。私にだって情はあります……けど、それはまぁ、精々頼まれたら少し有利な条件で受けてあげるかな~程度のものっすね」

ローブについた鎖の音を響かせつつ、ノーフェイスはこともなげに告げる。

「……私が無条件、損得勘定抜きで味方するのなんてカイトさんただ一人だけ。だから、私は四人を救う舞台なんて用意してませんよ……『カイトさんにとって一番良い結果になる舞台』……それを考えてるに決まってるじゃないですか? 全部カイトさんのためですね~」

「……まぁ、そうだろうな。そうじゃなければ、とっくの昔にお前がなんとかしているか……」

「ええ、その通り。あの三人の関係をどうにかしようと思えば、出来ましたよ? する気が無かっただけです。まぁ、クロさんには恩もありますし、結果的にこうなったのは良かったですね」

「……死霊の大賢者もそうだったが、お前も気が早いな幻王。まだ結果がどうなるかなんて、確定していないだろ?」

あくまで自分が動くのは快人のためと告げるノーフェイスに、シアが静かに語りかける。

しかし、ノーフェイスはアッサリと、そんなシアの言葉を否定する。

「いえ、確定っすよ……少なくとも、フィーアさんがクロさんと会うことは、もう確定です」

「……ほぅ、それはなぜですか? 失礼ですが、根拠をお訪ねしてもよろしいですかな?」

「ええ、理由は単純明快……カイトさんが『切り札』を切ったら、もうその時点で勝ち確です」

「切り札、だと? アイツ、そんなものを持ってたのか?」

「はい。ゼクスさん的には助かったかもですね~もし、ゼクスさんがカイトさんを追いこみ過ぎて、カイトさんが切り札を切ってたら……全員無事じゃ済まなかったですよ?」

「それほど――なっ!?」

「これは……」

快人の持つ切り札がいかに強力かを語るノーフェイスに対し、シアとゼクスは半信半疑といった表情を浮かべていたが……直後にそれは一変する。

それは結界越しにさえ伝わってくる、次元の違う凄まじい魔力の奔流。

「馬鹿な!? なんだこの、魔力は……」

「こ、これがまさか……ミヤマ殿の切り札……ぐぅっ!? ま、魔力の欠片だけで押しつぶされそうな……」

「し、信じられん……この魔力の格は、シャローヴァナル様に匹敵するほどの……冥王以外に……そ、そんな化け物が存在するのか!?」

「おや? シアさんも知らないんすね……ってことは、もしかしたら最高神にも伏せられてるかもしれませんね。まぁ、ともかく……もう、分かるでしょ? この存在がカイトさんを味方する以上、勝ち目なんてないことはね」

現れたエデンさんを見てからのフィーア先生の行動は、あまりにも早かった。

即座に身を翻し、一切の迷いなき逃走……エデンさんに敵わないことを一瞬で悟り、逃げの一手を最速で打った。

しかし……。

「不敬」

「がっ……ぁっ……動けな……」

エデンさんが一言呟くと、フィーア先生は走りだそうとした姿勢のまま不自然に停止する。

そう、フィーア先生はエデンさんと戦っても勝てない、敵わないと判断して逃げようとした……しかし、その前提すら間違っている。

エデンさんが現れた時点で、フィーア先生はもはや戦うことすら叶わない。

「……エデンさん。俺達とフィーア先生を、『強制的にクロの元へ転移させる』ことは出来ますか?」

「容易」

俺がエデンさんを切り札とした最大の理由は……以前エデンさんがアリスと戦った時に、アリスを遥か遠方に強制転移させたことを覚えていたから。

だから、エデンさんならフィーア先生の意思なんて関係なく、一切傷つけずにクロの元へ連れていくことができるんじゃないかと、そう思って尋ねると、エデンさんは簡単なことだと頷く。

「……フィーア先生。こんな力づくになって申し訳ありません。後でいくらでも恨みごとは聞きます。エデンさん、お願いします!」

「承知」

俺の言葉をキーにして、エデンさんの翼から一瞬光が放たれると、景色が一瞬で切り替わった。

教会の中だった筈が、穏やかな風を感じる小高い丘へ……そして、そこに目的の人物は立っていた。

巨大な石碑の前に一本の刀が刺さっており、その前でクロは石碑を眺めながら立っていた。はて? ここはどこだろう?

「……ここは、まさか……」

「ノインさん?」

「ここは、かつて魔王城があった場所で、友好条例が締結された場所でもあります。私にとっても、フィーアにとっても……戦いの始まりと終わりの場所……『勇者の丘』と、いまはそう呼ばれている場所です。で、でも、なんでここにクロム様が……」

そうか、ここが……リリアさんから聞いた。ノインさんのメッセージと愛刀が置かれている場所なのか。

それは確かに今の状況に相応しい場所かもしれないが、なんでそこにタイミング良くクロが居るんだろう?

そんな疑問が頭に浮かぶと、クロはこちらを振り返らないままで言葉を発した。

「……カイトくんや、ノイン、ゼクス……皆が動いてるのは知ってたよ。だから、ボクはここで待つことにした。カイトくんのこと、信じてるから……ボクは余計なことをせず、ここで待つのが一番だって思った」

穏やかな口調でそう告げた後、クロはこちらを振り返る。

エデンさんの魔力拘束がまだ残っているのか分からないが、フィーア先生は動かない。いや、動けないのかもしれない……真っ青な顔で、微かに震えているのだけは理解できた。

「……久しぶりだね。フィーア」

「……クロ……ム……様……」

ずっと、この瞬間のために動いてきた。結果がどうなるかはまだ分からない……ただそれでも、クロとフィーア先生は、いまこの瞬間……1000年ぶりに、再会することになった。