軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カップルらしいよ

風の月19日目。日課であるベルのブラッシングを終えた俺は、雲一つない快晴の青空を見つめながら、さてこれから何をしようかと考えていた。

折角天気が良いんだし買い物にでも行こうか? いや、しかし別に今これと言ってほしいものもないし……クロやアイシスさんは何故か最近忙しそうなので、遊びに行くのも気が引ける。

まぁ偶には目的無しでぶらついてみるのも悪くないかと、そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、聞き覚えのある声が響いてきた。

「カイトクンさん! カイトクンさん!!」

「……ラズさん?」

声の聞こえた方向を振り返ると、門の方から30cmのピンクブロンドの髪の妖精……ラズさんが慌てた様子で、独特の呼び方をしながら俺の元にやってきた。

ラズさんに会うのも結構久々ではあるが、未だ呼び名は「カイトクンさん」なのか……いや、これはもう直すのは無理かもしれない、諦めよう。

「カイトクンさん! ラズに力を貸して下さい!!」

「へ? 力を貸す? な、なんの事ですか?」

「限定がカップルでパフェなんです!! 協力して下さいですよ!!」

「……んん?」

限定がカップルでパフェ? なんの暗号だろうか? いや、落ち着いて考えよう……順番が違うのかもしれない。

限定がカップルでパフェ……カップルが限定でパフェ……

「……『カップル限定パフェ』?」

「そうなんです! それです! お願いですカイトクンさん、協力して欲しいですよ!」

「いや、すみません。単語が分かってもなんのことやら……状況を説明して下さい」

「え、ええ~と……あっ、これです!」

カップル限定パフェという単語には辿り着いたが、なぜそれでラズさんが俺に助けを求めているかが分からず聞き返すと、ラズさんはどこからともなく一枚のチラシを取り出す。

ラズさんの身長と同じ位のチラシを受け取り目を通してみると……そこには『カップル限定、スペシャルフルーツパフェ新登場!』と大きな文字で書かれていて、シンフォニア王国の中央通り近くの地図が下に書かれていた。

「……えっと、一体俺はなんに協力すればいいんでしょうか?」

「ラズは……このフルーツパフェがどうしても食べたいんです。でもでも、カップルさんじゃないと駄目って言われたです」

……カップル限定パフェですもんね。

「だから、ラズは『アハトくん』に頼もうとしたんです……でも、アハトくんはエヴァさんと行くから駄目だ~って言われたです」

「ふむふむ……え?」

ラズさんはアハトに最初一緒に行って欲しいと頼んだらしい……カップル限定のパフェを食べに行こうと……え? ってことは、ラズさんとアハトってそういう関係なの!?

し、知らなかった……物凄い身長差カップルだ。

でも、そう考えてみるとラズさんが俺になにを協力してほしいのかも見えてきた。

「……成程。アハトの説得に協力してほしいって事ですね!」

「え? 違うです」

「……うん?」

「ラズと一緒にパフェと食べに行って欲しいんですよ~」

「……え?」

満面の笑顔で告げるラズさんを見て、俺は完全に硬直してしまう。

ラズさんは一体何を言っているんだろうか? アハトに断られたからって、俺とカップル限定のパフェを食べに行くなんて……当てつけだろうか? それともエヴァに対する嫉妬だろうか?

この世界の人達はあまりそういう嫉妬心みたいなのには縁が無いと思ってたけど、それはやはり人それぞれという事だろう。

た、確かにどうしても食べたかったカップル限定パフェを食べに行くのを、恋人に断られてしまったラズさんの気持ちは分からなくはない……でも、流石にアハトの代わりに俺が行くのは、アハトに悪過ぎると思う。

「……いや、ラズさん。早まっちゃ駄目ですよ」

「なにがですか?」

「いや、だから、一時の感情に流されちゃ……これでラズさんと俺が一緒に食べに行ったら、アハトが可哀想でしょう?」

「なんでですか?」

なんとか説得をしようとする俺に対し、ラズさんは心底不思議とでも言いたげに首を傾げる。

「……だから、これで俺とラズさんが一緒に行ったら、周囲からは俺達がカップルって思われちゃうでしょ?」

「ラズとカイトクンさんは『カップル』ですよ?」

「ええ、だから……はい? すみません、もう一度お願いします」

「もぅっ、ラズとカイトクンさんはカップルなので大丈夫ですよ!」

……衝撃の新事実。俺とラズさんはカップルだったらしい……いつからだろう? 全く心当たりが無い。

酒に酔った勢いで? いや、俺にはシロさんの祝福があるから酔わない筈だ。

俺が覚えてないだけでなにかあった? いや、流石にこんなに小さいラズさんをそんな対象として見た事は一度もない。

となると、考えられるのは……

「……あの、ラズさん。ぶしつけな質問なんですが……ラズさん、カップルって何か知ってます?」

「勿論ですよ! 男の子と女の子が、とっても大好きで、と~っても仲良しって事ですよね!!」

広義に解釈すれば間違ってはいない、でも致命的な部分を分かってない!?

どうもラズさん的には、カップルというのは仲の良い異性の友達程度の認識らしい……いや、勿論それも間違いではないんだが、このチラシに書かれているカップルとはすなわち恋人を指しているんだろう。

ラズさんの認識のズレを感じ、どう説明したらいいか頭を悩ませていると……ラズさんはなにかを思い付いた様子で、ショックを受けたような表情に変わる。

「……ら、ラズは……カイトクンさんのこと好きで、仲良しだって思ってましたけど……か、カイトクンさんは……ラズの事……嫌いですか?」

「そんなことないです! 好きですし仲良しです! だから、そんな泣きそうな顔しないで下さい!!」

ふるふると小さな身体を震わせ、目に涙を浮かべながら告げるラズさん……もはや肯定以外の選択肢は選べなかった。

「じゃ、じゃあ……ラズとカイトクンさんはカップルですか?」

「そ、そうですよ! いや~俺がうっかりしてました。俺とラズさんはカップルです!」

「わぁ、嬉しいです! わ~い、わ~いです!」

「……」

駄目だこれ、文字通り妖精なラズさんを泣かせるなんてとてもできないし、こんなに喜んでるのに今さらやっぱ違いますなんて言えない。

流されやすい自分を深く呪いつつ、俺はガックリと肩を落とす。

「ではでは、カイトクンさん! ラズと一緒にパフェ食べに行ってくれますか?」

「……はい。行きましょう」

「わ~いですよ! カイトクンさん大好きです!」

小さな身体を精一杯伸ばしながらバンザイをして、パタパタと小さな羽で飛びまわるラズさんは、それはもう殺人的に可愛らしく、もはやなんの異論も言えなかった。

拝啓、母さん、父さん――この手の事には圧倒的に疎い方だというのは、なんとなく分かってはいたが、まさかここまで天真爛漫とは思わなかった。という訳で、どうやら、俺とラズさんは――カップルらしいよ。