軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リリアさんにキスをされた?

辺境伯と子爵が退場し、ざわつく会場の中でライズさんが改めてパーティーの開催を宣言した。

クロノアさんもパーティーに参加はしないが、終わるまではここに滞在すると告げ、会場内は大きく沸く。

最高神であるクロノアさんが勇者祭以外で人界を訪れるのは稀……うん、稀……の筈だ。

何かやたら会ってるせいでそんな印象が薄いが、他の人達にとってはとんでもない有名人が国主催のパーティに顔を出してくれた。これでこの国の未来は安泰だって感じになるらしい。

そうしてパーティーが始まると、美しい演奏が聞こえてきて、その瞬間リリアさんは慌てた様子で俺の手を掴み引っ張る。

「カイトさん! 私と『踊って下さい』」

「え? えぇ!? ちょ、リリアさん? 俺ダンスとか全く……」

「大丈夫です。私がリードします」

何故かリリアさんは焦っているように見え、その勢いに押されるまま移動して、リリアさんと踊り始める。

社交ダンスなんて当然経験が無く、踊れる気は全くしなかったが、リリアさんがダンスが上手く、慣れない俺の為にゆっくり踊ってくれていたので、なんとか不格好ながらついて行く事は出来た。

リリアさんの指示を受けて回した手はリリアさんの腰に重なり、細く滑らかな感触を伝えてきて、ほぼ密着している事もあって、リリアさんの姿がやけに鮮明に見えた。

輝くような金色の髪、サファイアの如く美しい瞳……物語のお姫様のような金髪碧眼の美女……いや、まぁ実際に元お姫様な訳だけど……ともかく、そんな美女と密着していて緊張しない訳が無い。

けど、なんで急に踊ろうなんて言い出したんだろう? 確かに貴族のパーティーというと、社交ダンスってイメージはあるが……

リリアさんは同じステップで踊ってくれてるみたいで、少しすると話す程度の余裕は出来たので、俺は緊張しながら声をかける。

「あ、あの、リリアさん?」

「……あ、危ない所でした。カイトさんが近くに居てくれてよかった」

「……え?」

「もう少しで、会場中の貴族に囲まれるところでした」

「……あっ」

リリアさんの呟きを聞いて、先程までの疑問が解決する。

リリアさんは最高神であるクロノアさんに本祝福を受けた存在……人族の歴史の中で、初の偉業を成し遂げたと言っても良い存在であり、まさに時の人だ。

となると、当然リリアさんの元には他の貴族が殺到する。リリアさんと交流を持てば、すなわちそれは最高神にも繋がるのだから……

成程、だからリリアさんは慌てて俺と踊り出したのか……踊っている相手は他の貴族が近付いてきたりはしないし、ある程度位置も調整できる。

「……カイトさん、すみません。このまま数曲踊りながら……会場の出口付近に……ルナとジークにも早目に伝えたいので、私は少し抜けます」

「分かりました」

「30分程時間を置いてから戻ってくるので、そうしたら一緒にアマリエの所に行きましょう。なので、会場入り口の近くに居て下さると助かります」

「了解です」

流石にアマリエさんの誕生日パーティーに来ておいて、祝いの言葉一つも告げずに帰る訳にはいかない。

リリアさんと一緒に会場を出るという手もあったが……それは得策ではないだろう。

リリアさんだけなら上手くあしらったり、必要であればまいたり出来るだろうが、俺にはそういうのは無理だ。

まぁ、この場に残されるというのも不安ではあるが……いざとなれば、さっきから視界の端で、こちらに手を振ってる皇帝陛下に助けてもらえばいいか……

そのままリリアさんと数曲踊り、出入り口のドア付近まで来たところで、タイミング良く今流れている曲も終わりにさしかかる。

するとリリアさんは、穏やかな微笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。

「……カイトさん、本当にありがとうございます」

「え?」

「貴方がこの世界に来てくれたから、クロノア様と巡り合わせてくれたから……私は、ようやく過去に決着をつける事が出来ました」

「いえ、そんな……」

俺自身が何かできたという事はないが、とりあえずリリアさんの肩の重荷が少しでも軽くなったのなら、本当に良かったと思う。

そして曲の終わり際、フィナーレに楽器の音が大きく響き、他の参加者と俺が楽団の方に視線を動かした瞬間……頬にそっと柔らかな感触が触れた。

「……え?」

それがリリアさんの唇だと理解し、茫然としながらリリアさんの方を振り返ると……リリアさんは一瞬の驚きの間に手を離し、扉の方に向かっていて、扉を開ける直前でこちらを振り返り微笑む。

「貴方と出会えて、本当に幸せです……機会があれば、また一緒に踊りましょうね」

「……は? え?」

そうしてリリアさんは、完全に思考が追いついていない俺を残して会場の外に出ていき、残された俺は頬に残る感触を確かめるように手を当て、リリアさんの去っていた方向を茫然と見つめていた。

拝啓、母さん、父さん――生まれて初めての社交ダンスは、なんだか新鮮で、相手がリリアさんという事もあって凄くドキドキした。ただ、最後に衝撃の展開が待ち受けていて、まだ全然思考は追いついていないけど、今、間違いなく――リリアさんにキスをされた?

会場の外、出入り口より少し離れた場所で待っていたルナマリアとジークリンデの元に、顔を俯かせたリリアがやってくる。

「リリ、お疲れ様です」

「例の貴族が連行されていくのは、私達も見ていました……ついにやりましたね。お嬢様!」

リリアの姿を確認し、二人はリリアが悲願を成し遂げた事を喜びながら駆け寄るが、何故かリリアは俯いたままで反応しない。

「……リリ?」

「……お嬢様?」

その様子に首を傾げる二人の前で、リリアは無言のまま足を進め……直後に近くにあった壁に頭を打ち付ける。

「お、お嬢様?」

「……(あっ、あぁぁぁ……わ、私は、一体、な、なにを!? な、なな、なんであんな事……)」

心配そうに声をかけるルナマリアの言葉に返事をしないまま、頭を打ち付けた壁に寄り掛かるように手を添える。

「……(ずっと悩んでいた事が解決して、それがカイトさんのおかげで、カイトさんと踊ってたら嬉しくなって、幸せで……それで、つい……あぁぁぁ!? ど、どうしましょう!?)」

「え、えっと、リリ? 大丈夫ですか?」

ジークリンデも同様に心配そうに声をかけるが、やはりリリアには聞こえていないみたいで、リリアは両手で頭を抱える。

「……(へ、変な女って思われたんじゃ……と、というか、あんな事して……この後、どんな顔してカイトさんに会えば?)」

「ちょっ!? お嬢様!?」

「リリ!?」

直後、リリアは壁に何度も自分を頭を打ち付けだし、ルナマリアとジークリンデはその様子に若干怯えながらも、慌てて声をかける。

「……(会える訳ないじゃないですか!? というか、もう、カイトさんの顔見れませんよ!! あぁぁぁ、私の馬鹿ぁぁぁ!?)

「……お、お嬢様……も、もうその辺で……壊れます『壁の方が』……」

リリアが何度も頭を打ち付けた壁の方を心配しながら、ルナマリアが恐る恐る声をかけると……リリアはようやく、真っ赤に染まり涙を浮かべた表情を向ける。

「ルナぁ……ジークぅ……私……恥ずかしくて……死にそうです。一体、どうすればいいんですか!?」

「大変申し訳ありませんが、事情がまったく分かりません」

「右に同じく……」

完全に混乱している様子のリリアに詰め寄られ、ルナマリアとジークリンデは顔を見合わせ首を傾げた後、なんとかリリアを落ち着かせようと声をかけた。

かつての罪が白日の元に晒された辺境伯と子爵は、国王ライズの指示により直ちに身柄を拘束され、騎士達によって連行されていた。

そのまま一時的に牢に入れられ、裁きの時を待つ……筈だったが、何故か騎士達は二人を牢には連れて行かず、王城の中庭に移動する。

「……な、なぜこんな所に……」

「い、一体なんのつもりだ?」

辿り着いた中庭には人影すらなく、夜空に浮かぶ月が異常な静けさと不気味さを感じさせ、二人は動揺した様子で騎士に尋ねるが……返事は別の場所から返ってきた。

「私が、連れて来させたんすよ……そういうシナリオですからね」

「「ッ!?」」

夜の闇の中、甲高い声が響き、漆黒のローブに身を包んだ存在が二人の前に現れる。

「……げ、幻王……」

「……ノーフェイス様?」

幻王ノーフェイスの出現に、辺境伯と子爵の顔が絶望一色に染まる。

理由は単純明快……幻王は世界の障害となる存在を許さない……情け容赦なく消す。その幻王が目の前に現れる事、それは即ち彼等の未来がどうなるかを、恐ろしいほどに明確にしている。

「……カイトさんも、リリア公爵も優しいですからね~罪を暴いて、後は国の裁きに任せる……まぁ、私に言わせれば甘いですけど……私はカイトさんのそういう甘っちょろい所が好きなんで、一応その通りにシナリオは書きましたけどねぇ……こっそり書き足しちゃいましたっと」

「……あっ、あぁ……」

「逆恨みして、今後カイトさんに復讐……なんて事考えだしたら面倒じゃないですか……だから、ほら、殺しといたほうが手っ取り早いでしょ?」

あまりにも冷たい声でそう告げ、ノーフェイスは月明かりの元、短剣を抜く。

ほんの少し、撫でるようにそれを振るうだけで二人の人生は終わる……しかし、その短剣が二人に向けて振るわれる事はなかった。

何故なら、それより早く、新たに一つの影が幻王と二人の間に割って入ったから。

「……どういうつもりっすか? クロさん?」

「駄目だよ……カイトくんは、それを望まない」

「分かってますよ……でも、私はカイトさんに危害が及ぶ可能性が1%でもあるなら、見逃す気はありません。実害があるかないかなんて……関係ねぇんすよ」

「見逃せとは言ってないよ。だけど、殺すのは駄目……そうなったら、きっと、カイトくんが責任を感じちゃう」

「……」

突如現れ睨み合う、幻王と冥王……そのあまりの事態に、辺境伯と子爵は混乱しきっており、言葉を発する事すら出来ない。

クロムエイナの言葉を聞いたノーフェイスは、しばらく沈黙した後……ゆっくりと短剣を降ろす。

「……分かりましたよ。ただし、逆らう気が起きないように地獄は見せます。いいですね?」

「……」

「「ッ!?」

そう呟くと同時に、ノーフェイスは紫色に輝く魔力球を手の上に浮かべ、それを二人の貴族の前に移動させる。

「……ナイトメア・フォーチュン」

「「!?!?」」

次の瞬間魔力球は強烈な光を数度放ち、瞬く間に二人の意識を刈り取った。

ノーフェイスが使ったのは悪夢を見せる魔法……これより、二人の貴族は眠る度、底なしの闇のような悪夢を見続ける事になる。

辺境伯と子爵が崩れ落ち、それを傍に控えていた騎士達が担ぎあげ、牢へと運んでいくのを見ながら、ノーフェイスは冷たい声で呟く。

「カイトさんとリリア公爵を逆恨みしたらどんな目に合うか……夢の中でしっかり勉強して下さいね。一先ず1000通り程用意しときましたので、1000通りの破滅を存分にお楽しみくださいね……」

「本当に容赦ないよね……眠るのが怖くなって、精神崩壊しちゃうんじゃない?」

「さぁ? そうなったらそうなったですよ……後、いつも言ってますが、クロさんが甘いだけっすからね。まぁ、私はそういう甘いの好きですけど……己がそうする気はないっすよ」

クロムエイナの言葉に答えた後、ノーフェイスは背を向け中庭の出口に向けて歩きだす。

「私は、私の大切な存在に害を及ぼす可能性を許さない。放置して、何か起こってからじゃ遅いんだよ。起こる前に対処する。必要なら殺す、どんな小さなトゲも見逃さないって……単純な話だね」

「……シャルティア……昔の口調になってるよ?」

「……ありゃ? これは失敬……珍しく、熱くなっちゃってたみたいっすね~」

おどけたように告げながら、深い闇を纏う幻王は夜の闇の溶けていき、その直前に呟いた小さな言葉は、誰に耳にも届かなかった。

「……もう、嫌なんですよ……大切な人が死んで私だけが残るのは……カイトさんは絶対に失わない……必要なら、私は……世界だって……滅ぼしてみせる」