軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アリスを女の子として意識しているみたいだ

昼食を食べ終え、おおよそ一回の食事で使うとは思えない金額を支払ってから、店の外に出る。

「いや~美味しかったです!」

「そ、そうか……腕が腱鞘炎になりそうになったかいもある……かな?」

「そこはもうちょっと、可愛いアリスの笑顔を見れたんだし、安いものさ、キリ。とか、そんな感じに決めてくださいよ」

「……食べた量は全く可愛くないけどな」

おどけて見せるアリスに溜息を吐きつつ、自然な動作で手を繋いで歩き始める。

アリスも流石に手を繋ぐ事には慣れてきたのか、開始直前のころみたいな緊張はなくなっている。まぁ、相変わらず頬はほんのり朱に染まってるんだけど……

「ん~これは俄然ディナーが楽しみになりましたよ! ディナーはどんな店に行くんすか?」

「たった今、昼食終えたばっかりなのに、もう夕食の話しか?」

「あはは、だって楽しみですしね」

「それより先に、夕食までの時間にどこに行くかを決めた方が良い気がするな」

現在俺達が居るのは、普段俺がウロウロしている区画からはかなり離れた場所であり、正直俺はこの辺になにがあるかは知らない。

男としてリードしたいと思う気持ちはあるが、残念ながら知らないものを案内は出来ないので、素直にアリスに相談する事にした。

俺の言葉を聞いたアリスは、少し考えた後……なんだかロクでもない事を思い付いた感じで、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

「つまり、アレですね。カイトさんは『宿屋街』の場所を知りたいと……そういう訳ですね!」

「……は?」

「私の体に野獣の本能を解き放って、食後の運動にするつもりなんでしょう……仕方ないですねぇ、宿屋街は反対の通りですよ」

「……」

なんかデジャヴを感じる言い回しだ。ああ、そう言えばアルクレシア帝国に言った時も、そんな感じの冗談を言って俺にベルをけしかけられてたっけ?

……ふむ、一発ゲンコツしても良いけど、むしろこういう悪ふざけをしている時のアリスには、もっと効果的な攻め方がある事を、俺は既に学んでいる。

「……そっか、じゃあ、そうしようか」

「えっ!?」

「あっちの通りだよな? よし……」

「あっ、わっ、まっ……だ、駄目ぇぇぇ!?」

アリスのおふざけに乗る振りをしながら、手を引いて歩きだそうとすると、予想通りアリスは大慌てになる。

「……うん? どうかしたのか? 宿屋街に行くんだろ?」

「だ、だだ、駄目です! そそ、そういうのはまだ早いというか……こ、心の準備が……」

「アリスの方から言ってきたんじゃないのか?」

「そそ、それはそうなんですけど、あ、アレはあくまで冗談というか……」

分かりやすいほど動揺するアリスが本当に可愛らしく、ついつい意地悪な会話を続けてしまう。

俺にズルズルと引っ張られながら、アリスは顔を茹でダコみたいに赤くして、わたわたと手を動かしながら必死に俺を説得しようとする。

「そ、そりゃ、い、いずれは、そそ、そうなると思いますし……わ、私は、元人間ですから、そそ、そういう方面にも理解はある、つつ、つもりですが……そういうのは、も、もっと段階を踏んで……」

「ふむ、段階って例えば?」

「そ、それはほら……や、やっぱり、初めては……月明かりの差し込む、海辺のコテージに二人っきりでとか……そういう状況になってから……」

「……」

意外とロマンチストだなアリスって……どうも、長い事恋愛をしようとしてもできなかった事もあって、そういうコテコテな感じの、良い雰囲気ってものに憧れがあるのかもしれない。

たぶんだけど、結婚式は絶対に海辺の教会が良いとかいうタイプだ。

「う~ん。流石にその条件を満たす場所は、すぐには思い浮かばないな」

「で、でしょ!? だ、だから、そういうのは、もっと互いに……あ、ああ、あ、愛を深めてから、ゆっくりと……」

愛というのがよっぽど恥ずかしかったのか、何度もどもりながら必死に、もっと時間をかけて愛を育もうと告げてくる。

正直言ってそれには賛成だし、あくまで現在の俺はアリスをからかってるだけなので、本人に心の準備が出来ない内に強要する気なんて全く無い。

からかうのはこの辺りにしておこうかと思いつつ、俺は足を止めてアリスに声をかける。

「……たしかに、アリスの言う通りだな。焦る事なんてないよな」

「そ、そうです! じ、時間はいっぱいありますから……その、だから……きょ、今日のところは……キスまでで、お願いします」

「え? あ、ああ、了解」

もじもじと恥ずかしそうに顔を俯かせながら、キスならしても良いと告げるアリスを見て、心臓が大きく跳ねる。

演技だった筈なのに、なんか変に恥ずかしくなってきた……やばい、このままじゃアリスの顔がまともに見れなくなる。

気恥ずかしさが大きくなってきた俺は、それを誤魔化すようにネタばらしの言葉を口にする。

「……ま、まぁ、さっきのはちょっとアリスをからかっただけなんだけど……」

「にゃっ!? ……ひ、酷いですよカイトさん! 私の乙女心を弄んだんですね!?」

「ごめん……っていうか、最初にからかってきたのはアリスだろ?」

「うぐっ……そ、それは……」

俺にからかわれた事を知ったアリスは、怒ったような表情を浮かべるが……そもそも自分が最初に言い出したという事を指摘され、反論できずに言葉を引っ込める。

そして俺達は、ゆっくりと無言で歩きだす。別に俺もアリスも怒ってる訳ではなく、単純に恥ずかしくてなにを言えばいいか分からない感じだ。

そのまましばらく足を進めていると、ふと俺の頭にある疑問が浮かんだ。

「……そう言えば、アリス」

「な、なんですか?」

「比べるまでもなくアリスの方が遥かに強い訳だし、本当に嫌なら簡単に振りほどけたんじゃ……」

「~~!?」

そう、先程俺はアリスを引きずるように連行しようとしていたが、よくよく考えてみれば、アリスが本気で抵抗していたら俺の力で動かせる訳が無い。

だけど、アリスはずるずると俺に引きずられた……つまり、それって……殆ど抵抗して無かったって事じゃ……

俺の質問を聞いたアリスは、一度顔を俯かせ、聞き取り辛いほど小さな声で呟く。

「……い、嫌だなんて、い、言った覚えはないですし……」

「え?」

「な、なんでもないです!?」

「アリス、今なんて?」

「し、知りませんっ!?」

「ちょっ、アリス!?」

アリスは捲し立てるように早口で告げ、プイッと顔を逸らしてしまう。

その反応が、あまりにも可愛すぎて、微かに聞こえた発言も相まって、繋いでいる手がやたら熱くなった気がした。

拝啓、母さん、父さん――やはり恋人同士になったという事で、以前と似た内容の会話でも結果が変わってきたりするし……俺の方も認識が変化しつつあるのか、なんだか妙に――アリスを女の子として意識しているみたいだ。