軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

感謝の想いを伝えた

風の月13日目。図らずもリリアさんと二人で滞在する事になった避暑地カーレルでの休養は、最初こそ大きなトラブルが発生したが、その後は実にのんびり楽しく滞在する事が出来て、俺もリリアさんも体を休めるという本来の目的は十分に達成できた。

そしてなによりの収穫と言えるのが、アマリエさんのパーティー以降ややぎくしゃくしていた状態が上手い具合に解消された事。

パーティー以降も恋人になってからも、リリアさんがやや緊張している感じであまり会話が続かなかったのだが、三日間一緒にカーレルに滞在し、その際にリリアさんの心に余裕が生まれたのか、帰る頃には今まで通り……いや、以前よりも大分親しく言葉を交わす事が出来るようになった。

そういう意味では、今回の件に裏で糸を引いたルナマリアさんにも感謝しなければならないだろう。

まぁ、尤も、そのルナマリアさんは……帰宅して早々、リリアさんのビンタによって『壁に埋められた』が……いや~知らなかったなぁ、人って体の半分が壁に埋まる事があるんだなぁ……

まぁ、ルナマリアさんは1時間後にはケロッとしていたんだけど……この世界の人達半端じゃねぇよ。俺があんなビンタ喰らったら、頭が物理的に飛ぶ……絶対、あそこまでリリアさんを怒らせる行為はしないように気をつけよう。

「……よしっと、ベル、綺麗になったぞ」

「ガゥ!」

「リンも手伝ってくれてありがとう」

「キュイ!」

そんな事を考えながら、ベルのブラッシングを終える。

手伝ってくれたリンにお礼を言って、飛びついて来たリンを胸に抱え、伏せの状態になっているベルにもたれかかる。

日々ブラッシングと洗浄を欠かしていないベルの毛並みは、俺の自慢の一つであり、物凄くサラサラのふわふわで気持ちが良い。

手伝ってくれたご褒美に、リンに干し肉を食べさせてあげながら、芝生に腰を降ろしてベルのフワフワのけに体を埋めていると、足音が聞こえ、ジークさんがやってきた。

「お疲れ様です。カイトさん」

「ジークさんも、お疲れ様です。警備の仕事は終わりですか?」

「ええ、今回は夜間のシフトだったので、つい先ほど終わった所です」

微笑みを浮かべて挨拶を交わした後、ジークさんは手に持っていた飲み物を俺に手渡し、隣に座って良いかと尋ねてきた。

勿論断る理由なんてないので了承すると、ジークさんは上品な動きで芝生に座り、俺と同じようにベルにもたれかかる。

「はぁ、ベルちゃんの毛は気持ちが良いですね」

「ええ、ブラッシングを欠かしていませんからね」

「ガゥ!」

のんびりとした会話をしながら、干し肉を食べ終えたリンを膝の上に乗せると、お腹が膨れて眠くなったのか、リンはそのまま俺の膝の上で体を丸めて眠り始める。

ベルの方は寝てはいなかったが、のんびりと伏せの状態になっているという事は、うとうとしているのかもしれない。

まぁ確かに昼寝するには絶好の天気だし、その気持ちは分かるけど……

「……ふぁ……あっ、すみません」

「ああ、ジークさんは夜勤でしたもんね。眠いのは仕方ないですよ」

ジークさんが小さく可愛らしい欠伸をして、そちらに視線を向けると、夜間警備の当直についていたせいか、少し眠たそうに目を擦っていた。

そんな可愛らしい仕草に微笑ましさを感じつつ、俺はジークさんに声をかける。

「このまま昼寝しても良いんじゃないですか?」

「それは……大変魅力的な提案ですね」

「あっ、でもその前に……」

「どうしました? カイトさ――え?」

丁度いいタイミングだと思ったので、俺はマジックボックスから小さな木箱……ジークさんの為に作ったオルゴールを取り出して手渡す。

ジークさんは完全に虚を突かれた様子で目を見開き、茫然と受け取ったオルゴールを見つめる。

「……これは?」

「えっと、オルゴールです」

「オルゴール? え? ですが、それはリリに……」

「あ、はい。勿論リリアさんに贈ったものとは別のものです。その、ジークさんにはいつもお世話になってますし、今回の件でも手伝ってもらったので……そのお礼です」

そう言って告げる俺の言葉を聞き、ジークさんは何度も俺の顔とオルゴールを見比べる。

ジークさんに贈ったオルゴールは、リリアさんに渡した者とは別でエメラルド等の緑系の宝石を中心にして作ってある。

起動させると魔水晶の光に照らされて、エルフ族の紋章である木と弓が浮かび上がる仕組みだ。

まぁ、流石に時間が足りないのとどこに行けばいいのか分からなかったので、宝石は店で購入した物を使っているが……

曲もジークさんに合わせたものをアリスに作曲してもらった。広大で緑豊かな大自然を感じる。どこか民謡を思わせる仕上がりになっている。

「……わ、私が、頂いてもよろしいんですか? だって、私はそんな……大したお手伝いも出来てないのに……」

「そんな事はないです。俺が忙しくしてる間ベルやリンの世話もしてくれて、作業中にも食べやすいよう工夫した差し入れもくれました。お陰でしっかり頑張れました。本当にありがとうございます」

「……ッ!?」

素直に心からの感謝を伝えると、ジークさんは驚いたような、それでいてとても嬉しそうな表情を浮かべ、渡したオルゴールを両手で抱え、ギュッと胸の前で大切そうに抱きしめる。

「……ありがとう……ございます。大切にします」

「はい」

「……これは、その、どうしましょう……嬉しくて、思ったように、言葉が出てきません」

頬を赤く染め、目を潤ませながらジークさんは言葉を探すように何度か視線を動かし、それでも結局なにを言っていいか分からなかったのか、一度目を伏せ顔を振ってからそっと俺の肩にもたれかかってきた。

美しい赤い髪が微かに揺れ、肩に心地良い重みを感じると……ジークさんはゆっくりと、小さな声で告げる。

「……御迷惑かもしれませんが……少しだけ、甘えても良いでしょうか? 今は、貴方の近くに居たい気分なんです」

「はい。迷惑なんて、そんな事は全くありません。むしろ嬉しいですよ」

「……ありがとうございます」

そう告げて、ジークさんは俺の肩にもたれかかったまま、微笑みを浮かべて目を閉じる。

心地良い沈黙が流れ、幸せな気持ちが胸いっぱいに溢れてくる。

「……幸せですね」

「……はい」

それ以上の言葉は必要なく、ただ、そう、隣に互いが居る安心感を感じつつ、暖かな日差しと微かに吹く風に身を委ねた。

拝啓、母さん、父さん――避暑地から帰ってきて、良いタイミングだと思うから、今回の件に協力してくれた人達にお礼を持って行こうと思う。まず初めにジークさんへ――感謝の想いを伝えた。