軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クロをデートに誘ったよ

夜、すっかり見慣れた部屋で、俺は少々困った表情を浮かべていた。

「むぅぅぅぅ……」

「いや、だから、国王だって悪気があった訳じゃないと思うんだよ」

俺の前でリスのように頬を膨らませているクロは、納得いかないと言いたげな目をこちらに向ける。

何故こんな状況になっているかと言うと、明日に迫った王宮訪問の前に、クロのシンフォニア王国への悪印象を緩和しておこうと思ったのが発端だった。

俺としては本当に全く気にしていないんだし、謝罪も不要ではあるんだけど……国としての面子とか色々あるらしいので、王宮には赴く事にした。

国王からの謝罪はその時に受けるとして、出来るなら他の部分も一緒に解決しておきたいと思う。

そしてその問題の一つが……クロ。

ルナマリアさんの話では、あの件以降クロは王宮を毛嫌いしているらしく、一切と言って良いほど寄り付かなくなったみたいで、国王の王宮内での立場がかなり悪くなっているらしい。

それで今日いつも通りやって来たクロに、明日国王が俺に謝罪したら、あの件の事は水に流してやって欲しいと頼んだんだ結果が……現在のこの表情である。

「……ボク、カイトくんの事虐める国王、嫌い」

「いや、別に虐められてないって。ほら、急な話だった訳だし、手配が漏れちゃっただけだって」

「むぅぅぅ」

どうやら俺としては全く気にしていないあの件を、クロは相当怒っているらしく、なかなか納得してくれない。

いや、怒ってるってのは伝わってくるけど……見た目はリスが食べ物頬張ってるようにしか見えないので、緊張感もなにもあったものではなく、ただただ可愛いだけなんだけど……

「クロが俺の為に怒ってくれるのは、本当に嬉しいけど……俺はあの件は気にしてないどころか、むしろ国王に感謝してるぐらいなんだ」

「……感謝?」

「あ、うん。ほら、国王が俺に招待状を送らなかったおかげで、俺はクロ達とバーベキューが出来た訳だから」

そう、それが俺の率直な気持ちだった。

あの時俺は夜会に行かなかったおかげで、クロとバーベキューをする事ができ……その時の会話のお陰で、前に進んでみようって思えるようになった。

それが無ければ、今の幸せな日々は来なかったんじゃないかとすら思っている。

勿論一番感謝しているのはクロに対してだけど、きっかけを作ってくれたあの件も、ああなって良かったと思っている。

「……だから、我儘な言い分かもしれないけど、その事でクロが王宮に辛く当るのは、何となく嫌なんだ……」

「……むぅ」

「だから、ここは俺の顔を立てると思って……許してあげてくれないかな?」

「……」

俺の告げた言葉を聞いて、クロはしばらく沈黙した後で、大きく溜息を吐く。

「……分かったよ。カイトくんがそこまで言うなら、ボクも許す」

「ありがとう、クロ!」

「言っとくけど、カイトくんのお願いだから仕方なくだよ」

「うん。それでも、本当に嬉しい。ありがとう」

「あぅ……」

国王を許すと言ってくれたクロにお礼を告げると、クロは微かに頬を染めて困ったような表情を浮かべて沈黙する。

そんなクロにドキドキしながら、俺はある事を思い出して口を開く。

「あっ、そうだ。クロ、木の月30日目って……予定空いてたりするかな?」

「へ? あ、うん。大丈夫だけど?」

「じゃあ、その日……えっと、ほら、クロと会って丁度三ヶ月だろ?」

「う、うん。そうだね」

「だからってわけじゃないんだけど、えっと、その……なんていうか、お、俺と、で、でで、デートしてくれないかな?」

「……え?」

緊張してかなり言葉に詰まりながらも、何とかデートの誘いを告げる事が出来た。

クロは俺が告げた言葉が意外だったのか、大きく目を見開き金色の瞳を俺に向ける。

「えっと、ほら、前に……今度は俺の方から誘うって、約束しただろ?」

「う、うん」

「だから、その、当日までにエスコート出来る様に、色々調べておくから……く、クロさえ良かったら……その……」

どんどん声が小さくなっていく。どれだけ緊張してるんだ俺!? 思春期の中学生か!?

とてつもない緊張で、背中に冷たい汗が流れ、クロの返事を待つ間はまるで生き地獄のように感じた。

「……カイトくんが、ボクをデートに……えへへ、嬉しい」

「ッ!?」

頬を染め、少し俯き加減ではにかむような笑顔を浮かべるクロは、それはもう人を殺しかねない程に可愛らしく、かつてない程大きく心臓が跳ねた気がした。

そしてクロは右手と左手の人差し指を、顔の前で突き合わせながら、小さな声で口を開く。

「……うん。ボクも、カイトくんとデートしたい」

「……あっ……そ、それじゃあ……」

「うん! カイトくんのエスコート、楽しみにしておくね」

「……ああ」

満面の笑みを浮かべて笑いかけてくるクロを見て、その笑顔を間近で見られる幸せに感謝しながら、俺はしっかりと頷いた。

拝啓、母さん、父さん――明日には王宮で国王から謝罪を受ける訳なんだけど、それはさておき……今日は今までの人生でも上位に入る程勇気を振り絞って――クロをデートに誘ったよ。

木の月8日目……シンフォニア王国の首都にある王宮では、現在多くの使用人達が駆けまわっていた。

王宮に仕える全ての使用人が今日は集結しており、国賓を迎えるような徹底したもてなしの用意を進めている。

今日、王宮に快人がやってくる。

冥王と懇意にし、死王、界王という世界最高位の存在と関わりを持ち、さらには創造神とも知り合いと言う驚天動地の噂まで流れてきたとあっては、万が一にも無礼は許されない状況だった。

国王であるライズも、日が昇るよりも遥かに早く起床し、快人を迎える為の指揮をとっていた。

彼は一切の迷いなく、快人に公式の場で誠心誠意の謝罪を行うつもりだった。

しかし、今現在、ライズは謁見の間で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

そして鋭い目で目の前に立つ人物を睨みながら、絞り出すように声を発する。

「……どこで、聞きつけおった……女狐……」

「はて? 何の事でしょう? 私はただ、近くに出向く用事があったので、ついでに勇者祭の打ち合わせをと考えて登城した次第です。ああ、遅くなりましたが、突然の訪問申し訳ありません。ライズ国王陛下」

「……それは、それは……わざわざ出向いて頂き、感謝の言葉もありません『クリス皇帝陛下』……」

簡素だが美しい礼装に身を包み、穏やかな笑みを浮かべるクリスに対し、ライズは頬を引きつらせながら言葉を返す。

「いやはや、まさか先約があるとは……悪いタイミングでお邪魔してしまったみたいですね」

「いえいえ、そのような事はありません。簡単な打ち合わせでしたら、今すぐにでも終わらせる事が出来ますよ……クリス皇帝陛下も早めに自国に戻りたいでしょうしね」

「お気遣いありがとうございます。しかし、大丈夫です。急な訪問をしてしまったのはこちらですし、私のせいでご予定を変えさせる訳にはいきません。『先約との話が終わるまで、お待ちします』」

「ッ!? そそ、そうですか……で、では、部屋を用意させましょう」

穏やかな笑みを張りつけたまま告げるクリスの言葉を聞き、ライズは額に青筋を浮かべながらも引きつった笑顔で言葉を返す。

表情と言葉だけなら平和な話に思えるが、両者の間に流れる空気は緊迫しており、ぶつけ合う視線は火花が散っているようにさえ見えた。

「いえ、お手を煩わせる訳にはいきません。私は『一傍観者』として『部屋の隅で見学しておきます』……機密内容という訳では、無いのですよね?」

「……こ、このっ……女狐め……」

つまるところクリスは、ライズの謝罪を謁見の間で見学すると告げており、ライズはギリッと歯ぎしりをする。

最初からそれを目的に訪れたのは分かり切っていたが……相手は皇帝、無下に追い返す訳にはいかない。

そんなライズに対して、クリスは微笑みを浮かべたままで一礼し、ライズに背を向けて歩きだす。

そしてある程度ライズから距離を取った所で、ライズには聞こえないように小さな声で呟く。

「……ご安心を、それを見るのはただのついで……ミヤマ様と会う口実が欲しかっただけですから……国が違うというのは困ったものです。なかなかアプローチ出来ません……」

含むような笑みを浮かべたまま、クリスは微かに頬を染める。

「ミヤマ様……何だかんだで手紙を返してくれる貴方は……やはり素敵な殿方ですよ」