軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不気味な存在だった

戦王五将の一角……伯爵級高位魔族、鉄血のバッカス。

アリスの伯爵級以上は格が違うと言う言葉、それが嘘偽りでない事は凄まじい魔力から理解出来た。

そしてそんな鉄血のバッカスの前に、最強のメイドであるアインさんが援軍として現れてくれた。

対峙するアインさんを見て、バッカスはなぜか嬉しそうな笑みを浮かべる。

「これはこれは……『魔界にただ一体しか存在しない公爵級高位魔族』のアイン殿ではないか……とてつもない者が現れたのぅ」

「公爵級!? で、でも、魔界に一体しか存在しないって……公爵級魔族は複数いる筈では?」

バッカスが口にした唯一の公爵級と言う言葉を聞き、ジークさんが信じられないと言った表情で呟く。

確かにリリアさんの話では、公爵級は数えるほどしかいないって言ってたし、複数いる様な言い回しだった気がする。

「いえ、それは人族が勝手に思い込んでいるだけっすよ。伯爵級が複数体存在するから、公爵級も複数存在するだろうって……現に、ジークリンデさん? でしたね。貴女は公爵級高位魔族の名前を一つでも知っていますか?」

「……い、いいえ……」

ジークさんの疑問に、アリスも驚愕した表情を浮かべながら答える。

「それにしても、まさか……『空座の守護者』の登場とは……カイトさんの交友関係は、本当にとんでもないっすね」

「空座の守護者?」

「通り名ですよ……六王に匹敵する力を持ちながら、ただ一体の主に仕える事を選んだ。王にならなかった魔族……魔界唯一の公爵級高位魔族、アイン。魔界に公爵級高位魔族が一体しか存在しないのは、その方がその場を動かないから……この方と比類出来るなら、新たな王になれるとまで言われる存在です」

六王に匹敵する力を持ちながら、王になる事を選ばなかった存在……言われてみれば、アインさんは最高神であるクロノアさんとライバルの様な関係にあり、クロノアさんは決着はついていないと言っていた。

つまりそれは、アインさんは最高神と互角の実力を持つ強者と言う事……や、やっぱりとんでもないなこの方……

そしてバッカスは、アインさんを見て獰猛な野獣の如き笑みを浮かべる。

笑うと言うのは本来攻撃的な表情であり、獣が牙を見せるところからきていると聞いた事があるが……この笑みはまさにそれだ。

「然り! 滅多に表舞台に出てこない貴殿とは、是非一度刃を交えたいと思うておった。お主を倒せば、余も公爵級になる事が出来るであろうからな……」

「御託は結構。戦うのであれば早くかかって来てください。私は非常に忙しい……早急にこの件を終わらせて城に帰り、クロム様が所望された『新鮮な季節のフルーツをふんだんに使ったスペシャル・デラックス・プリン・ア・ラ・モード~旬のソースを添えて~』を用意せねばならないのです」

名前聞いただけで胸焼けしそうな程面倒くさいもの所望してる!? 何やってんだクロ!?

そしてアインさんが手に持ってる買い物袋は、新鮮な季節のフルーツか……魔界からわざわざ買いに来る拘り、流石のパーフェクトメイドである。

「では、お言葉に甘えて……戦王五将が一体、鉄血のバッカス! 参るぞ!」

「……」

「がふっ!?」

「……え」

今一体何が起こったんだろうか、バッカスが巨大な斧を振りかぶり、一瞬でアインさんに迫ったかと思ったら……次の瞬間、身に纏った鎧が粉々になった状態で、遥か彼方へ飛んで行ってしまった。

唖然としている俺達の前で、アインさんは片手を軽く払う。

「大変無駄な時間を過ごしました。では、私はこれで失礼します……カイト様、また会いましょう」

「あ、は、はい」

アインさんつえぇぇぇ!? ワンパン!? ワンパンで倒しちゃったの!?

あまりにあっさり倒してしまったので、ハッキリ言って状況についていけなかったが、アインさんは気にした様子もなくスカートを軽く摘んで一礼し、消えていった。

たぶんさっき言ってた、何とかプリン・ア・ラ・モードを作りに帰ったんだろう……マジであの方は、俺が知る中でもトップクラスの化け物だ。

「と、とんでもねぇっすね……アレが、公爵級の実力……味方で良かったです」

「ええ、本当に……」

驚いているのは俺だけでは無いみたいで、アリスとジークさんも目を丸くしてアインさんが消えた方向を見つめていた。

ともあれ、これで一段落……そう思った瞬間、アニマの鋭い声が聞こえる。

「ご主人様! 奴等が、いません!」

「え?」

アニマの言葉を聞いて振り返えると、先程までそこで気絶していた筈のイータ、シータ、シグマの三体が消えていた。

バッカスが連れ去ったりした訳ではない。バッカスはアインさんにやられた訳だし、まさか他にも……

その予想を肯定する様に、俺達の前の景色がノイズが走る様にブレる。

そしてあちこちに鎖の付いた漆黒のローブを身に纏い、顔が見えない何者かが忽然と現れる。

「……ミヤマ・カイト」

「ッ!?」

「……見事だった」

まるで変声機を通したかのような甲高い声で、ローブの人物は賞賛の言葉を投げかけてくる。

あまりに不気味なその風貌に硬直していると、ジークさんが震える声で呟く。

「……げ、幻王様」

「なっ!?」

幻王!? こ、この方が……六王の一角であり、リリウッドさんが気をつけろと言っていた……幻王・ノーフェイス。

驚く俺達を前にして、幻王は気にした様子もなく言葉を続ける。

「貴方を守ろうとする者達に恵まれる。それもまた、力と言えるだろう……だが、まだ足りない」

「……一体、何を……」

「一つ目の課題は合格だが、私が見込んだ者だ……これ位はやってもらわなくては困る。しかし、次はどうかな? 貴方達は、戦王の使者を退けた……次は、戦王自ら貴方の目の前に現れるだろう」

「ッ!?」

一体何を言っているんだ? その口ぶりでは、まるで、今回俺が襲われたのは自分が糸を引いていると言っている様な……

不気味な声を雰囲気に気圧されていると、幻王はゆっくりと俺達に背を向ける。

「……戦王にも義理立てはしなければならないのでな。戦王の配下は連れ帰らせてもらう……では、ミヤマ・カイト、次なる試練も……幸運を祈る」

「ま、待って! 一体何を言ってるんだ!?」

「……ふむ、そうだな。貴方は一つ目の試練を乗り越えた。ならば、褒美も必要か……では、一つだけ質問に答えよう」

混乱しながらも呼びとめた俺の言葉を聞き、幻王はこちらを振り返って一つ質問に答えると告げた。

試す様なその口ぶりに息苦しさを感じながら、俺は考えた末で一つの疑問を口にした。

「……何の目的で、そんな事を?」

「……テストだ」

「テスト?」

「そう、私の見込み違いで無いか……貴方の得た力が、心に宿る意思が、本物であるか否か……試させてもらっている」

「……なんで、俺を?」

「……一つの質問には答えた。これ以上を知りたくば、さらに躍進せよ。そうすれば、私は再び貴方の前に現れる」

そう告げると、幻王はまるで煙の様にその場から消え、最後に声だけが残る。

「……期待しているぞ、ミヤマ・カイト。貴方が、刃を預けるに足る存在になる事を……」

風と共に不気味な声は消え、周囲には静寂だけがる。

突如現れ、謎めいた言葉を残したままで消えた謎の存在。

幻王・ノーフェイス……その底知れぬ脅威を、肌に感じさせながら……

拝啓、母さん、父さん――襲撃の脅威が去ったと思ったら、どうにも現在の状況は全て、ある存在が糸を引いているらしい。虚ろなる幻惑の王、ノーフェイスは――不気味な存在だった。