軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とんでもない存在だった

しばらくクロに抱きしめられた後、気恥ずかしさを感じながらも恒例となった魔法の練習を始める。

とは言え俺はまだ自分の魔力を感じる事も出来ていないので、目視できるように調整されたクロの魔力を纏って身体を動かしてみたりしながら、魔力という感覚を覚えている段階だ。

「……う~ん。このペースだと、あと3日もあればカイトくん自身の魔力を出せる様になりそうだね」

「おぉ……って、才能ある人なら1日で行けるんだっけ?」

自分では変化は分からないが、クロの見立てではあと3日ほどで俺は魔力を使えるようになるらしい。

確かクロは早ければ1日、遅くて1月で使えるようになるって言ってた筈。俺がクロに魔法を教わり始めたのはこの世界に来た翌日の夜だから今日で5日目。

つまりあと3日で使えたとすれば通算で8日……ごく平凡って事か? いや、クロという優秀な指南役が居て8日かかっているのなら、むしろ遅い方かもしれない。

「いや、それは丸一日がっつり練習した場合の話だよ。カイトくんは日に1時間位しかやってない訳だし、ペースとしては結構早いと思うよ」

「おぉ、何かクロにそう言われると自信付く気がするな」

「あはは、まぁともかく、もうすぐカイトくんは魔力を使えるようになる訳なんだけど……そんなカイトくんに、今日はプレゼントを用意してきたよ!」

「プレゼント?」

「うん! ほら、昨日一緒にバーベキューもした訳だし、『コーカンド』が上がって『イベント』があったから、プレゼント!」

「……うん?」

おっと、ちょっと油断していたら、また奇妙な事を言い始めたぞ。

首を傾げる俺を見て、クロは自信満々と言った感じの笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「ふふふ、ちゃんと知ってるんだよ。カイトくんが居た世界には『ニジゲン』って言う別世界の人達と仲良くなる文化があって、お話ししたりするとコーカンドが増えて、それが溜まると一緒にご飯食べたり、御褒美に武器とか便利なアイテムを貰えたりするんでしょ!」

「……」

……一体どこから突っ込めばいいんだ!? なんでクロの異世界の知識はこう奇妙に偏ってるというか、一体どういう経路でそう中途半端に知識を仕入れてるんだ!?

たぶん色々混ざって覚えてるんだろうとは思うんだけど……本当に教えたのは誰だよ……

二次元だとか好感度とか言ってるって事は、恋愛ゲームの知識だろうか? いやでも好感度が溜まると御褒美ってのはRPG系ゲームとかかもしれない。

というかたぶん色々なゲームの知識をごちゃ混ぜに覚えてるような感じがする。てかそもそも、二次元を別世界……こちらで言う魔界とか神界みたいに認識してる節すらある。

過去の勇者役から聞いたとして、どういう聞き方したらそういう中途半端な覚え方になるんだろう? 後ドヤ顔がやたら可愛いのが何か悔しい。

っと俺がクロの奇妙な異世界知識に混乱していると、クロはコートから一冊の本を取り出して俺の前におく。

「……本?」

「うん。ほら、この前カイトくんが読んでた魔法入門って本があったでしょ? アレをここ数日のカイトくんの様子を見ながら、ボクなりに作ってみたよ」

「お、おぉ……それは、かなり凄いんじゃ……」

「ふふふ、結構いい出来だと思うよ!」

クロが用意してくれたプレゼントとは、俺がリリアさんから貰った魔法入門……あの難しい本を、魔法に精通したクロがこの数日の俺の反応や、人族と魔族の魔法文化の違いを考慮しながら作りなおしてくれたものらしい。

手にとって数ページ読んでみるが、確かに物凄く分かりやすい。

リリアさんに貰った魔法入門を受験とかに使う参考書と例えるなら、クロが作ってくれた魔術入門は学校の教科書の様で、基礎的な部分から非常に丁寧に解説されていて、初心者の俺にも分かりやすい。

というか、やはり高位魔族であるクロは魔法に関する知識が人族に比べて圧倒的なのか、コレを魔法学校とかで使った方が良いんじゃないかってレベルで凄い出来だ。

正直これを見た後だと、今まで読んでた魔法入門はわざと分かりにくく書いてるんじゃないかって程読みにくく感じてしまう。

これは本当にありがたい。これがあれば、今後空いた時間に読むだけでも勉強が捗るだろう。

「クロ、本当にありがとう。ただ、その、一つ相談があるんだけど……」

「うん?」

「この本……楠さんや柚木さん……えと、俺と同じ異世界の子達にも、見せてあげちゃ……駄目かな?」

まず感謝の言葉を告げてから、俺は言葉を選ぶ様にゆっくりと続けていく。

この本は凄く分かりやすい。だからこそ、楠さんと柚木さんの事が気にかかった。

俺はハッキリ言って恵まれている。クロという普通ならあり得ないレベルの指導者を得ている時点で、二人とは大きく環境面で差が付いている。

二人だって魔法を使ってみたいはずだが、本来の人族の指導方法では才能ある人でも数ヶ月。平均的に1年という長い時間をかけなければ魔法を使えるようにはならない。

でもこの本にはクロが俺に教えてくれた魔法は二種類しかない等、所謂魔族と人族の魔法文化の違いや、魔力自体の扱い方まで細かに記されており、これを使えば本当に早く魔法が使えるようになると思う。

でも、この本を二人に見せるのであれば、現在俺達に魔法を教えてくれているリリアさんにも話を通すのが礼儀というものだろう。

そうなると、俺がクロから魔法を教わっている事――クロが毎晩この屋敷を訪れている事を説明しなければならない。だからこそ、俺は躊躇している。

リリアさん達の話ではクロは自身に情報隠蔽の魔法を使っているし、普段現れるのも俺が一人でいる時にばかりな上、俺をバーベキューに招待した時も伝手を使って別名で招待した。

つまり、クロは自分の正体を隠したがっており、だからこそ俺も今までクロの素性に触れる様な質問はしなかったし、リリアさん達にもクロと会ってる事は秘密にしていた。

だからこそこの相談は、いわば遠回しにクロの事をリリアさん達に話しても良いかと尋ねている様なものであり、口にするのにはかなり戸惑いがあった。

リリアさんにはこの世界において非常にお世話になっている恩がある……だが、それでも……もし仮に、現時点でどちらかを選べと言われれば……俺はクロを優先する。出会ってからの日はまだ浅いが、クロは俺の中で相当大きな存在になっていて、彼女を裏切る様な行動はしたくない。

だから、これはあくまで提案でもお願いでも無く、相談……少しでもクロが嫌がるそぶりを見せるなら……

「クロが自分の素性を隠してるのは分かっているけど、出来れば――」

「……え?」

「……え?」

俺はかなりの緊張の中、意を決する様に言葉を発そうとクロの方を向き……『俺の前にあるのと同じ本を数冊』取り出し不思議そうな顔をしているクロを見て言葉を止めた。

あれ? 何か予想してた反応と違う。

「……えと、クロ? それは?」

「え? いや、カイトくんならそう言うだろうな~って思って、同じ本を何冊か用意してたんだけど?」

「……えと、一つ確認したいんだけど……」

「うん?」

「クロって、自分の素性を周囲に隠してるんだよね?」

「え? いや、別に隠してないけど?」

「……はい?」

あれ? なんだコレ? 何か、そもそもの大前提から勘違いがある様な気がしてきたぞ。

クロは素性を隠す為に情報隠蔽の魔法を使ってて、自分の事を知られたくないからこっそり忍び込んで来てるんだと思ってたんだけど……まさか、違うのか?

「……クロって、何で情報隠蔽の魔法使ってるの?」

「うん? ボクって食べ歩きが趣味なんだけど、ボクって人界でもそこそこ有名みたいだから、騒がれたりしないようにしてる」

「……いつも探知結界とやらをすり抜けて、この屋敷に来てるのは?」

「え? 別に名前出して正面からでも入れてくれると思うけど、公爵家に来訪するのって手紙書いたりなんだり面倒だから……」

「……じゃ、バーベキューの招待で別の名前で招待状出したのは?」

「人界に住んでる子の名前で送った方が、話がスムーズだからだけど?」

「……」

うむ、つまりあれだ。要約すると……人界でもちょっと有名だから騒ぎになるのが面倒で情報隠蔽魔法を常用してるけど、別に素性隠したりしてる訳じゃないし、他の子へ本配るのも、リリアさんにあってる事伝えるのも全然問題無いよって事らしい……

俺の気遣いと、今の相談を切り出した決意は何だったんだ!?

「あ~えと、カイトくん? もしあれなら、ボク一回ちゃんと自分の名前でここを訪問して説明しようか?」

「……うん。そうしてくれるなら、凄く助かる。てか、初めからそうしてほしかった……」

「あ、あはは、ごめんごめん。ボク、カイトくん以外にあんまし興味なかったし、いいかな~って……ちょっと待っててね~」

結局一人相撲だった事にガックリと肩を落とす俺に、クロは苦笑しながら謝罪の言葉を告げた後、コートから小さめのメッセージカードを取り出して何かを書き込み、封筒に入れて俺に差し出してくる。

「じゃ、明日はちょっと片付けときたい用事があるから……明後日にでも来るから、この手紙を家主に渡しといてくれる?」

「ああ、了解」

どうやら手早く訪問依頼の手紙を書いてくれたらしく、クロから封筒を受け取る。

なんというかドッと疲れた気がするが、ともあれこれでクロの事をリリアさんにも話す事が出来るようになった訳だ。

実際お世話になってるリリアさんに隠し事をしているのは気が引けていたし、こんな簡単に了承してくれるんならもっと早く切り出しとけばよかった……

一夜明け、朝食の席で俺はさっそくリリアさんに事情を説明した。

情報隠蔽の魔法がどの程度の範囲にまで効果があるのかは分からなかったが、少なくとも俺がこれまで毎晩のように魔族と会っていたという事と、その魔族が正式にここに来訪したいと告げているという事は伝わったみたいで、リリアさんはどこか納得したように頷く。

「成程、確かに爵位級の高位魔族なら探知結界をすり抜ける事も出来るでしょうし、セーディッチ魔法具商会と繋がりがあっても不思議ではありませんね」

「魔界に母体のある商会ですしね。寧ろ本来あまり人族と交流を持たない高位魔族と、そこまで親しくなれているのは、流石ミヤマ様というべきでしょうね」

リリアさんとルナマリアさんの反応は思っていた程悪いものではなく、むしろ好意的な反応と言って良かった。

その原因の一つに、二人は初めから俺が迷子になった際に遭遇した魔族が爵位級である可能性には気付いていた様で、出来れば敵対する様な形にはなりたくないと考えていたみたいだ。

そして俺の話を聞いて、クロが俺に対して好意的であり、なおかつリリアさん達とも敵対する気は無い事も今回の件で分かった為、むしろ安堵しているという訳だった。

それほどまでに爵位級の高位魔族の力は凄まじいものなのだろう。

「しかし、爵位級の高位魔族とは、改めて考えるとカイトさんの縁を引き寄せる力は凄まじいですね。人界に訪れる事もある方という事は、もしかしたら私もお話しした事があるかもしれませんね」

「ええ、本人はそこそこ有名と言ってました」

「ふふふ、それは緊張しますね。まぁ、もう、時の女神様の一件があるので大抵の事では……」

リリアさんは穏やかなというか、どこか諦めたような微笑みを浮かべて俺から封筒を受け取る。そして近々控えている彼女にとっての大イベントを口にして、現実逃避する様な遠い目をしながら封筒を開け、中から二つ折りになったメッセージカードを取り出し、それを開いて――すぐ閉じた。

「……」

「お嬢様?」

「……見間違え……今のは……私の……見間違え……」

「お嬢様……一体何が……」

一度開いたメッセージカードを閉じた後、リリアさんはブツブツと何かを呟き始め、ルナマリアさんも俺達も意味が分からず首を傾げる。

そしてリリアさんは深呼吸をした後でもう一度メッセージカードを開き――直後に机に顔を打ち付けた。

「お嬢様!?」

慌ててルナマリアさんが駆け寄るが、リリアさんは机に伏したまま反応せず、少しして両手で頭を抱えながら顔を上げるが、何故かその顔は真っ青だった。

「……もうやだ……カイトさんの交友関係……怖い……」

「あの? お嬢様? 一体何があったのですか?」

そして戦慄する様な怯えた目で俺を見た後で、心配そうな表情を浮かべているルナマリアさんの前に、震える手で二つ折りのメッセージカードを差し出す。

「良いですか、ルナ。深呼吸をして下さい……心を強く持って、それから開いてください」

「は、はぁ……畏まりました」

青ざめながらガタガタと震えているリリアさんの様子は尋常では無く、ルナマリアさんも怪訝そうな表情を浮かべながら、言われた通り深呼吸をして真剣な表情でメッセージカードを開き――数秒後に膝から崩れ落ちた。

「ルナ!? ルナ! しっかりして下さい!?」

「……」

リリアさんが慌てて呼び掛けるが、ルナマリアさんは茫然と目を見開いたまま硬直している。

まるで膝立ちのままで気絶している様にさえ見えるルナマリアさん。リリアさんはルナマリアさんから反応が返ってこないのを察し、別の使用人に何か指示を出す。

少しすると慌てた様子で食堂に次々と使用人……確か色々な部門の責任者クラスだった筈の人達が集まり、状況について行けてない俺の前でリリアさんは青ざめた顔のままで口を開く。

「直ちに全員に伝えて下さい! 明日の正午、大変なお客様がお見えになります!! 万が一にも無礼があってはなりません!! 考えうる限り最上のもてなしの用意を! 『王宮にもすぐに早馬』で伝達! 食材等も金額は度外視して……いやもう『王宮から食材と宮廷料理人を引っ張ってきて』下さい!」

「は? お、お嬢様……一体、何が……」

聞いてるだけでとてつもない指示が飛び交っているのが分かる。というか使用人の人達もまるで状況が分からず混乱している様だ。

そして一人の使用人がおずおずと尋ねると、リリアさんは動きを止め……涙目になりながら口を開く。

「……が……んです……」

「……え?」

「だから! 明日の正午!! 当家に『冥王様』がいらっしゃるんですよおぉぉぉぉ!!」

「「「!?!?!?」」」

悲鳴の様なリリアさんの声が響き、周囲から音が消えた。

拝啓、母さん、父さん――この世界に来て仲良くなった魔族のクロ。でも、彼女、俺が想像していた以上に――とんでもない存在だった。