軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ハイドラ王国に来て5日目の早朝、俺はまた例のおじいさんの所へ来て話をしていた。

「そうか、今日の夜には帰るのか」

「ええ……あっ、でもまた時々遊びに来ますよ」

「ふ、ははは、しっかしお主も律儀じゃのう。ワシが頼んだとはいえ、毎日来てくれるとは思わなんだぞ」

「あ、いえ、まぁ、時間に余裕もありましたので……」

ちなみにおじいさんの所へは、出会ってから毎朝来ている。

おじいさんも仕事があるらしくそれほど長く話す訳ではなく軽く雑談を交わしている感じだ。

「おお、そうじゃ! 折角じゃし茶でも飲むかのぅ」

「うん? あ、はい」

「ワシの知り合いに珍しい菓子を食べておる物がおってのぅ、その中でも私これが大好物なんじゃよ」

「……それって、煎餅?」

「うむ、そう言うらしいのぅ」

おじいさんは相変わらず軽快なトークを展開しており、気が付いたら話題が切り替わっているが、それはもうこの数日で慣れたので特に気にはしない。

それよりまさか、こんな所で煎餅を見るとは思わなかった……おじいさんの知り合いって、過去の勇者役なのかな?

「このセンベイとリョクチャというのがたまらんのじゃ……ほれ、一緒に食べようではないか」

「ありがとうございます」

ニカッと皺だらけの顔で笑いながら、おじいさんは緑茶の入った湯呑と煎餅を差し出してきたので、それを受け取りおじいさんと一緒に食べる。

なんというか、ここは海岸沿いではあるが、縁側にでもいる気分ではある……なんとなく親戚のおじいさんを思い出して、少し懐かしい気持ちになった。

両親が死んで別の親戚に引き取られてから、あまり会う事はなかったが……今も元気にしているだろうか?

「う~ん。うまいのぅ」

「ええ、それに潮風が気持ちいいですね」

「おぉ、分かっておるのぅ! この風が良いんじゃ!」

たまにはこうして海を眺めながらのんびりするのも良いものだ。

そんな事を考えながら煎餅を齧っていると、ふとおじいさんが穏やかな口調で言葉を発した。

「しかし、お主は良い男じゃのぅ、こんな年寄りの世間話に付き合って、嫌な顔一つせん」

「おじいさんと話すのは、俺も楽しいですし色々勉強になります」

「ははは、そうか! 本当に気持ちの良い若者じゃ……最近の若いもんは、なんて事を言うつもりはないが、多くの者は時間に追われておる。時は有限じゃから、仕方なくもあるが……ワシはあまり好かんのぅ」

元々日本育ちの俺としては、むしろこの世界の人達は時間を有意義に使ってると感じているが、おじいさんから見ると焦っているようにも映るらしい。

確かにおじいさんの言う通り、人間にとっては時間は有限だし……流れる時は不可逆だ。いや、若干知り合いの中にはその法則をひっくり返せそうな方々も居るにはいるが……

「限られた時間の中だからこそ、その中で心のゆとりみたいなのを持った方が良いって事ですか?」

「あぁ、急くのも焦るのも悪い事では無い。しかし、時間に追われるようになってしまえば、色々悪循環じゃろう? 時にはホッと気を抜いて、足元を確認してみるのも大切じゃな」

「含蓄のあるお言葉ですね」

「ふぉふぉふぉ、そう思えるのであれば、お主は大丈夫じゃよ」

積み重ねてきた年季とでも言うのだろうか、俺より長く生きているからこその言葉。それをしっかり心に刻み、俺自身も心のゆとりは忘れてしまわないように気をつけようと思った。

まぁ、幸いな事に俺は人に恵まれている。俺が焦ったりしてたら諫めてくれる人も、手を差し伸べてくれる人も沢山いる……それは本当にありがたく、幸せな事だ。

「まぁ、それはそれとして……改めて言うが、お若いの、お主良い男じゃな!」

「は? え、えと、ありがとうございます?」

「うむ、どうじゃ? いっそ、ワシのところに婿に来るか?」

「え? う~ん……それはお孫さんとかのって事ですか?」

「う、むぅ……お、おぉ、そんな感じじゃ!」

なんだか後半少し引っかかる言い方ではあったが、素直な賞賛として受け取っておく事にしよう。

「……えっと、まぁ、そういうお話しはまたの機会にという事で……」

「つれんのぅ~いや、それがモテる秘訣かもしれんな……」

「そういうものですかね?」

「そういうものじゃろう」

「……ぷっ」

「……ふっ」

「「あはははは」」

なんとなく言い回しというか、会話の雰囲気が面白く、おじいさんと顔を見合わせて笑いあった。

本当に明るく元気なおじいさんで、こちらもつられて明るく笑えている気がする。やっぱり、こう言う会話は苦じゃない……いや、むしろ楽しい。

「……おっと、いかんいかん。もうこんな時間か……」

「お仕事ですか?」

「うむ、どうにもやかましいのがおってのぅ……年寄りを扱き使うのじゃ」

「それだけ頼りにされてるって事ですよ。きっと」

「ううむ、ワシは隠居したいんじゃがのぅ……まぁ、ぼちぼち行くとするか」

「はい。今日はごちそうさまでした」

軽く頭をかきながら立ち上がったおじいさんを見て、俺は煎餅とお茶のお礼を伝えてから同様に立ち上がる。

「うむ。お主も元気での……また話相手になっておくれ」

「はい。また来ます。おじいさんも、お体には気をつけてくださいね」

「ああ……ではな、また会おう」

「はい。それではまた」

再び明るい笑顔を浮かべてから、釣り竿を担いで去っていくおじいさんを手を振りながら見送ってから、俺はまだ朝焼けに染まっている早朝の海辺を、軽く散歩してから宿に戻った。

さて、おじいさんへシンフォニア王国へ戻る事も告げ、これでハイドラ王国でする事は終わり……では無かった。

実はもう一つ、意図したわけではないが流れで決定した予定があった。

昼前ぐらいの時間に宿から外へ出ると、そこには待ち合わせをしている相手……シアさんの姿があった。

以前シアさんがお詫びと言って申し出てきて、俺が食事をおごってくださいと返答した一件があり、今日の昼食はシアさんにご馳走して貰う事になっている。

シアさんは相変わらずセーラー服に黒いローブの姿であり、分かってはいた事だが目を合わせてはくれない。

「すみません、シアさん。お待たせしました」

「……構わない。どうせ、今の私は卑劣な策略で縛られる身だから」

「い、いや、ご飯食べに行くだけ……ですよね?」

「ッ!? それだけでは済まさないって言いたいのか……なんて鬼畜な……」

ちょっと~! 誰か、この方のネガティブフィルター解除して下さい!? 俺が物凄い悪者みたいになってるんですけど!

「……さっさと終わらせる」

「はい。ところで、なにを食べる予定なんでしょうか?」

「くっ……俺を満足させられる店を選べるのか? って、そう言いたい訳……精々今の内に余裕を見せていろ、すぐにそんな考えが出来なくしてやる」

「……」

……ご飯食べに行くんだよね? なんでそんな、決闘するみたいな会話になるの?

駄目だこの方。なに言ってもマイナス方向に自動変換されてる。いったいこの方の中で、俺はどれだけ傲岸不遜な奴になってるんだろうか?

拝啓、母さん、父さん――以前約束したシアさんとの食事に行く事になったんだけど、シアさんのネガティブフィルターは絶好調みたいで、何故か告げる言葉が――悪い方向に自動変換されていた。