軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

心強い援軍が駆け付けてくれた

シアさんは俺の協力を約束してくれると、そのまますぐに身を翻す。

「……急ぐぞ、おそらく時間は限られている」

「え? ど、どういうことですか?」

「……初代勇者の言葉を、額縁通り受け取り過ぎだ。なぜ、初代勇者がこのタイミングで妨害してきたか……お前を阻止すると言っても、不眠不休で永遠と居られるわけではないだろう? なら、本当の目的はなんだ?」

「……時間、稼ぎ?」

早足で歩くシアさんの後を追いながら、シアさんの言葉に聞き返す。

「あくまで予想だがな……魔王はこの街から姿を消す気だ」

「……なるほど」

「すぐに消えなかったのは、担当患者の引き継ぎのためか……ともかく、時間との戦いだ。姿を消されれば、幻王に頼らざるを得えなくなる……六王の力に頼ってしまうということは、お前にとって一種の敗北だろう?」

「はい……」

「……まぁそう、気負うな。少なくとも、初代勇者が妨害しているいまなら、まだ、確実に魔王は居る」

人通りなんてまったく無い裏道をすり抜けるように通りながら、シアさんは話を続ける。

「先に言っておく、先程はお前を試すために聞いたが……この件に関して、そもそも神界及び神族はまず関わらない。最高神様の助けは期待できないと思っておけ」

「え? そ、そうなんですか?」

「……暗黙の了解というやつだ。お前が関わろうとしているこの問題は、この世界で一種のタブー……まぁ、そもそも知っている者自体が少ないが、最高神様も六王もこの件には不干渉を貫いている」

「……え、えっと……シアさんは、その、俺からお願いしといてなんですが……大丈夫なんですか?」

元魔王であるフィーア先生の件は、やはりというべきかかなりデリケートな問題らしい。

だからこそ、神族であるシアさんが俺に手を貸しても大丈夫なのかと尋ねると、シアさんはこちらを見てにやりと笑う。

「言っただろう? 『暗黙の了解』だ……別にシャローヴァナル様から命があったわけじゃない。それに私は、元々神界でも『変わり者』だからな、いまさらそれが一つ増えてもたいした問題じゃない」

「……シアさん」

「さて、無駄話は終わりだ……着くぞ」

気を引き締めるような言葉と共に、広い道……教会と診療所の向かいに出る。

やはり人通りは無く、診療所の前にはノインさんの姿だけがあった。

ノインさんは俺達を見ると、即座に立ち上がり、日本刀を手に持ちながら話しかけてきた。

「……どうして、戻ってきたのですか?」

「すみません。ノインさん……やっぱり俺は、諦められません」

「くっ……なんで分かってくれないんですか!? もうこれ以上フィーアを苦しめないでください!」

「でも……」

「なにも私は、貴方が間違っていると言っているわけではありません! 可能性を感じていないわけでも……いえ、むしろ貴方ならもしかしたらと、そう思っています……でも、可能性は決して高くない……失敗すれば、フィーアはいま以上の傷を負う……」

「……ノインさん」

確かに俺のやろうとしていることは、100%成功するという確証があるわけではない。この世に絶対確実なんてないと言ってしまえばそれまでだが、ノインさんはそのリスクを甘受できないとそう言っている。

だからと言って、俺もいまさら引くつもりはない……ノインさんに反論しようとすると、丁度そのタイミングで愉快そうな笑い声が聞こえた。

「ふ、ふふふ……はははは!」

「……シアさん?」

「……何者ですか?」

うん? ノインさんは、シアさんのことを知らないのか? そういえば表にはほとんど出ないって言ってたし、災厄神と言う存在は知っていても、直接会ったことはないのかもしれない。

そんなことを考えていると、シアさんはひとしきり笑った後で俺の方を向いて笑みを浮かべる。

「……喜べ、カイト。前言撤回だ……お前も馬鹿だが、アイツの方が救いようの無い大馬鹿だ」

「なっ……いきなり、なにを……」

「どんな心持ちで立っているのかと思えば……ごっこ遊びなら余所でやれ」

「……どういう、意味ですか?」

煽るように話すシアさんの言葉を聞き、ノインさんは怒気を強めながら聞き返す。

しかしシアさんは全く気にした様子もなく、笑みを浮かべたままで言葉を続ける。

「単純な話だ。てっきり私は、間違いに気付いていない馬鹿なんだと思っていたが……実際は、気付いた上で甘っちょろい友情ごっこに酔っている大馬鹿だったと、そういうわけだ」

「……貴女に、一体なにが……」

「『お前になにが分かる』か? 思考停止した馬鹿の常套句だな……やれやれ……囀るなよ。小娘」

怒りに震えるノインさんに、笑みを消したシアさんが冷たく告げる。

「ああ、そうさ。この件に関しては、私もこいつも部外者……だが、当事者のお前たちはなにをしていた? 1000年、間違いになんてとうに気付いているんだろう? 正そうとしたのか? 対峙したのか? なにもしていないのなら……それは逃げているのと同意だと、理解しておけ」

「ぐっ……」

「友が道を誤ったのなら、一緒に心中してやるのが友情だとでも思っているなら……そんな甘え果てた関係は、今すぐやめてしまえ!」

「ッ!?」

「友の過ちと向かい合い、それを否定する勇気もないお前に比べれば、己の我で引っかき回そうとするコイツの方が何倍もマシだ」

「……」

「そんな迷いだらけの中途半端な刃が…… 神(わたし) に届くと思うな!」

その言葉と共にシアさんは巨大な鎌を取り出して構え、ノインさんもそれに反応して日本刀を構える。

そのまま戦いが始まるかに思えたが……少しして、シアさんが表情を歪めた。

「……ちっ」

「シアさん?」

「おかしいとは思っていたが……空間魔法による『大規模結界』か……」

大規模結界? その呟きを聞いて周囲を見渡すが、特に違和感は……いや、待てよ? さっきも少し思ったが、なんでこんな昼間なのに人の気配一つないんだ?

ここは大通りから外れているとはいえ、裏路地と言うわけではない。この時間帯ならそれなりに人通りがあってもいいはずなのに……。

いや、しかもそれだけじゃない……いつの間にか『教会と診療所が消えている』……まるでそこだけ外して、空間が切り取られたかのように……。

「……勇者だけじゃなく、『伯爵級』もいたとは……誤算だった」

「伯爵級?」

「ああ、冥王の配下でこの規模の空間魔法を行使できるのは……なぁ? 『死霊の大賢者』」

「いやはや、誤算だったのはこちらも同じこと……よもや、災厄神殿が出てこられるとは……これは骨ですなぁ」

シアさんが虚空に向かって呼びかけると、そこの空間が渦のように歪み、豪華なマントと礼服を着たリッチ… …ゼクスさんが現れた。

「ゼクスさん……」

「ゼクス様!? な、なぜここに……」

うん? 伏兵かと思ったら、ノインさんもゼクスさんが居ることには気付いてなかった? いや、でもシアさんが言うには大規模な結界を張っているらしいし、味方とは思えない。

「水臭いですな、ノイン殿……一声かけてくださればよいのに……まぁ、ミヤマ殿だけであれば出てこないつもりでしたが、災厄神様となると……いまの貴女には少々荷が勝ち過ぎていますな」

「……意外だな。お前ほどの高位魔族が、そちら側に着くとは……」

「どちらを重要視するかですなぁ……リスクとそれで得られるものを量りにかけた時、そのどちらを重要視するかはそれぞれでしょうな……どうも年を取ると保守的になってしまいまして、残念ながら『我々』は、リスクを重要視してしまうのですよ。故に、ノイン殿の側につかせていただきます」

「……それで、結界……まて、我々?」

ピリピリと肌を刺すような空気の中、シアさんとゼクスさんが言葉を交わす。

その中で告げられた我々は、ノインさん側につくという言葉……複数形と言うことは、まさか?

そんな考えを肯定するように、次々にゼクスさんの周囲に魔族が現れ始める。

その中にはアハト、エヴァ、ラズさんと……俺の見知った顔もあった。

「この結界は少々特殊でしてな。空間隔離結界の一種ですが、中から外へ出ることは困難ですが、外からは簡単には入れるようになっております……まぁ、それでも最低限の実力が無ければ、入ってくることはできませんので、一般人を巻き込むことはありません」

「……」

「ああ、安心してください。この結界は空間を複製して隔離するものですので、ここの建物を壊したとしても実際に影響はありませんよ。フィーア殿の住処を消したのは、まぁ軽い茶目っ気のようなものですな」

「……また随分と集まったな。伯爵級が5体……子爵級、男爵級……爵位級でない高位魔族も合わせると、数えるのが馬鹿らしい数だ」

シアさんの言う通り、目に見えるだけでとんでもない数の援軍……100を優に超える高位魔族。

驚愕する俺の方に視線を動かした後、ゼクスさんは淡々と語り始める。

「我々は、ずっと後悔しておりました……1000年前、フィーア殿を一人で思い悩ませてしまったことを……故に、今回は家族としてフィーア殿を援護させていただくことにします」

「しかし、まぁ、随分と揃えたな……そんなに、この人間が恐ろしいか?」

「……ええ、恐ろしいですよ。ミヤマ殿、ワシは貴方が怖い……」

「……え?」

「今回の件、貴方が動くのは予想が出来ておりました。だからアイン殿にも助力を願った。彼女が来て下されば、それですべて片付いたはずでした……」

ゼクスさんの言葉を聞き、居並ぶ魔族を見渡してみるが……アインさんの姿はない。

「アイン殿にはこう言われました。『もしその構図で戦いになれば、私は迷うことなくカイト様の味方をします。私が家族として出来る最大の譲歩は……いまの話を聞かなかったことにするだけ、二度目はありません』……とね。まったく、貴方は凄まじい」

「……なるほどな。それで、質より量か……舐められたものだ。この程度の数で私に勝てると、本気でそう思っているのか?」

「いえ『思っておりません』よ?」

「……なに?」

挑発するようなシアさんの言葉に、ゼクスさんはアッサリとシアさんに勝てないことを認める。

流石のシアさんも怪訝そうな表情に変わるが、セクスさんは気にした様子もなく言葉を続ける。

「貴女は名こそ広く知られておりませんが、その実力は六王様に匹敵します。我らが何体集まろうと、勝てないのは道理ですな……ですが、そんな強い貴女にも『弱点』がある。その為の、量ですよ」

「……ちぃっ」

シアさんの実力が六王級だと語った上で、ゼクスさんはそんなシアさんに弱点があると告げる。

それが的外れな言葉ではないことは、シアさんの忌々しげな舌打ちからも理解できた。

「……貴女は、ワシの知る限り、神族の中で最も優しく慈悲深い。助けを求める者には手を差し伸べ、悩めるものには助言を与える……そしてなにより、貴女は敵対した相手でも決して殺さず、重傷を負わせずに無力化することに矜持を持っておりますな」

「……」

「貴女に勝つことはこの戦力では不可能です。しかし、実力もバラバラでこの数……いかに貴女とはいえ、殺さずに無効化させるには、しばし時間がかかるのではないですか?」

「くっ……大した性格の悪さだ」

「貴女の優しさを利用するような策……罵倒は甘んじて受け入れましょう。非力な身ですので、貴女を止めるためにはなりふり構ってはおれんのですよ」

シアさんが大きな力を持ち、優しい方だからこそ……手加減をしながらこの数を無力化するのは難しい。

そもそもゼクスさん達の目的は、シアさんに勝つことじゃなくて時間稼ぎ……長期戦になればなるほど、こちらは不利になる。

「さぁ、どうします? ミヤマ殿……それでも、たった二方で挑んできますか?」

「……」

どうする? 『切り札』を使うか? いや、ここで使えば、フィーア先生と話すのが困難になってしまう。

状況は悪く、必死に頭を動かしながら打開策を考えようとした時……静かな、それでいて力強い声が響いてきた。

「……二方だけ、というわけではないみたいですよ?」

「ぬっ……」

「いえ、たまたま王城に用事で出向いていたのですが……その帰りにカイトさんを見かけましてね。なにやら深刻そうな表情だったので後を追って来ましたが……いや、本当に驚くような状況ですね」

掌に出現させたマジックボックスから、その細身には不釣り合いな大剣を取り出し、もの凄く頼りになる方がきてくれた。

「……正直、まったく事情は分かりません。が、どちらを味方するかは、考えるまでもありませんね」

「り、リリアさん!?」

「……手を貸しますよ、カイトさん。なんと言っても、私は貴方の……恋人ですからね」

拝啓、母さん、父さん――ノインさんと対峙した俺とシアさんだが、そこにゼクスさんとクロの家族まで現れ一転して不利になってしまった。しかし、運は俺を見放してはいないみたいで――心強い援軍が駆け付けてくれた。