軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話・クロムエイナ②~芽生えた心~

各地で強大な魔力がぶつかり合い大地が大きく揺れる中、神門の前でもまた激しい戦闘が繰り広げられていた。

「あぁ、くそ! 俺も最高神とやりたかったぜ!!」

『相性と言うものがある。この割り当てが最善じゃ……そも、油断するなよメギド。上級神とて、個々の力は強大じゃ』

黒い体毛を燃え盛る炎の如く揺らしながら剛腕を振るうメギドは、最高神と戦えなかった事に不満げな表情を浮かべている。

そんなメギドを嗜めつつ、マグナウェルが迫りくる神族にブレスを吐く。

広範囲を高威力で薙ぎ払うマグナウェルのブレスだが、流石に神族達も雑兵では無く精鋭、防御魔法を得意とする神族が即座に前に出て障壁を展開する。

『リリウッド、前に出るな……この数じゃ、ワシらと言えども魔力が持たん。お主のフォローが無くては押し切られる』

『心得ています。回復と魔力供給はお任せを……』

リリウッドはメギドとマグナウェルの後方に居て、巨大な木を何本も自分の周囲に造り出していた。

木々は空気中の魔力を急速に吸収し、その魔力をリリウッドは前線で戦うメギドとマグナウェルに供給していた。

いってみればこの戦いは6体の魔族対神族総員とも言え、数の上では明らかに不利……リリウッドが戦いの要とも言える。

「……ッ!? なん……だ……」

迫りくる神族を順調に蹴散らす三体だが……突如拳を振るっていたメギドの動きが止まる。いや、メギドだけでは無く、マグナウェルもリリウッドも当人の意志とは関係なく体が硬直する。

『……ついに、来よったか……』

『……理解は、しているつもりでした……ですが、直接目にすると……なんて凄まじい……』

三体の動きが止まるのとほぼ同時に、神族達も攻撃と手を止め一斉に片膝をつく。

今、侵略者たちの前に……戦場に、神界の頂点、世界最強の存在……創造神・シャローヴァナルが降臨した。

対峙した訳ではない、ただその姿を瞳に映しただけで、体が無条件に降伏するかのような絶対的な圧力。

放たれる魔力は、正しく桁が違い……一瞬で神界全土を覆い尽くし、侵略者たちの動きを止める。

「貴様等はもう、終わりだ……シャローヴァナル様が降臨された今、命はない」

神族の一体がそんな言葉を発する。それは誇張でもハッタリでもなく、純然たる事実。シャローヴァナルには感情の欠片も存在しないと言っていい。

抗うものは淡々と、冷徹に処理する……そこに容赦など一片も存在しない。

しかし死の宣告に等しい言葉を告げられながらも、三体の魔族は一切動揺した様子はない。

それどころか、口元には笑みすら浮かんでいた。

『……終わり? 違うのぅ』

『……ええ、ここが始まりです』

「なにを……」

マグナウェルとリリウッドが告げた言葉を聞き、神族達が怪訝そうな表情を浮かべる中、咆哮の如くメギドが叫ぶ。

「おらっ! 引きずり出したぞ!! こっからはテメェの仕事だ! クロムエイナ!!」

「ッ!?」

瞬間――神界の空が漆黒に染まった。

黒い霧が雲のように空を覆い、金色の瞳が現れると同時に、メギド達を襲っていた圧力が消える。

シャローヴァナルは現れたクロムエイナを見ても、何の感情も表情に宿す事はない。

まるで感情など存在しないとでも言える様相で対峙しているシャローヴァナルを見て、神族達はシャローヴァナルの勝利を欠片も疑って無かった。

この世にシャローヴァナルと戦える者など存在しない……その常識とも言える考えは、黒い霧が拳の形を成し、シャローヴァナルを遥か彼方に殴り飛ばした瞬間に崩壊した。

「……ば……か……な……シャローヴァナル様を……なんだ……あの化け物は……」

離れた場所からその光景を目にしたクロノアは、信じられないと言いたげに呟く。

そしてシャローヴァナルを殴り飛ばし、即座にそれを追うように移動し始めたクロムエイナを見て、クロノアは即座に動き始める。

「そこをどけっ!!」

「……どきません。クロム様の邪魔は……許しません」

立ちはだかるアインに向かい、先程までは神界への被害を考えて抑えていた力を全て解放する。

一刻も早くアインを倒し、シャローヴァナルの元に向かいたいクロノアと、クロムエイナの為に、何としてもここでクロノアを食い止めたいアイン。

苛烈な感情を宿す両者は、一秒に満たない時間で数千発の拳の応酬という凄まじい戦いを繰り広げ始めた。

そしてライフもまた、シャローヴァナルが殴り飛ばされるのを見て決着を急ぐ。

「もはや、神界の地が滅んでも構いません……排除させていただきます!」

ライフの体が強い光を放つと、上空に巨大な岩がいくつも現れ、まるで雨のようにアイシスに降りそぞぐ。

生命を司るライフが造り出せるのは有機物だけでは無い……無機物ですら、彼女は造り出す事が出来る。

しかし、それは……アイシスにも言える事だった。

「……なら……私も……本気を……出す!」

「ッ!?」

アイシスの体の青白い光が強くなると共に、死の魔力が目視できる程に濃い色となって放たれ、降り注いでいた岩が消滅していく。

「くっ……(この魔族、無機物すら殺せるのですか……でも、これ以上長引かせる訳にはいきません。一刻も早くシャローヴァナル様の元に行かなければ)」

桁外れの質量を造り出し、続けざまにアイシスに攻撃を仕掛けるライフに対し、アイシスもまた死の魔力を全開にして応じる。

幾千幾億もの命が生まれ、即座に死んでいくその光景は、美しくも戦慄を感じさせるものだった。

「……アテが、外れたかな?」

「うん? どうしたんすか?」

シャローヴァナルが殴り飛ばされるのを見て手を止めたフェイトが呟き、シャルティアが首を傾げる。

フェイトはそのままゆっくりと、乗っていたクッションから降り、静かに目を閉じる。

「最終的にシャローヴァナル様が全部片付けてくれるって思ってたけど……状況、変わったね。こりゃ、手を抜いてなんていられないや」

「……あ~なんかヤバそうな雰囲――がっ!?」

低い声で呟くフェイトを見て、ただならぬ気配を感じ取ったシャルティアは即座に距離を取ろうとしたが、次の瞬間強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされた。

空中で体勢を立て直し着地するシャルティアに向かって、フェイトは『金色に変わった目』を向ける。

「……一つだけ、教えておいてあげる。正面から小細工なしの殴り合いなら時空神が一番強い……でも、能力まで含めた戦闘力で言えば、私は『最高神の中で最強』だよ」

「……でしょうね。今の攻撃も、避けたと思ったんすけど……」

「無駄だよ。私が本気を出した以上、運命は決まった。貴女の攻撃は私に当らない、私の攻撃を貴女は避けられない」

「……おっそろしい力っすね。その目はさしずめ『運命を見る瞳』ってやつですか……」

金色の目に変わったフェイト……本気を出した彼女は、現在の運命だけでなく未来の運命にまで干渉する事が出来る。

即ち、フェイトにはシャルティアの未来が察知できる。何処を攻撃してくるか、どこを狙えば回避できないか……その全てを見通す事が出来る彼女には、最短でシャルティアを倒す道が見えている。

「……貴女が最高神中最強なのは予想してました……だから、私が来たんですよ」

「私に勝てるって事? つくづく道化だね……そんな未来は――え?」

「これ、内緒にしておいてくださいね……なにせ『この世界には存在しない魔法』ですから……」

口元を歪め笑うシャルティアを見たフェイトに初めて動揺が走る。

シャルティアの運命は未来まで見据えていた筈なのに、今それが変わっていた。

「……(なに、これ? 運命が変わってる? いや、それにしてもこんな変り方……まるで『別の存在』になったような……いや、違う。これはコイツの中に他にもナニカがいる!?)」

「……『ヘカトンケイル』」

「なっ!? な、に……それ……」

「私の生きた世界にはあったんすよ。心そのものを武器にして戦う術が……さあ、私の切り札、私が積み重ねてきた絆……存分に味わってください!」

「ッ!?」

全力を開放した運命神に対し、シャルティアも切り札を切った。

かつてここでは無い世界で英雄と呼ばれた少女の、真の刃を……

苛烈な戦いを繰り広げる最高神達と違い、クロムエイナとシャローヴァナルの戦いは一方的なものになっていた。

クロムエイナが造り出した漆黒の空間の中で、次々に振り下ろされる拳を受け、嵐の中を舞う木の葉のように吹き飛ぶシャローヴァナルだが、表情に変化はない。

ダメージは確実に受けている様子ではあったが、シャローヴァナルは抵抗することは無く、ただただクロムエイナに殴られていた。

「……理解できません。何故、あの魔法を使わないのですか? アレを使えばすぐに終わるでしょう?」

抑揚無く告げるシャローヴァナルの声を聞き、クロムエイナは最も力を発揮できる本来の姿……即ちシャローヴァナルと同じ姿に変わる。

「……ボクは君を殺す気なんてないからね。ただむかついたから殴りに来ただけ」

「なぜ?」

「自分で考えてみたら?」

「思考する意味を感じません。私が不要なら処分すればいい、世界が不要なら破壊すればいい。貴女にはそれだけの力を与えています」

「……っ!?」

淡々と告げたシャローヴァナルの言葉を聞き、クロムエイナは明らかに苛立ちを強くする。

「世界を破壊すればいい? そんな事、お前が勝手に決めるな!! 確かに君はこの世界を造った、だけどこの世界は、この世界に生きる子たちのものだ! 造っただけでロクに関わりもせず、何もしてこなかった君にそんな事を決める資格はない!!」

「成程」

「そもそもボク一人に判断を丸投げして、自分じゃ何も考えてないのが一番腹が立つんだよ! 君は、世界を造った君は、この世界をどうしたいんだ! この世界にどうあって欲しいんだ! この世界は君にとっての何なのか……それくらい、考えろ!!」

「それは、貴女が決めればいい。貴女は私です。貴女の判断は私の判断でもある」

「ふ、ざ、けるな!!」

「ッ!?」

クロムエイナの拳が、シャローヴァナルの顔面を捕らえ、シャローヴァナルの体が大きくのけぞる。

そのままクロムエイナは怒りを込めた瞳でシャローヴァナルを睨み、吠えるように言葉を発する。

「そんなの、逃げてるだけじゃないか……確かにボクと君は元々は一つだった……だけど、見てきたものも、考え方も違う、世界との関わり方だってそれぞれ違う! ボクはこの世界が好きだ、君の造ったこの美しい世界が好きで、この世界と共に生きたいって思ってる!」

「……」

「お前はどうなんだ! この世界はお前が造ったんだろ!? だったら、自分がどう世界と関わっていくか、逃げずに責任もって自分で決めろ!! 勝手に終わった気になるな!! 自分の気持ちくらい……ボクに頼らず、自分で考えろ!!」

「……」

かつて自分と同じ存在だった者の叫び、世界と共に生き世界を愛した自分自身からの叱咤。

それを聞いてシャローヴァナルは何も言わない、沈黙したままでクロムエイナを見つめ……表情を変えないまま、クロムエイナを殴り飛ばした。

「ぐぅっ!?」

「……」

「……初めて、反撃したね? なんで?」

「……何故でしょう? 負けたくなかった……のですかね?」

「なんだ……ちゃんと、心あるんじゃないか……」

「……不可解なものです。なにやら、思考が揺れる……合理的では無い」

振り抜いた己の拳を不思議そうに見つめながら、シャローヴァナルはクロムエイナの方をゆっくりと見つめる。

そんなシャローヴァナルを見て、クロムエイナはどこか嬉しそうに微笑みを浮かべ、拳を構える。

「じゃ、喧嘩してみようか? そしたら、何か分かるかもね」

「……やってみますか……貴女の言う通り、私にも心があり感情があるのか、確かめてみましょう」

その言葉と共に、クロムエイナとシャローヴァナルの拳がぶつかり合う。

元々が一つの存在だった彼女達は互いの能力を無効化する為、戦いは純粋な殴り合いになる。

一撃一撃が世界を崩壊させる程の威力の拳を振るいながら、それでも、初めての喧嘩をするシャローヴァナルは……どこか楽しげだった。

どれだけの時間殴り合っていたのだろうか、クロムエイナとシャローヴァナルは、ほぼ同時に漆黒の空間に仰向けに倒れる。

「……うひぃ……しんどぃ……」

「……疲れました」

大きく息を吐きながら疲れたと溢すクロムエイナに、シャローヴァナルも抑揚の無い声で同意の言葉を返す。

「……で、どう? 自分に心があるかどうかって、ちゃんと分かった?」

「……ええ、これが心で、これが感情ですか……酷く不確かで、合理的では無いですね」

「そりゃそうでしょ……不要だと思う?」

「いえ、そうですね……確かに合理的では無いですが、成程……悪くはないものです」

淡々と返しながらも、シャローヴァナルの言葉は先程までよりも柔らかく、感情の欠片を感じさせていた。

ずっと己には無いものだと、不要なものだと思っていた心……それを見つけた事で、シャローヴァナルの考えにも変化が現れた。

「……考えてみる事にします。私は世界をどう思っているのか、世界をどうしたいのか……それが世界を造り出した私の責任……ですね?」

「そう言う事、まぁ、シロは石頭っぽいし、困ったらボクが相談に乗ってあげるよ」

今後は世界を見てみると告げるシャローヴァナルの言葉に、クロムエイナは満足そうに頷いた。

「……シロ?」

「そっ、シャローヴァナルだから、シロ! あ、ボクの事はクロって呼んでね」

「クロ、シロ……安直な略称ですね」

「うっさい!」

先程まで殴り合っていたとは思えないほど穏やかな言葉を交わし、どちらともなく起き上がる。

クロの姿が少女に変わり、そしてそれに呼応するように漆黒の空間は消え、神界の大地が現れる。

かなり長い時間戦っていた筈だが、漆黒の空間は時間の流れが違っていた為、殆どシャローヴァナルが殴り飛ばされた直後の神界に戻ってきた。

そしてシャローヴァナルの力により壊れた神門も、傷ついた神族も……侵略してきた魔族達でさえ、全て元通りになった。

戦いの終了を告げるシャローヴァナルの言葉が神界に響き、元々クロムエイナを送る目的だった魔族達もすぐに矛を収めた。

世界に語り継がれる神界と魔界の戦争……後に六王と呼ばれる魔族達と、神族の戦いは……引き分け……和解という形で幕を降ろした。

創造神シャローヴァナルの中に、心と言う確かな成果を宿して……

「……疲れたのは、初めてですね」

クロムエイナ達魔族が帰り、クロノア達に引き分けだったと伝えた後で、シャローヴァナルは宣言通り、空中庭園に立ち世界を見つめていた。

今まで見ずにいた己の造り出した世界、それを静かに見つめていると、ふとシャローヴァナルの過去、現在、未来、全ての光景を見る目に一つの光景が映った。

真っ直ぐに力強い目で自分を見つめる、薄い茶の髪をした人間の男の姿が……

「……誰でしょう? 私が、人間と対峙する? そんな未来が訪れるのでしょうか? ……未来とは不確かなもの、こうなるとは限りませんが……」

そう呟きながら、シャローヴァナルの口元には小さな笑みが浮かんでいた。

そしてその時見た光景が、現実へと代わり、考え続けても結局分からなかった答え……自分が世界をどう思い、世界とどう接したいのか……その答えを、人間の青年が教えてくれるのは……2万年と言う時間が流れてからだった……