軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幸福に満ち溢れていると思う

クロと恋人同士になって初めてのデート。緊張する事も多いし、クロの思わぬ反応にドキッとさせられる事も頻繁にあった。

クロが今まで見てきた景色でもキラキラして見えると言っていたが、それは俺にとっても同じで、クロが隣にいる。それだけで、見慣れた王都の景色も、いつもより美しく見えた。

露店街での食べ歩きも、ウインドゥショッピングも、食休みの休憩でさえも、柔らかく暖かく……ああ、これが幸せって事なんだと、心から実感する事が出来た。

しかし楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎてしまうもので、気がつけば夕日が街並みを茜色に照らしていて、今日という時間の終わりが近い事を伝えてきた。

もうすぐこの幸せなデートの時間も終わると思うと、どうしようもなく寂しい気持ちになってしまう。

それは隣を歩くクロも同様のみたいで、指を絡め……いわゆる恋人繋ぎをした手をギュッと握ってくる。

「クロ、これから、どうしても行きたい所があるんだ」

「行きたい所?」

「うん、でも、ちょっと遠いんだけど……」

「それなら、ボクが連れていくよ。どこ?」

寂しそうな表情を浮かべていたクロに、出来るだけ穏やかな声で話しかけると、クロは首を傾げながらも俺の行きたい場所に連れて行ってくれると返事をくれた。

「……前に、クロとバーベキューをした河原に行きたいんだけど、いいかな?」

「え? う、うん。それは大丈夫だけど……今の時期に行っても、ライトツリーは光らないよ?」

「ああ、それは大丈夫……頼めるか?」

「うん、勿論!」

以前見た魔力を貯めて月に一回の周期で光る木……ライトツリーが見えないのは確かに惜しいが、今回の目的はライトツリーでは無い。

そうクロに告げると、クロは頷き、黒いジャケットが大きな翼の形に変わる。

そしてクロは以前のように脇の下に手を入れるのではなく、後ろから俺を優しく抱きしめ、ゆっくりと翼を動かす。

フワリと優しく体が浮かび上がり、街並みがどんどん下へ流れていく。

茜色に染まる美しい街並みを眺めつつ、背中に感じるクロの温もりを感じながら、俺とクロは目的の場所へ移動する。

目的の河原に辿り着くと、クロは翼をジャケットに戻し、ゆっくりと体を伸ばす。

「ん~風が気持ちいね」

「確かに」

河原には微かに風が吹いており、草木の匂いと共に頬を優しく撫で、それがとても心地良かった。

「それで、カイトくんは何でここに来たかったの?」

「……えっと、実は……本当は俺、ここでクロに告白するつもりだったんだ」

「ふぇ?」

微笑みを浮かべながら告げた俺の言葉を聞いて、クロはキョトンとした様子で目を丸くする。

そう、俺は初めデートプランを考えていた時、最後にこの場所を訪れて、クロに告白しようと考えていた。

アリスから聞いた話によって、俺自身思う所があったので予定を早めはしたが、それでももう一度この場所にクロと一緒に来たかった……だって、ここは……

「……ここは、俺にとってすごく大事な場所なんだ。クロが、俺の事を救ってくれた場所……俺に、前を向いて歩く勇気をくれた場所だから」

「……カイトくん」

場所もそうだが、時刻的なシチュエーションも完璧と言っていいタイミング。

夕焼けが見える時間帯に、俺はクロと初めて出会った訳だし、この辺りは思わぬ偶然に感謝かな?

「……初めはさ、何で勇者召喚になんて巻き込まれたんだろう、いい迷惑だって思ってた」

「うっ、ご、ごめん」

「だけど、今は、本当に、心から感謝してる」

「え?」

そう正直に言ってしまえば、最初は不安でいっぱいだった。頭の中ではラノベみたいな展開だなんて誤魔化していたけど、見ず知らずの場所、初めて目にする文化、面識も無い人達……ハッキリ言って怖かった。

だけど、それは本当に最初だけ、今は勇者召喚に巻き込まれた事に心から感謝している。

「クロは気付いてるかもしれないけど、俺は昔少し色々あって、ずっと自分の殻に閉じこもってた。外面だけ必死に取り繕って、自分に言い訳ばかりして、逃げてばっかりの……どうしようもなく弱い人間だった」

「……」

「……クロと初めて出会った時は、クロの事、変な奴だって思ってたよ」

「あはは……酷いや」

頭をかきながら告げる俺の言葉に、クロは苦笑しながら応える。

決して空気は悪いものでは無く、むず痒く、それでいてとても心地良い。

「強引で突拍子も無くて……それでいて俺の全部を見通してるみたいで、俺の欲しい言葉を欲しい時にくれて……俺の心に手を差し伸べてくれた」

「……ボクはそんな、凄い事をした訳じゃないよ。少しだけ、カイトくんの背中を押しただけ」

「……それが本当に嬉しかったんだ。ずっと立ち止まったまま動けなかった俺の背中を押してくれて、もう一度頑張ろうって前向きな気持ちにしてくれた。クロと出会って無かったら、きっと俺は今も俯いたままだったと思う」

これは本当に心からの言葉だ。

俺はクロと出会えたおかげで救われた。俺にとって人生で最大の不幸が両親の死なら、最大の幸運はクロと出会えた事……それほどまでに、俺にとってクロの存在は大きなもの。

「俺が頑張ったら一緒に喜んでくれて、落ち込んでたら慰めてくれて……ずっとクロの笑顔に支えられてきたし、いつもクロが隣に居てくれたんだって実感できる」

「……カイトくん?」

「……クロ、本当にありがとう。俺と出会ってくれて、俺を救ってくれて……そして、俺は、これからもクロの笑顔を傍で見ていたい」

「あっ!?」

そこまで告げた所で、俺はクロの手を掴みぐっと引き寄せ、その華奢な体を強く抱きしめる。

「だから、改めてになるけど……言わせてほしい。クロ、お前が好きだ。本当に、心から……」

「あっ……ぅ……カイト……くん」

しっかりとクロの美しい目を見つめながら想いを告げると、クロは感極まったように目を潤ませ、強く俺を抱き返してくる。

互いの温もりが混ざり合うように、心が深く繋がりあう感覚を味わっていると、クロがゆっくり涙交じりの声で告げる。

「……お礼を……言うのは、ボクの方だよ」

「クロ?」

「ボクはカイトくんを育ててあげようって、手助けしてあげようって思ってた……でも、カイトくんと出会って、本当に救われたのはボクの方だよ」

目に涙を浮かべ、クロは俺の胸に顔を埋めながら、万感の思いを込めた言葉を続ける。

「……カイトくんの翼は、ボクなんかじゃ想像もできない位、綺麗で大きくて……ずっと、自分にさえ嘘をついてたボクの心を、救ってくれた」

「……」

「カイトくんと出会えなかったら、ボクはきっと諦めてた……ずっと欲しかったものは手に入らないんだって、望んだって叶わないんだって……でも、ボクの欲しかったものは、カイトくんがくれた。カイトくんに宝物を見つけてもらおうって思ってたのに、宝物を貰ったのはボクだった」

「……クロ」

クロの想い、愛情が痛いくらいに伝わってくる。そして、それと同じように、俺がクロを想う気持ちも余す事なく伝わっていると確信できた。

今、俺とクロは何よりも強い絆で深く結ばれていると、当り前のように確信できる。

「……ありがとう、カイトくん。ボクと出会ってくれて、ボクの事を好きになってくれて……カイトくんと出会えた事が、ボクにとっては今までで一番の奇跡だよ」

「俺も、同じ気持ちだよ。クロと出会えて本当に良かった」

「……カイトくん」

「……クロ」

それ以上の言葉はなにも必要なく、惹かれあうように俺とクロの顔が近付き、ピッタリと唇が重なる。

微かな隙間すら許さないと言わんばかりに、俺とクロの体はピッタリと密着し、夕日に伸びる影が一つになる。

どれぐらいそうしていたのだろうか、夕日が沈むまでの時間が一瞬に感じる程の幸せなひと時を味わい、どちらともなく唇を離す。

クロと俺の口の間に銀色の糸がかかり、長い時間口付けを交わしていた事を鮮明に示していた。

「……カイトくん。ボク……まだ、カイトくんと離れたくない。一秒でも長く、カイトくんを感じていたい」

「……俺も、クロの事を離したくないよ。だから、もうしばらくこのままで……」

「……うん」

「……クロ」

「……カイトくん」

「「愛してる」」

拝啓、母さん、父さん――異世界で俺に訪れた人生最高の奇跡は、今、本当に確かなものになってくれた。全身に感じる温もりと、心に沸き上がる愛情、これから先もこの愛しい恋人と歩く未来は、きっと――幸福に満ち溢れていると思う。