軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恥ずかしさからだった

ゲートから外へ出ると同時に、俺は転移魔法の魔法具を使用する。

ここまではリリウッドさんの魔界案内の続きもあって一緒に帰って来たが、人界のゲートまでの道には特に目新しい物は無いので転移する事にした。

一瞬で景色が歪み、見慣れたリリアさんの屋敷が目の前に見える。

う~ん、便利だけど……まだ使った後はちょっと気持ち悪くなるな。人界から魔界へ移動するときのゲートは問題無かったのに……魔力の関係とかもあるのかな?

ともあれ無事リリアさんの屋敷に戻って来た。

リリアさんに戻った事を伝える為に部屋へ移動すると、中にはリリアさんとルナマリアさんがいて穏やかな笑顔で迎えてくれた。

「お帰りなさい。カイトさん。魔界はいかがでしたか?」

「ただ今戻りました。ええ、とても綺麗で広大な場所で、景色を見るだけでも楽しかったです」

「そうですか、それは何よりです……ところで、一つお聞きしたいのですが……」

「はい?」

リリアさんは優しげな微笑みで頷いた後、何故か急に真剣な表情へ変わる。

その様子に首を傾げていると、リリアさんはゆっくり顔の前で手を組みながら口を開く。

「あ、あり得ない話だとは思いますが……まさか、竜王様と会ったとか、そんな事は無いですよね?」

「……ごめんなさい。会いました」

「……」

「お嬢様!?」

顔を青ざめさせながら尋ねて来たリリアさんに、正直に答えると……リリアさんの顔が机に叩きつけられた。

「……なんで……この人は……出歩くと六王様にばかり……」

「お嬢様、お気を確かに、まだ傷は浅いですよ」

「あ、ありがとうございます。ルナ……カイトさん、その、えっと……まさか、また仲良くなったとか、そんな事は……」

「……」

「何で目を逸らすんですか? カイトさん」

手を震わせながら青ざめた表情で話すリリアさん……とても怖い。

けど、言わない訳にはいかないよなぁ……後で言うと、絶対怒られるし……

そんな事を考え、俺は意を決してマジックボックスの中からマグナウェルさんに貰った鱗を取り出す。

「……鱗貰いました」

「……」

リリアさんの顔から、表情が消えた。

そのあまりに恐ろしい空気に、思わず背筋を伸ばしていると……リリアさんの体は、糸の切れた人形の様に沈んだ。

「……きゅ~」

「お嬢様!?」

俺が取り出した5メートルを超える鱗は、一瞬でリリアさんの許容範囲を超えてしまったらしく、リリアさんは目を回して机に倒れ込んでしまった。

うん、後でまたお説教が確定してしまった感じだろうこれは……でも、今回の件は、俺が原因じゃなくて、幻王のせいだと思うんだけど……

しばらく経って気絶から復活したリリアさんは、部屋の隅で膝を抱えて座り込んでしまう。

「……本当に……カイトさん可笑しいです……異常です……何で私ばっかり……こんな目に……」

「お嬢様……可哀想に……」

「何で笑ってるんですか!?」

ルナマリアさんは安定のルナマリアさんで、落ち込むリリアさんを見てニコニコと笑っており、即座に叱られていた。

しかし、どうしよう……リリアさんには悪いけど、本当に悪いんだけど……

「あ、あの、リリアさん?」

「はい?」

「……えっと、アイシスさんから預かって来たものが……」

「……」

恐る恐る告げた俺の言葉を聞き、リリアさんは今にも泣き出しそうな表情を浮かべる……いや、もうちょっと泣いてる。

なんだか虐めている様な気分になり、居心地の悪さを感じつつ、俺はアイシスさんからリリアさんへ渡してくれと言われた宝石を机の上に置く。

「……な、なな、なんですか……こ、これ……」

「アイシスさんから預かった、ブルーダイヤモンドとアイスクリスタルです」

「物凄い量ですね。しかもどれも素晴らしい色の深み、お嬢様……これは物凄い金額になるのでは?」

「……もう……やだ……」

山の様に積まれた美しい青い宝石を見て、リリアさんは頭を抱えて顔を伏せる。

そしてそのまましばらく震えた後、勢いよく顔を上げて……

「もうやだあぁぁぁぁ! カイトさんの馬鹿あぁぁぁ!!」

……泣き出してしまった。

「こんな量の宝石どうしろって言うんですかあぁぁ!?」

「ぐえっ!? り、リリアさん、お、落ち着いて……」

「何で貴方は、いつもいつも、胃が痛くなる様な事ばかり!! もう本当に胃に穴が開きますからね!!」

「苦しっ、り、リリアさん……落ち、落ちる……」

胸元を掴み上げられ、空中で激しく前後に揺すられる。

ただしリリアさんの表情はもういっぱいいっぱいの様子で、涙を流しながらとてもかわいそうな顔をしているので、強く逆らえない。

何て言うか、本当にごめんなさいリリアさん。

「お嬢様、ミヤマ様を気絶させる前にお聞きしたいのですか……」

「何ですか、ルナ! 今私は忙し……」

「いえ、前々から気にはなっていたのですが……お嬢様って、家族以外の男性に触れると、直ぐ真っ赤になっていたと思うんですが……ミヤマ様は平気なんですね?」

「……へ?」

ルナマリアさんが淡々と告げた言葉を聞き、俺の胸倉を掴んでいた力が弱まり、体が地面に落ちる。

気絶しそうな苦しさから解放されて、俺は大きく息を吐きながらリリアさんの方へ視線を向けると……リリアさんの顔は、茹でダコみたいに真っ赤になっていた。

「……え? 私、今、カイトさんに触れてました?」

「今、と言うか以前も何度か触れていました。それはもう吐息がかかりそうな程に顔を近づけて」

「へ? あわ、あわわ、だだ、だって、それは、あの、頭いっぱいで、全然意識してなくて、はわわわわ」

今にも煙が出そうな程真っ赤な顔で、リリアさんは何やら慌てた様子で呟きながら、目を回す。

なんだろう、今までの経験からか分かってしまったが……たぶんもうすぐ気絶する。

「わ、わた、私……かかか、カイトさんに触れ……きゅ~」

「リリアさん!?」

リリアさんは予想通り目を回し、そのまま地面に倒れてしまう。

慌てて駆け寄り、一先ず怪我などが無い事を確認してから、俺はルナマリアさんの方を向く。

「……ルナマリアさん。これ、どうなってるんですか?」

「お嬢様は、女性ばかりの環境で育ったせいか……男性に免疫全く無いですから、握手するだけでも真っ赤になるくらいです。ただ、今までミヤマ様に触れてもそんな様子が無かったので気になってたんですが……成程、ただ単に今までは他の事で頭が一杯で意識してなかっただけですか……」

「……つまり、今は?」

「たぶん私の発言で、今までミヤマ様に触れた事も全て思い出し、恥ずかしさが限界を超えたのでしょうね……不憫な事です」

「……わざとでしょう?」

「……まさか」

確かに言われて思い返してみれば、リリアさんが俺に触れるのは基本混乱している時……気絶一歩手前の状況でばかりで、それ以外では触れてこなかった。

年頃の女性だし別に疑問には思っていなかったが……成程、それだけじゃなくて男性に全く免疫なかったのか。

拝啓、母さん、父さん――リリアさんには本当に迷惑をかけっぱなしで、申し訳ない気持ちになってしまう。ただ今回の気絶はいつもと違って――恥ずかしさからだった。

夕暮れの光が差し込む雑貨屋に、黒ずくめの人物が現れた。

その人物は雑貨屋の壁にかけてある短剣を一本手に取り、黒い布を巻いてからカウンターへ置く。

「……依頼っすか?」

それはこの雑貨屋の店主の裏の顔……裏世界の仕事人に対する依頼のサイン。

着ぐるみの店主は黒ずくめの人物を見ながら、冷たい声で問いかける。

「……ある人物を、誘拐してもらいたい」

「……殺しじゃなくて、誘拐っすか……」

「あぁ、利用価値のある存在なのでな」

「まぁ、報酬と内容次第っすね」

着ぐるみの店主……アリスの言葉を受け、黒ずくめの人物は懐から一枚の人相書きと、白金貨を取り出してカウンターの上に置く。

「前金で白金貨10枚……成功報酬で30枚」

「そりゃまた、随分美味しいですね……で、これがその相手……見ない顔ですね?」

「この世界の存在では無い。異世界から来た人間だ……名は『ミヤマ・カイト』……」

「へぇ~異世界人っすか……成程」

黒ずくめの人物の告げた言葉に、アリスは一切動揺する事無く淡々と言葉を返す。

そしてしばらくその人相書きを眺めた後、白金貨を手に取る。

「……受けましょう。期限は?」

「出来るだけ早い方が良い……指定した場所に運んでもらいたい」

「引き渡しじゃなくて、運ぶ? よっぽどヤバい相手って事っすか?」

「……これが資料だ」

そう言って差し出された紙の束を、アリスはパラパラとめくり、気にした様子もなく口を開く。

「……まっ、問題なさそうですね。じゃ、近日中には……」

「頼んだ」

依頼を受けると告げたアリスの言葉を聞き、黒ずくめの人物はそれ以上話す事は無いと言いたげに背を向け、短い言葉と共に店から去っていく。

その後姿を見送った後、アリスは快人の顔が書かれた紙を眺めながら、誰にでも無く呟く。

「……まぁ、これも一つの縁……残念ですね。私、カイトさんの事、結構好きだったんですけど……」

窓から差し込む光に照らされる着ぐるみの中、仮面を被った少女の目は……凍りつく様に冷たいものだった。