軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラスボスはシロさんみたいだ

最高神の三方と話を終え、次はいよいよシロさんとの会話……予想のつかないシロさん事だから、またとんでもない事をしてくるんじゃないかと身構えていた。

しかし、シロさんは俺の隣に移動すると、無言のままで俺のおちょこに酒を注ぎ、風に揺れる景色を見つめる。

「……シロさん?」

どこか普段とは違う気配を感じ、首を傾げながらシロさんの名前を呼ぶと、シロさんはゆっくりと俺の方を振り向いた。

美しい金色の瞳が静かに俺を見つめ、湯に煌く銀白色の髪が神々しさを際立たせる。

「折角の機会です。時が来るまでは話さないと言いましたが、少し話しておく事にしましょう」

「……なにを、ですか?」

「以前、貴方が私に告げた『願い』についてです」

相変わらず抑揚のない声で告げるシロさんの言葉……以前俺がシロさんに頼んだ事についての話。

それは、俺がこの世界で過す1年間が過ぎた後……勇者祭が終わった後にどうするか……

俺はもう自分の身の振り方は決めていたが、それは俺一人で成し遂げられる内容では無かった。だからこそシロさんにその願いを頼んだ。

その時シロさんは「協力する事は約束する」といった上で「詳しい話は後ほど」と話していたのを覚えている。つまり、これからするのはその話についてだろう。

「貴方の願いに応じる事、それは構いません。ですが、貴方の願いを叶える事はかなり労力を必要とします……それは、分かりますか?」

「……はい」

確かに俺がシロさんに頼んだ事は、ある意味無茶苦茶で我儘なものだと思う。

だからこそ、ある意味この先の展開……何らかの条件を出されるのは覚悟していた。

俺は静かに頷き、シロさんの次の言葉を待つ。

「故に、私は貴方の願いを叶えるにあたって一つの条件を出します」

「はい」

条件……シロさんが提示するそれは、一体何なんだろう? 少なくとも以前のようにデートだとか、そんな話ではない事は雰囲気から伝わってくる。

だからこそ、心の中に芽生える不安を感じていたが……シロさんはそこで軽く手を動かす。

その動きが酒を飲む事を促すものだと理解し、おちょこに入っている酒を飲み干すと、シロさんはおかわりを注ぎながら口を開く。

「……快人さんの世界には、RPGというものがありますね」

「え? RPG? ゲームの、ですか?」

「はい」

なんで急にそんな事を? うん。ゲームは好きだったし、RPGは随分やり込んだと思うけど、なんでこの場面で?

俺が首を傾げながら聞き返すと、シロさんは表情を変えないままで続ける。

「RPGというゲームには、最後に乗り越える試練としてラスボスという存在が居ますね?」

「え、ええ……大体は……」

「では、これだけは今の内に告げておきましょう」

そこまで告げ、シロさんは感情の全く読めない目で、衝撃的な言葉を告げた。

「貴方がこの世界に来て、勇者祭が終わるまで……それを一つの物語とするなら、貴方にとっての『ラスボスは私』です」

「……え?」

なにを、言ってるんだ? シロさんが、俺にとってのラスボス? なんで?

「貴方はこれまで多くの者と出会い、多くの絆を紡いできました。ですが、まだ、足りません」

「……足りない?」

「ええ、少なくとも、今はまだ……条件の話に戻りましょう」

「ッ!?」

シロさんがそう告げた瞬間、表現する言葉が見つからない程の威圧感が重くのしかかってきた。

息をする事すら困難で、細胞の一つ一つが押しつぶされるようなプレッシャーを放ちながら、絶対の神は静かにそれを告げる。

「これから勇者祭が終わるまでの間、より多くの経験を積みなさい。多くの絆を紡ぎなさい。そしてそれを他の誰でもない、貴方だけの翼に変えて……私の前に立ちなさい。そして『私に勝利して見せなさい』」

「なっ!?」

「……それが、私が貴方に提示する条件です」

シロさんに勝つ? 俺が? この世界で最強の力を持ち、ほぼ全能に近いと言われる正真正銘の神相手に?

そんなのは、考えるまでもなく不可能……それは、つまり、俺の願いを叶える訳にはいかないって事なんだろうか?

そんな風に俺が考えていると、俺の思考を読みとったシロさんは静かに言葉を発する。

「安心して下さい。貴方に勝算の無い条件を出すつもりはありません。私と戦闘をしろと言っている訳ではありません」

「……じゃ、じゃあ、一体……」

「私は、勇者祭が終わった後で、貴方に一つの試練をかします。それを乗り越えてください」

「……もし、乗り越えられなかったら?」

創造神であるシロさんが課す試練……正直、どんなものか想像すら出来ない。

だから、ついそんな言葉が口を突いて出た。

「その場合、貴方の前に現れる選択肢は、他の異世界人達と同じものになります」

「……」

「ですが、もし、貴方がその試練を乗り越えたのなら……私はたとえ『貴方の世界の神と刃を交える』事になったとしても……貴方の願いを叶えましょう」

シロさんが何故そんな条件を出してきたのかは分からない。

だけど、たぶんコレはシロさんにとって重要な事なんだと思う……だからこそ、これ程重々しく真剣な空気を纏っているのだろう。

「多くを望むのであれば、それ相応の覚悟を持ちなさい……私に、貴方の真価を示しなさい」

「……はい」

「その真価を示せたなら……私は『貴方に求婚』しましょう」

「……はい?」

あれ? おかしいな……あまりに緊迫した空気だったから、耳がおかしくなってしまったんだろうか? 今、完全にこの場に似つかわしくない単語が聞こえた気がした。

「……あの、シロさん? 今、なんて?」

「貴方が試練を乗り越えたなら、私は貴方に求婚します」

「……んん?」

やっぱり、おかしい……なんか、求婚するって聞こえた気がする。

え? 今、俺、告白されてる? え? なんで?

「私は貴方に好意を抱いています」

「へっ!? あ、えと、はい……え?」

「ですが、なにぶん初めての経験ですので、今後どうすべきかの判断がつきません」

「は、はぁ……」

シロさんが俺に好意を抱いている? 冗談とかでは無いというのは、雰囲気から察する事が出来るんだけど……無表情のままなので、いまいち実感が湧かないというか、なんというか……

「なので、貴方がこの先得難い、無二の存在であるという確証が欲しい。真価を示して、私の心に確信と、きっかけを下さい」

「……一つ、いいですか?」

「はい?」

「……勘違いだったら、すみません。ひょっとして、もしかして、ですよ……条件だとか、言いだしたのって……」

「ただの口実です」

断言しやがった!? なんの躊躇もなく、条件の方は口実だと言いきりやがった!?

「そういう訳ですので、よろしくお願いします」

「え? あ、いや、ちょっと待ってください!? えと、その、つまり、えと……し、しし、シロさんは、その、俺の事が好き……なんですか?」

「はい。好意を抱いています」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

シロさんがあまりにも淡々と告げるので、何故かこっちの方が恥ずかしくなってしまう。

でも、シロさんが俺の事を好き……正直、考えた事すらなかった。

シロさんはなんていうか、本当に雲の上の存在というかそんな感じで……今までそんな風に意識した事は……いや、無いとも言いきれないかもしれない。

お、俺の方はシロさんの事をどう思っているんだろう? 正直ジークさんの時以上に不意打ちで、全く分からない。

「現在返事は不要です」

「……え?」

「私もこの好意が、全てに優先する程強いものなのか分かりません。なので、試練が終わった後で聞く事にします」

「……わ、分かりました」

考える時間は十分にあるという事か……でも、そうなると、ますますその試練ってのがどんなものなのか気になってくる。

ある意味それは、絶対の神であるシロさんを手に入れようとする行為でもあるって事は……やっぱり、相当とんでもないものなんじゃないかと思う。

「なので、勇者祭までは今まで通り親睦を深めましょう」

「あ、はい」

「では、さっそく」

「ちょっと、まって、シロさん……なんで俺の手を掴んでるんですか!?」

「生命神と同じように、親睦を深める事にします」

「いやいや!? あれは、間違った深め方……ちょっと、胸に手を持って行かないで!? 待って!?」

拝啓、母さん、父さん――シロさんが告げた言葉は、衝撃の連続だった。特にシロさんが俺に好意を抱いていると宣言した事は、本当に驚いた。ただ、やはり相手はシロさん……まったくの予想外ではあるが、どうやら本当に、俺にとって――ラスボスはシロさんみたいだ。