軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

深くて近い関係になれたと思う

突如告げられたジークさんの言葉……一人の異性として俺を好きだという告白。正直頭が全然状況に追いついていかず、茫然としてしまっていた。

なにか言わなければならない筈なのに、口は機能を停止したように動かず、思考も全く定まらない。

ジークさんの真剣な瞳、目を逸らさず覚悟のこもった表情……先程の言葉が本気である事は、もはや疑う余地すらない。

なにも言えずに固まる俺に対し、ジークさんは少しして表情を崩して苦笑する。

「……分かっています。今まで、カイトさんが私の事をそういう対象として意識していなかったのは……混乱は尤もだと思います」

「……あ、いや、えっと」

確かにジークさんの言う通り、俺は今までジークさんの事を恋愛の対象としては意識していなかった。

それは別にジークさんに魅力が無いとかそういう訳では無く、なんていうか、俺にとってジークさんは……憧れの女性、みたいな存在だった。

優しく頼りになる大人の女性で、高嶺の花とでも言うのだろうか? そんな風に見ていたと思う。

「……い、一体……いつから?」

情けない事に、口から零れたのは……話を引き伸ばすような質問だった。

そんな頭の整理が全く追いついていない俺に対し、ジークさんはどこか余裕を感じる微笑みを浮かべて口を開く。

「明確に自覚したのは、宝樹祭のときからでした」

「……そ、そんなに前から……」

「はい。でも、想いを伝える勇気が中々出てくれなくて、時間がかかってしまいました」

「……」

なんて、答えたら良いんだろうか? 分からない……全く良い返しが思い浮かんでこない。

ジークさんは凄いな……こんな状況でも落ち着いて微笑んでて、俺にはとても……

「……困る、だけですよね?」

「……え?」

少しだけ、ほんの少しだけ悲しそうな声で告げられたその言葉を聞き、今まで混乱して狭くなっていた視界が一気に開けた。

……ジークさんの、手……震えてる?

「ごめんなさい。急な事で混乱させるだけだと分かってはいたんですが……どうしても、この想いだけは伝えておきたかったんです」

「……ジークさん」

「返事は今でなくて構いません……急かしたりもしません。ただ、心の隅にでも……覚えておいてくれると、嬉しいです」

「……」

そう言って笑うジークさんの顔は、今にも泣き出しそうに見えた。

そしてジークさんは、そのまま俺から視線を外し、置いてあった魔法具を片付ける為に手を伸ばす。

「……そろそろ、出発を――え?」

「……ま、待ってください」

気付いた時には、俺は伸ばされたジークさんの手を握っていた。

何か意識した訳じゃない。頭は今も混乱したままだ……だけど、このままじゃいけないって、それだけはハッキリわかった。

「……少し、少しだけ、考える時間を下さい! 返事は、ここでします!!」

「ッ!? は、はい……」

ジークさんは俺に告白してくれた。俺が今までジークさんをそういう対象として見ていなかった事を知りながら、それでも勇気を振り絞って想いを伝えてくれた。

俺にもクロとアイシスさんに告白した経験がある。

クロの時はがむしゃらで、後の事を考える余裕なんてなかった。

アイシスさんの時は、アイシスさんがこちらに好意を抱いてくれているのを自覚していた……それでも、答えが返ってくるまで、凄く不安な気持ちになった。

今のジークさんはきっと、その時の俺以上に不安な気持ちでいっぱいの筈……俺の気持ちが分からない、返事が予想できない状態での告白、それには一体どれほどの勇気が必要だったのか……

もし、ここで、ジークさんの優しさに甘えて返事を保留にしたら……俺はきっと、そのままずるずると曖昧に引き延ばしてしまうだろう。

そうなったら、ジークさんはずっと不安な気持ちを抱え続ける事になる……だから、俺は、少なくとも今俺の心にある想いをしっかり確認して返事をしなければならないと思った。

こちらに向き直ったジークさんの前で、俺はゆっくりと目を閉じて思考を巡らせる。

俺はジークさんの事をどう想っているのだろうか? どんな風に、この先この人と接していきたいのだろうか?

まずは、ジークさんの事を尊敬できる大人の女性とか、高嶺の花とかそういう風じゃなくて……一人の女性として見た場合。

好きか嫌いかで言えば……当然好きだ。今だって、告白された事、好意を抱いてくれていること自体は本当に嬉しい。

初めて出会った時のジークさんは、スラッとしたスレンダーな体に美しい顔で、クールな人物って感じの印象だった。

だけど、話してみると細かな所にまで気を配ってくれる優しい人で、紅茶を淹れたり料理をしたり、そんな家庭的な趣味を持つ穏やかな女性だった。

リリアさんの屋敷に来たばかりで、あまり好意的な目で見られていなかった俺に対して、奇異の視線を向ける事もなく接してくれて、それが嬉しくて多く会話をするようになった。

宝樹祭から帰ってからは、時々俺に手料理を振舞ってくれたり……時間を持て余し気味だった俺に、料理を教えてくれたりした。

イータとシータに襲われた時は真っ先に駆けつけてくれ、俺の為に命をかけて戦ってくれた。

ベルを飼うようになってからは、動物を飼った経験の無い俺に色々と世話の仕方を教えてくれて、仕事の合間にもよく手伝いに来てくれた。

俺、馬鹿だなぁ……こうやって思い返してみれば、ジークさんがこちらに好意を向けてくれているのは、行動のあちこちに現れてた筈なのに、全然気付かず、ジークさんの優しさに甘えていた。

どんだけ鈍感なんだ俺は……

ジークさんとの思い出、ジークさんと交わした言葉、ジークさんの想い、それを一つ一つ思い出しながら、俺はゆっくりと目を開いて、美しい碧色の目を見つめる。

「……ジークさん」

「は、はい!?」

「正直、よく分かりませんでした……ジークさんの言う通り、今まで俺はジークさんの好意に気付かないままで、今咄嗟になって考えても、結局しっかりと纏まりませんでした」

「……無理も、ないと思います。先程言った通り、私は焦りませ――「だけど!」――」

少し寂しげに顔を伏せたジークさんの言葉を遮り、俺はジークさんの両手を包みこむように握りながら言葉を続ける。

「ジークさんの事を、好きか嫌いかと尋ねられたら、俺は迷わず好きだと答えます!」

「ッ!?」

そう、スマートな答えは出てこなかった。カッコいい返事なんてのは思い付かなかった。

だけど、今まで勝手に付けていたジークさんに対する認識のフィルターを全て取り除いたとしても、ジークさんの事が好きだという気持ちは確かにあった。

「凄く身勝手な言い分なのは、自覚してます」

「……」

「だけど……今日、この瞬間から、ジークさんの事を一人の異性として、恋愛の対象として見て、接したとして……今以上に貴女の事を好きにはなっても、嫌いになる事はあり得ないって断言できます!」

「ッ!?!?」

そう、本当にそれだけは確かな事だと思った。

これからジークさんと共に歩んだとしたら……俺はきっと今以上にジークさんを好きになる。そして、嫌う事はあり得ない。

ジークさんに告白されて嬉しい、ジークさんの事今以上に知りたい。もっと好きになりたい。

それはもう……一つの想い、明確な答えだと思う。

「だから、えっと……だから……これからは、恋人として……ジークさんの事をもっと沢山教えてください。俺の事をもっと沢山知ってください……貴女を、今以上に好きにならせてください」

「……は、はい!」

それが俺の選んだ答え……これから先、ジークさんと恋人同士になって色々な事を知りたい、色々なものを見たい。

俺の答えを聞いたジークさんは強く首を縦に振った後、目から大粒の涙を溢す。

「……え? あ、あれ? う、嬉しいのに……なんで……」

「……ジークさん」

「あっ……」

幸せそうに頬を染めながら、溢れる涙を拭っているジークさんの体を、そっと抱きしめる。

「その、鈍感で馬鹿で、頼り無い男ですか……これからも、よろしくお願いします」

「……はい。私の方こそ、臆病で頼り無い女ですが……よろしくお願いします」

何となく、今までより互いに一歩近くに来たような……心の距離が、一つの境界を越えたような感覚を味わいながら、涙を流すジークさんを抱きしめ続けた。

拝啓、母さん、父さん――ジークさんと、恋人同士になった。鈍感で馬鹿な俺は、まだようやく歩み寄り始めたばかりで、これから一杯頑張らなくちゃいけないと思う。けど、今、確かに、俺達二人は今までより――深くて近い関係になれたと思う。