軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

照れ隠しなんだろう

朝食を食べ終えた後、アリスとのデートに出発する。

一応名目としては、以前約束した豪華な食事をご馳走するというものだが、まだ昼食までは時間があるし、折角の機会なのでアリスと一緒に色々見て回る事にした。

「カイトさん、食べ物の露店があるのはあっちの通りですよ?」

「……今食べたばっかりだろうが……」

「私は他人のお金であれば、いくらでも食べられます!!」

「……」

いつも通りの服装に仮面を付けたアリスが、渾身のドヤ顔で小さな胸を張る。

うん、どうやらすっかり本調子に戻ったみたいで、いつも通りのアリスって感じだ。

「ま、まぁ、それは冗談として……どうします? 人形劇でも見ます?」

「人形劇? どこかに劇場みたいなのがあるの?」

「あ~いえ、ちょっと歩いたところに吟遊詩人とかがよく集まる広場がありまして、そこで大抵二つ三つはやってますよ。おひねり制です」

「へぇ、この街に来て結構あちこち回ったと思ってたけど、そこは知らないな」

芸術広場とかそんな感じの場所って事だろうか? 俺もシンフォニア王国の王都に住んで、そろそろ半年が経ち、色々な場所に行ったと思ってたけど……流石にこの広い王都の全てを見る事なんて出来ず、行った事のあるエリアってのは、結構限定されているかもしれない。

「商店や露店がある区画からは離れてますからね。リリア公爵の屋敷からだと、居住区画を超えないといけないので、あまり行く機会はないかもしれません」

「ふむ……って、ちょっと待った。居住区画を越える? それって、俺の認識が間違って無かったら、王都の中心から考えて、こことは『真逆』の位置にあるんじゃ……」

「ええ、そうですよ?」

どうやらアリスの言っている場所は、王城を中心に考えて、リリアさんの屋敷とは正反対の位置にあるらしい。

おかしいな……アリスはさっき、ちょっと歩いたところって言ったよね? 確実に言った。

しかし、どうイメージしてみてもちょっとって距離じゃない……アリスの感覚でって事!?

王都はかなり大きい都市だし、人間の俺にはちょっと徒歩ではきつ過ぎる距離だと思うが……

「なぁ、アリス……どうやってそこまで行くの?」

「ああ、それは任せてください!」

おぉ、なんか自信満々な感じだ。って、それもそうか、俺は行った事が無くても、アリスはその場所を知ってる訳だし、転移魔法で移動できるよな。

六王の使う転移魔法は、魔法具と違ってその場で座標を指定するタイプらしいし、全く問題無い。

「……成程、転移魔――うん?」

「よいしょっと」

「……え?」

しかしそんな俺の予想は、軽い浮遊感と共に粉々に打ち砕かれた。

アリスは俺の体重なんてなんでもないといった感じで、ひょいっと俺を持ちあげる……いわゆる、お姫様だっこというやつだ。うん、既になんか色々おかしいし、恥ずかしいとか以前に、物凄く嫌な予感がするのはなんでだろう?

「では、しゅっぱ~つ!」

「ちょっ!? なぁっ!?」

間の抜けた掛け声と共に、アリスは地面を蹴り、そして近くの建物の屋根を踏み台に跳躍する……って、高い高い!?

そして重力に引かれて落下……する途中で、空中に光る魔力の足場を作り出し、ソレを踏んで再び跳躍。

え? なにこれ? なんなのこれ!? そういう感じで行くの!? なんかぴょんぴょん跳んでく感じで行くの!? あっ、今、王城飛び越えた……

「いやいや、なんでこんな移動方法!? もっと他になんかあるんじゃないの!?」

「だってこれが一番面白……あっ、いえ、カイトさんに王都の景色を存分に楽しんで頂くための配慮です」

「……てめぇ」

「おっと、力加減を間違えました~これは雲の上まで跳んじゃいますね~」

「おいっ!? まだ次のジャンプする前だろうが――うぉわっ!?」

『ジャンプする前』に力加減を間違えたと、そんなふざけた台詞を吐きながら、アリスは言葉通り雲を突き破るほど高く跳躍する。

流石六王、凄い脚力……じゃねぇよ!? なにしてんだこの馬鹿!!

と、というかこんな急速に上昇したら、気圧の変化とかで大変な事になるんじゃ……

「あっ、その辺は防御してるので大丈夫です!」

「配慮するとこが違わないか!? お前、下ついたら覚えてろ!」

「おおっと~バランスを崩して回転してしまいました~」

「うわぁぁぁ!?」

さながらジェットコースターの如く、アリスは空中で回転したりしながら、何度も跳躍して俺を運んでいった。

「い、いや~アレですよ……つ、ついテンション上がっちゃって……てへっ――ふぎゃっ!?」

「お前は~」

「ぎにゃあぁぁぁ!? ほ、頬っぺた取れますって……え? 今度は耳……ひぎゃぁぁぁ!?」

遊園地の絶叫系アトラクションみたいに移動し、なんとか目的の場所に辿り着いた。

そしてとりあえずアリスは即座に正座させ、これでもかという程頬っぺたと耳を引っ張っておく事にした。

「……いたた……ちょっと、楽しいデートにスパイス加えただけじゃないっすか……」

「あんなスパイス求めてないから!」

全く、本調子どころか普段よりふざけてやがる。本当に困った奴だ。

まぁ、これ以上説教しても時間がもったいないし、この辺で終わらせて人形劇とやらを見に行く事にする。

ただ、このままアリスのペースというのも気に食わないので、なにか反撃の手段を考えておこう。

そんな事を思いつつ、立ち上がったアリスと一緒に広場に向かおうとして……ふとある事を思い付いた。

「さて、気を取り直して行きましょ……へ?」

「まぁ、そう慌てず。ゆっくり行こうじゃないか」

「え? あっ、あれ? カイトさん? なんで『私の手を握ってる』んですか?」

アリスへの反撃の意味も込めて、歩きだそうとしていたアリスの手を取り、素早く指を絡めて恋人繋ぎの形にする。

「うん? ほら、俺達恋人同士な訳だし、これぐらい普通だろ?」

「ぐっ!? そ、そうきましたか……け、けど、甘いですね! 私がカイトさんの何千倍生きてると思ってるんですか……残念ながら、これぐらいの事で照れたりしませんよ!」

「……『右手と右足が一緒に出てる』けど?」

「……今日はそういう気分なんです」

アリスもどうやらそれが俺の反撃である事を察したのか、平静を装いながら受け流そうとして……即座にボロがでる。

まるで出来の悪いブリキ人形みたいな動きで歩くアリスは、どこからどう見ても緊張しまくってる。

「……ふ、ふふふ、どうしました? 万策尽きましたか?」

「なぁ、アリス……」

「な、なんですか!?」

「お前、冷静ぶってるけど……顔、真っ赤だぞ」

「にゃぁっ!?」

そう、本人は平静を装っているつもりなのかもしれないが、アリスの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。

それを指摘すると、アリスは猫みたいな声を上げ、大慌てで俺から顔を逸らす。

「なな、なに言ってるんですか……あ、アレですよ! 夕焼けでそう見えてるだけです!」

「……そこはせめて朝焼けにしない? いやまぁ、10時なのに朝焼けもくそも無いけど……」

「あ~あ~アリスちゃんはたった今、耳が遠くなりました。全然聞こえませんね!」

「可愛いな、アリス」

「あぅ……あぅ……」

アリスがストレートな褒め言葉に弱いのは、もう既に把握していた。

実際に可愛いと告げれば、それはもう湯気でも出そうな勢いで顔を赤くし、あたふたと視線を泳がせている。

なんだかそんなアリスを見ているともっと照れさせたくなり、そのまま色々な褒め言葉を告げて見ると、広場に着くころには、アリスは熱にうなされたような表情で目を回していた。

拝啓、母さん、父さん――アリスも本調子に戻り、いつもみたいに……いや、いつも以上にふざけた感じになってきた。でも、たぶんというか、確実に……それは、デートをやたら意識してしまうからこその――照れ隠しなんだろう。