軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

盛大な自爆に巻き込まれた

アリスに案内されて辿り着いた場所は、確かに綺麗な造りはしていたが、高級料理店……どころか、普通の料理店にすら見えない場所だった。

豪華な装飾が付いている扉は、確かに高級店っぽいし、綺麗な細工が施され外から中が見れないようになっているガラス窓もいい雰囲気だ……しかし『小さい』……いや、本当に小さい。

正直、これなら大きめの屋台の方が勝っていそうな気さえするほど、この店は小さかった。

「……あ、アリス? 本当にここなのか? なんか、外から見た感じだと、テーブルと椅子を一個ずつ置いたらスペースなくなりそうなんだけど……」

「あ~それに関しては大丈夫ですよ」

むぅ、アリスは不安そうな俺を見ても平然としている。

あっ、そうか! もしかして魔法的ななにかで、中は超広いとか、そんな感じなのかもしれない。

そう思いながら店の扉を開けて中に入ると、すぐに自分の予想が外れていたことを理解できた。

店の中は外から見た通りの広さ……だった。しかし、なるほど……確かにアリスの言う通り、大丈夫そうだ。

「……なるほど、転移魔法の魔法具か」

「ええ、その通りです」

そう、店の中には案内らしき数名の人と、巨大な魔水晶が付いた魔法具があった。

つまりここは、本店へ繋がる入り口みたいなもので、この魔法具で転移して入店する形になっているってことだろう。

転移の魔法具は非常に高価なわけだし、超高級店と言うのも頷ける。

「いらっしゃいませ、お客様……恐れ入りますが、当店は『完全予約制』となっておりますが、ご予約のお客様でしょうか?」

「……え?」

完全予約制? それってつまり、事前に予約してないと入れないってことだよね。

え? どうすんのこれ? ……いやいや、まてまて、アリスの紹介できたわけなんだし、当然アリスは予約を……。

「予約? 取ってないですね」

「……」

予約してないのかよ!? じゃあ、入れないじゃん!?

「そうですか……折角ご来店頂いたところ、大変申し訳ありませんが……」

案内の老紳士が丁重な口調で、やんわりと「お引き取りを」と告げようとした瞬間、アリスがパチンと指を鳴らす。

「……これは、失礼いたしました。ノーフェイス様でしたか」

「一番いい席で……問題無いすよね?」

「勿論でございます。直ちにご用意いたします」

なんか、アッサリと解決してる……え? そういうこと? この人も、アリスの配下ってこと?

老紳士はアリスに深く頭を下げてから、転移の魔法具があるところまで向かい、そこで再び頭を下げ、その姿勢のまま待機する。

それを見てから俺とアリスは魔法具の前に移動し、本店へと転移する。

転移してた店は非常に広く、上品で高級そうなテーブルや椅子が並んでいて、いかにも超高級店って感じだった。

しかもどうやら、ここは海辺みたいで、大きめの窓からは夕暮れに染まる海が一望できた。

そして俺とアリスが案内された席は、店の二階のバルコニーみたいなところで、素晴らしいパノラマだった。

「なぁ、アリス……あの人が配下ってことは分かったけど……一番いい席とか、そんなの頼んで大丈夫なの?」

「そりゃ、大丈夫ですよ。この店の店員『全員配下』ですから」

「……え?」

「まぁ、ぶっちゃけると、ここ『私の店』です」

「えぇぇぇ!?」

あまりにも凄い席であることに戸惑いつつ、尋ねてみると……アリスは当り前のようにここは自分の店だと言ってきた。

「飲食店ってのは、情報を集めるのには便利ですからね。他にも何店舗か配下に運営させてますよ」

「そ、そうなんだ」

「まぁ、アリスちゃんのメインは雑貨屋ですけどね!」

「全然、全く、これっぽちも、売れてないのに」

「そこはもうちょっと、オブラートに包んでもいいんじゃないっすか!?」

雄大な景色を眺めつつ、アリスと雑談を交わしていると、コック服に身を包んだ女性が近付いてきた。

「お話しの中失礼します。ノーフェイス様、本日はようこそおいで下さいました」

「あ~挨拶とかいいっすよ。美味しいもの持ってきてください」

「お任せを、ノーフェイス様に比べれば、まだまだ未熟なれど、最高の料理をご用意いたします」

「期待してますよ」

恐らく料理長だったんだろう。オーナーであるアリスに挨拶にきたみたいだが、アリスの反応はあっさりしていた。

そして次にピシッとしたボーイが着るような服に身を包んだ女性が、カートを押しながら近付いてきた。

カートにワインが置かれているので、ソムリエかな?

ソムリエの女性は席の近くにくると、一礼してからワインを開け、香りを確かめてから、アリスの前にグラスを置いて少しだけ注ぐ。

「……テイスティングを」

「どれどれ……」

アリスは慣れた手つきでグラスを傾け、優雅に色と香りを確認した後でそれを口に含む。

「……ん~イマイチですね。シャローグランデはないんすか?」

「申し訳ありません。流石に、シャローグランデは……」

「……シャローグランデ?」

ワインの名前だろうとは思うけど……高級ワインなんてロマネコンディぐらいしか名前を知らない俺には、全く分からない。いや、そもそも、この世界のワインの名前が俺の世界と一緒とは限らないし、どちらにせよ聞かないと分からないか。

「シャローヴァナル様が、友好条約が結ばれた時に記念として神界から贈られたワインですね。神界にしか存在しない果実から作っているので、もの凄く希少です。一本10000000Rくらいですかね? 勇者祭の神界主催の催しの賞品ですので、十年に一本。現在世界に100本以下しか存在しないワインです」

「10000000R!?」

日本円にして10億円……もうワインの価格じゃないよ。豪邸の価格だよ。

しかも数十年に一本しか出回らないとか、それ店で頼むワインじゃない……無茶振りするなよ幻王。

でも、そんな凄いワインなら、一度ぐらい飲んでみたいものだ。

そんなことを考えていると、突然テーブルの上に一本のワインが現れ、それを見たソムリエの女性が震える声で呟く。

「しゃ、シャローグランデ……」

なるほど、これが話に出ていたシャローグランデか……うん、なんで突然目の前に出てきたのかな? 予想は出来るし、なんか「快人さんへ」って書かれたメッセージカード付いてるし……。

「どうやら、シャローヴァナル様からの贈り物みたいですね。ありがたく頂きましょう!」

「……アリス、お前……確信犯だろ」

「はて? なんのことやら、私はカイトさんに最高のワインを飲んでもらいたいな~って思っただけですよ」

嬉々としてシャローグランデを手に取るアリスの様子を見て、この展開がアリスの思惑通りであることを理解した。

アリスはワザとこの店にはない最高級ワインを話に出した。そして俺がそれに興味を持てば、シロさんから直送されてくると……なんてやつだ。

アリスの行動に呆れつつも、折角シロさんがくれたワインなので、頂いてみることにする。

ソムリエの女性に注いでもらい、ワイングラスを手に持って……アリスと乾杯する。

「乾杯」

「乾杯です」

軽くグラスを合わせて微笑みあい、そのワインを口に含んで……衝撃が走った。

そのワインは一口飲んだだけで、まるで体中に染み渡るような深い味わいを与えてくれる。

ワインに詳しくない俺でも、最高のワインだとすぐにわかるほど、あまりにも美味しい……。

「……す、すごいな……なんて深く芳醇なワイン……」

「でしょ? いや~流石は世界最高のワイン。素晴らしいですね。ん~幸せです!」

「ああ、確かにこれだけ美味しいワイン……それに、景色も良いし」

「日が沈んで星が出てきましたね。もう少しすれば月も綺麗に見えそうです」

美味しいワインを飲みながら、夜の静けさに染まり始めた海を眺める。

「……本当にいい雰囲気だな。ここって、どの辺りなの?」

「シンフォニア王国の南です。この海の先にハイドラ王国がありますね」

「へぇ、なんかこれだけ綺麗だと、観光地としても人気がありそうだな」

「ええ、この近くには『コテージ』もありますし、そこは夜10時ぐらいに、綺麗に窓から『月明かり』が差し込んでムードが……海辺のコテージ……月明かり……」

「……」

なんだかアリスの口にした言葉には聞き覚えがあった。そして、アリスもなにかに気付いたような表情を浮かべ……直後に、顔がワインよりも赤くなる。

たぶん、というか間違いなく……デートの最中に「初めては、海辺のコテージで窓から月明かりが差し込むシチュエーション」と言ったのを思い出したんだろう。

「ち、違います!? そ、そそ、そいういうつもりで、ここ、ここにきたんじゃ……ああ、あくまで、お、美味しいディナーを……だ、だから、そそ、それは、あの、ええと……」

「お、落ち着けアリス。大丈夫だから……」

「ま、まだ早いんです!! も、もっと時間を開けてから……だ、大丈夫です。わ、私の初めては、いずれちゃんとカイトさんに……」

「おいっ!? 落ち着け馬鹿!?」

「ひゃぁっ!? か、肩、つ、掴んで……あっ、だ、駄目……まだ心の準備が……で、でも、優しくしくれるなら……」

「待て!? それ以上変なこと言うな! ここ、レストランだから……頼むから、戻ってこい!!」

完全にテンパってしまったらしく、大変危険な発言をし始めたアリスを慌てて止めようとするが、余程混乱しているのか全然正気に戻ってくれない。

やめてくれぇぇぇぇ!? 一般の席からは離れてるっていっても、他の客はいるから! 注目集めてるから!?

ちょっ!? 震えながら目を閉じるな! なにさせようとしてるんだお前はぁぁぁぁ!!

拝啓、母さん、父さん――アリスに案内されて辿り着いたレストランで、綺麗な景色を見ながら美味しいワインを頂いた。しかし、アリスが何気なく呟いた言葉で、少し前の自分の発言を思い出してしまい。結果として――盛大な自爆に巻き込まれた。