軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一番王らしい方かもしれない

初めて訪れた魔界において遭遇したとてつもない存在……世界最大の生命体である竜王の姿は、俺の想像を遥かに超えるものだった。

遠方から見てもとてつもないサイズだったが、近くまで来るともはや冗談としか思えない様な光景だ。

と言うか、アレ、足!? いやいや、もうこげ茶色の巨大な壁にしか見えないし、もう足より上は見上げても見えない!?

地竜と言うのだろうか? 四足歩行の足の一つでさえ、雲を突き抜けていた。

そして竜王は地響きを轟かせながら俺とリリウッドさんの前まで来て止まる。

近くになれば歩くだけで暴風が吹き荒れていそうだが、その辺りはリリウッドさんが防御してくれているみたいで、揺れ以外を感じる事は無かった。

先程までリリウッドさんを威嚇していたベヒモスも、その凄まじい体躯に怯えきっている様でガタガタと震えている。

そして竜王はゆっくりとその巨大な顔を降ろしてくるが、やはり顔だけでもとんでもないサイズで、それだけで普通の山位はある。

目玉一つでもベヒモスよりでかいとか……本当に常識の範疇外の大きさだ。

『……なんじゃ? ガタガタと目触りじゃのぅ?』

ソレはのんびりとした口調だったが、そもそもサイズが常識外の為、天から降ってくる様な大音量で、ビリビリと空気が震えるのを感じる。

そして竜王はゆっくりと、ベヒモスに視線を動かし……

『 去(い) ね! 童(わっぱ) !』

「ッ!?!?」

ソレが放たれる直前に、俺の視界に木の根が壁の如く生えて来て、直後にソレが大きく振動する。

い、一体どんな音量!? 爆弾が爆発したみたいに木の壁が揺れてるんだけど!?

竜王の咆哮は一瞬でベヒモスの戦意を狩り取り、ベヒモスは凄まじい勢いで遥か彼方に逃げ去っていく。

それを見て溜息を吐く様に顔を動かした後、竜王はこちらをゆっくりと向く。

『久しいのぅ、リリウッド』

『ええ、お久しぶりですマグナウェル。勇者祭以外で出歩くとは、珍しいですね』

『なに、噂の異世界人を一目見ようと赴いただけじゃ。しかし、やはり魔族や街を踏まぬように歩くのは、気を使うのぅ』

長い年月を感じさせる重厚な声でリリウッドさんを挨拶を交わした後、竜王は巨大な瞳を俺の方に向ける。

『それで、貴様が音に聞く異世界人か?』

「ッ!?」

い、威圧感がとんでもない……声や魔力だけでなく、視覚的な大きさも相まって体が押しつぶされるみたいで体が震える。

ただ、それでも、アイシスさんと初めて遭遇した時程では無い。

俺は震えたままで挨拶するのは無礼と考え、一度目を閉じて深呼吸し、体の震えを抑え込んでから、真っ直ぐ竜王の目を見つめる。

「初めまして、宮間快人と言います」

『……ほぅ。近頃の若者にしては、礼儀のなんたるかを心得ておる様じゃ……よい。名乗られたのなら名乗り返そう。マグナウェル・バスクス・ラルド・カーツバルド……竜王と呼ばれておる』

「よ、よろしくお願いします」

『うむ。幻王より噂を聞き、どの様な若造かと思うて見たが……中々どうして、良い面構えをしておる。よかろう、ミヤマカイトよ。我が名を他の六王共と同様に敬称を省いて呼ぶ事を許す』

「ありがとうございます。マグナウェルさん」

威厳あるもの言いであり、正しく王と言った感じの方だ。

そしてその王が俺に対してクロ達と同じ様な呼び方をする事を許すと告げた。ならば、ここで様を付けたりするのはかえって失礼にあたると考え、勧めに従いマグナウェルさんと呼ぶ事にした。

するとマグナウェルさんの近くに、巨大な翼竜が羽ばたきながら降りてくる。

これもまた100メートルはあろうかと言う巨大な竜だが、マグナウェルさんのサイズの前では本当に小さく見えてしまう。

「よろしいのですか? そのような事をお許しになって?」

喋った!? あ、いや、マグナウェルさんも喋ってたし、高位の竜は喋ったりできるんだろう。

『うむ、他の者がこやつを気に入る理由も分かる……分からんと言う顔だな。よい、ミヤマカイトよ一つ尋ねるぞ』

「え? あ、はい!」

『先程、ワシに名乗りを上げる前に目を閉じ、息を整えたな……ソレは何故じゃ?』

「えと、ふ、震えながら挨拶をするのは失礼だと思ったからです」

『うむ。畏敬の念を示す事が無礼に当る場合もある。特に真価を見極めようとする相手に対するのであれば、敬意を払った上で己らしく言葉を紡ぐ事こそ礼じゃろうて……そも、言葉にするのは簡単じゃが、ワシを前にしてソレが出来る者はそうそうおらん。一本芯の通った良い気骨をしておる』

翼竜に説明する様に告げるマグナウェルさんの言葉を聞き、翼竜は納得したように一度頷き、再び上空に羽ばたいて視界から外れた。

『全く、嘆かわしい事じゃが最近の若い者にはそう言った気質が欠けておる。どいつもこいつも、震えながら取ってつけた様な賛辞を投げかけるばかり……ワシの若い頃には、そう言った者も少なく……』

『……マグナウェル。本題に移って下さい。カイトさんを長く引き留めると……アイシスが怒りますよ』

『うん? なんじゃ、貴様等はアイシスの元に向かう途中か?』

「はい、アイシスさんの居城に遊びに行かせてもらう所です」

『……遊びに行く? アイシスの元へか? 変わっておるのぅ……』

俺が告げた言葉を聞き、マグナウェルさんは少し驚いた様な表情を浮かべる。

しかしすぐに表情を戻し、こちらに向かって口を開く。

『よい、ならば道すがら話すとしよう……乗るが良い、ワシが送ってやろうではないか』

「……は?」

『ふむ、確かに貴方の上からの方が、景色を見やすいですね』

「え? ちょっ!?」

何かとんでもない話になって来ている気がするが、リリウッドさんは気にした様子もなく、俺を浮かび上がらせ、マグナウェルさんの頭……人間で言う所の眉間辺りに乗る。

するとマグナウェルさんはゆっくりと顔を持ちあげ、一気に視線が切り替わる。

ソレは正しく絶景と知って良い景色だった。

山頂から見下ろすかの如く、雄大な自然が眼下に広がり、思わず圧倒されてしまう。

下から見ていては気付かなかったが、マグナウェルさんの周囲には大量の竜が飛んでおり、正しく竜達の王と言った感じだった。

そしてマグナウェルさんは歩きだす。ソレはゆっくりとした足取りだったが……そもそもこの凄まじいサイズ、一歩一歩がとんでもなく大きく、みるみる景色が進んでいく。

「……本当に、魔界は綺麗な所ですね」

『魔界を見るのは初めてか? ミヤマカイト』

「ええ、凄いものですね」

大草原と呼べる美しい緑の大地を見て思わず零れた感想に、マグナウェルさんが反応する。

『そうじゃのぅ、この辺りの地も長い年月で大きく変わった……2万年程前には、よくあの辺りに……』

『……始まりましたか……カイトさん。マグナウェルの昔話は長いですよ』

「……へ?」

どこか懐かしむ様な口調で語り始めたマグナウェルさんに、リリウッドさんがため息交じりに呟く。

えっと、何だろう……イメージ的には、話好きの老人みたいな感じなのかな? だとしたら、確かに長そうな気がする。

『……と言う訳で、一帯の生命も様相を変えて来たという訳じゃ』

「成程、じゃあ、この辺りに緑が多いのは、やはりリリウッドさんの影響が大きいんですね」

『うむ、その通りじゃ、そも大地と言うのは……うん? 見えてきたな』

「え? おぉっ!?」

そしてマグナウェルさんの話は本当に長く、結局道中ずっと昔話をしていた。

話が始まって1時間近く、流石にそろそろ疲れを感じてくると……丁度そのタイミングで、視線の先に氷に包まれた大地が見えて来た。

これもまた行った事は無いが、イメージは北極とか南極って感じで、一面氷に覆われた大地は美しくもどこか寂しさを感じさせる。

と言うか、物凄く寒そうなんだけど……え? こんな軽装じゃ凍えちゃうんじゃ……

『大丈夫ですよ。カイトさんにはシャローヴァナル様の祝福があります』

「あ、あぁ、成程……」

どうやらシロさんの祝福は寒さも防いでくれるみたいだ……本当に何でありの祝福だなぁ……

っとそんな言葉をリリウッドさんと交わしていると、マグナウェルさんがどこか不思議そうに呟いた。

『……なんじゃ? アイシスの奴、体調でも悪いのか? 死の魔力が凄まじく薄いが……』

『逆です。アイシスは今、とてつもなく上機嫌なんですよ……今日も何時間も前から、ソワソワとカイトさんが来ると嬉しそうに語っていました』

『ふむ、本当に気に入っておるのじゃな』

『ええ、それはもう……』

やはりアイシスさんは今日を凄く楽しみにしていてくれたみたいで、そう言う話を聞くとどこか嬉しく、同時に照れくさくもあった。

そして氷の大地が近くなると、マグナウェルさんはゆっくりと足を止める。

『……ワシは、ここまでじゃな。ワシが踏み込めば、あの地の氷が割れてしまう』

『そうですね』

マグナウェルさんの言葉に頷き、リリウッドさんは再び俺を浮遊させて地面に下ろし、マグナウェルさんの方を振り返る。

『ありがとうございました。マグナウェル』

「ありがとうございました。色々お話を聞かせてもらって、勉強になりました」

『ほほほ、勤勉な事じゃ。他の六王共が気に入るのも分かる、気持ちのいい若者じゃ』

俺がお礼の言葉を告げると、マグナウェルさんはどこか楽しげに笑う。

『よし、小遣いをやろう』

「……は?」

そして何やら孫に会った老人の様な言葉を告げて顔を動かし……俺の前に、5メートルは優に超えるであろう巨大な鱗を置いた。

『ワシの鱗じゃ、売るなり、武具にするなり、すきにするが良い』

「あ、えっと、ありがとうございます」

『良かったですね。カイトさん、マグナウェルの鱗なら、売れば城の一つや二つ簡単に建ちますよ』

「!?!?」

何かとんでもないもの渡された!? た、確かに竜王の鱗とか響きだけでも、とんでもない代物って感じがする。

しょ、正直遠慮したかったが、ここで受け取らないのは失礼なのでお礼を言ってマジックボックスにしまう。

『ミヤマカイト、次は南の地、ワシの住処に来ると良い。また色々な話を聞かせてやろう』

「は、はい。機会があれば是非」

『うむ。ではな、アイシスにもよろしく伝えておいてくれ』

マグナウェルさんはもう一度楽しそうな表情を浮かべた後、ゆっくりと体を動かして……再び地響きを轟かせながら去っていった。

拝啓、母さん、父さん――マグナウェルさんは、とにかく巨大で、王らしい威厳と長い年月を感じさせる豊富な知識を有した方だった。何と言うか、今まで出会った六王の中で、ある意味――一番王らしい方かもしれない。