軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

願いだと思った

六王は全員クロの元雛鳥、そう告げたアリスの言葉に俺が茫然としていると……アリスは真剣な口調のままで言葉を続ける。

「神界との戦いについては、今はあまり関係ないので置いておきましょう。重要なのは、私達は皆クロさんをずっと昔から知っているという事……当然、クロさんが何を求めているかも知っています」

「……」

クロは以前精霊の森で、ずっと欲しくて手に入らないものがあると告げていた。

結局それが何なのかは今の今まで分かっていない……クロに手に入らないものとは、一体何なのか、正直なところ想像すら出来ない。

アリスはそこで一度言葉を区切り、顔を微かに伏せて言葉を続ける。

それはアリスだけじゃなく、アイシスさんもリリウッドさんも、メギドさんもマグナウェルさん……マグナウェルさんの顔は見えなかったが、皆歯痒そうな表情を浮かべていた。

「……今もクロさんがそれを探しているという点からも分かるでしょうが……私達では、クロさんの求める存在にはなれなかった」

「クロが、求める存在?」

「……はい。それは、私達になまじ力があるから……カイトさんから見れば、私達の力は圧倒的に映るでしょう。ですが、それでも『クロさんの足元にも及ばない』……ハッキリ言います。私達5体が死力を尽くして戦ったとしても、クロさんに傷一つ付ける事は出来ない……それほどまでに大きな力の差があります」

「ッ!?」

クロが強いというのは当然分かっていたし、メギドさんの反応から他の六王よりも格上という事も理解していた。

しかしそれぞれが常識外の力を持つ六王が束になっても、傷一つ付けられないとまでは考えていなかった。

「クロさんは、この世界で唯一……絶対の神であるシャローヴァナル様を殺す事が出来る存在。私達とは力の次元が明らかに違います」

この世界最強の存在であり、ほぼ全能に近い力を有しているシロさんを……クロは殺す事が出来る。それは一体どれほどの強さなのだろうか? 正直頭に思い描く事すら出来ない。

するとアリスは、そっと視線を外し……虚空を見つめながら悲しい声で呟く。

「でも、あの方は……優しすぎる。世界に生きる者達を愛しく想い、映り変わる世界を愛し続ける……どうしようもないほど優しい方……そして皮肉にもそれが、クロさんを苦しめ続けている結果にも繋がっています」

「……クロが苦しんでいる? それって、一体……」

「それ以上は言えません。言えば、きっとカイトさんはソレを意識した上でクロさんの前に立つ……それでは、意味が無いんです」

「意味が無い?」

「はい……貴方はなによりも貴方らしく、真っ直ぐなままでクロさんに想いを告げてください……それが唯一、クロさんを救える道だと私は思っています」

分からない……一体アリスが何を言ってるのか、クロが何を求めているのか……まるで分からない。

だけどアリスはクロが苦しんでるといった、そして救ってほしいと……なら、アレコレ考える必要なんかない。

クロが助けを求めていて、俺にそれをどうにかする事が出来るのであれば……俺は死に物狂いでクロに手を伸ばす。何も迷う必要なんかない。

「……カイトさん……やっぱり、貴方は、素敵な人ですよ……これを」

「コレは?」

俺の中で意思が固まるのを見計らうかのように、アリスは微笑みを浮かべて……金色に輝く木の実を差し出してきたので、それを反射的に受け取る。

「クロさんに想いを伝える前に、それを渡して下さい……そうすればきっと、いえ、間違いなくクロさんは……貴方を『拒絶』する」

「……え?」

いやいや、想いを伝えようとしてるのに、間違いなく拒絶されたら駄目なんじゃ……

「あの方は、あまりにも長くその存在を求め続けていました。何百年も、何千年も、何万年も……無理だと諦めてしまうほどに……だから、突然起こった奇跡を信じられない。求め続けても手に入れられなかったものが、ふいに差し出される事に恐怖を感じるでしょうね」

「……」

「そこからが、勝負です。クロさんは貴方を強く拒絶する。けど、それは裏を返せば、普段は隠し続けているクロさんの心の奥底が表に出てくるって事です……そこからどうするかは、カイトさんに任せます。クロさんの本心を確かめ、その上で答えを出して下さい」

「……分かった」

相変わらず意味は分からない。でも、もう、覚悟は決まった。

要するに……クロも俺と同じって事なんだろう、昔自分で作ってしまった殻に本心を隠し、自分ですらそれを壊せなくなってしまっている。

勿論重ねて来た年月が違う、クロの心の奥を覆い隠す殻は、俺のものとは比べ物にならない程だろう……だけど、クロは俺を救ってくれた……なら、どうするかなんて決まってる。

そんな俺の意思を感じ取ったのか、アリスは深く頷く。

「……では、今日ここに来てもらった本題に移りましょう」

「え? 本題?」

「はい……さっき言った通り、クロさんの力は私達とは次元が違います。カイトさんの心がいくら強かろうが、クロさんが本気で拒絶すれば……カイトさんの体がもたない。クロさんの魔力に押しつぶされてしまう」

その言葉を聞いて頭に思い浮かんだのは、以前クロが俺の感応魔法について探る為、少しだけ魔力に殺気を込めた際の事……あの時、俺は死を覚悟し、心が折れかけた……それほどまでにクロが敵意を込めた魔力というのは強烈なんだ。

恐らく本気で殺意を込めれば、アイシスさんの死の魔力すら上回るほどに……

そんな事を考えていると、アリスは俺の前に手を伸ばし……手の前に輝く球体を作りだす。

「……ですから、カイトさん。今から、貴方に……私達の魔力を貸し与えます」

「……へ?」

「私達の魔力を使って、カイトさんに強力な防御魔法を施します。それでも、クロさん相手では長く持たないでしょうが……対峙した瞬間に気絶とかは無くなると思います」

そう告げた後、アリスは俺の前まで来て、その魔力で作った球体を俺の体に触れさせる。

桁外れに強大な魔力が体に流れ込み、それが膜を作るような感覚を覚える中、アリスは俺の前で仮面を外し……青い目で俺を見つめる。

「……シャルティア……『私がかつて生きた世界』の言葉で『一欠片の幻想』……貴方は、虚ろな幻影でしかなかった私を確かな 私(アリス) にしてくれた……どうか、なによりも、貴方にとって……幸せな結末になりますように……」

「……アリス」

そう言ってアリスは仮面をつけ直し、俺の前から移動する。

すると次に俺の前にはメギドさんが、アリスと同様に魔力で出来た球体を持って近付いてくる。

「カイト……テメェはおもしれぇ奴だ。負けるんじゃねぇぞ、まだ俺のリベンジマッチが残ってんだからな……」

「……メギドさん」

メギドさんの魔力が俺の体に吸い込まれると、次に足元から威厳ある声が聞こえてくる。

『前人未到の偉業へ挑む……若者とは無鉄砲なくらいが丁度良い。ミヤマカイト……奇妙な縁を持つ異世界の若者よ……開拓者であれ』

「……マグナウェルさん」

足元から浮かび上がったマグナウェルさんの魔力が俺の体に流れ込み、さらに体を覆う膜が強化されていく。

『……カイトさん。クロムエイナを……私達の母と言える存在を、どうか、よろしくお願いします』

「……リリウッドさん」

リリウッドさんが穏やかに告げた言葉と共に、リリウッドさんの魔力も俺の体に流れ込んできた。

そしてリリウッドさんが俺の前からどくと……ゆっくり、アイシスさんが近付いてくる。

「……カイト……クロムエイナを……助けてあげて……クロムエイナは……ずっと……私よりも長く……苦しみの中にいる」

「……アイシスさん」

「……カイトなら……きっと大丈夫……だって……カイトは……私を救ってくれたから……」

そう言ってアイシスさんはそっと俺の体を抱きしめ、同時に暖かな魔力が流れ込んできた。

拝啓、母さん、父さん――結局クロの求めるものについては、ハッキリとは分からなかった。ただ、六王の皆が俺に託してくれたのは、ただの魔力ではなく、皆の――願いだと思った。