軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ニアミス②

ある程度帳簿を書き終えた茜は、軽く体を伸ばしつつ立ち上がり、他の商会員に声をかける。

「それじゃあ、ウチは仕入れに行ってくるから、皆もまだしばらくは忙しい思うけどよろしゅうね。ちゃんとローテーションして休憩は、疲れを自覚する前に取るんやで」

「はーい、会長も気を付けて」

「フラウさんも、会長の補佐頑張ってください」

「お土産期待してますよ~」

商会員たちに声をかけて、補佐のメイドであるフラウを連れて茜は大型の馬車から離れて通りを歩きだす。

「それで、今回は何を仕入れるんですか? 中央区画行きます?」

「中央区画か~見る分には面白いけどなぁ。機動力と安さが売りのウチの商会としては、その辺の高級品取り扱うんはリスクが高すぎるな。今回は定番のものはもちろんやけど、目玉は野菜やね。なんでも新種の野菜が出回りだしたとかで、数は少ないんやけど付き合いのある取引先からいくらか回してもらえるって話になってな」

歩きならが尋ねてきたフラウにカラカラと笑いながら言葉を返す茜。彼女の率いる三雲商会はそれほど大きな商会ではないため、会長である茜自らがこうして仕入れに赴くことも珍しくない。

まぁ、行動的な本人の性格も関係はしているが……。

「ふむ、野菜ですか……それを仕入れたら今度はどこで?」

「う~ん、やっぱハイドラやろな。あそこの人らは新しいもん好きやし、まだハイドラまではそれほど出回ってないやろうからな。逆にアルクレシアは保守的な考えの人が多いから、新種とかより定番のものが売れるやろなぁ」

「なるほど、まぁウチは運搬費用が抑えられるので、そういう新種を需要のある場所へというのは得意分野ですね」

「ウチに転移魔法の才能があってよかったわ」

「他はからっきしですけどね」

「ホンマにな」

茜は異世界人特有の特殊な魔法適性をしており、転移魔法に強い適性があった。かつてクロムエイナが快人に話した『他の魔法はからっきしだけど、爵位級高位魔族に匹敵する転移魔法が使える異世界人』というのは、実は茜のことである。

彼女はその転移魔法を使って、あちこちを転移しながら商売を行う移動商会を立ち上げたわけだ。

そんな風に雑談を続けながら歩いていると、不意にフラウがなにかに気付いた様子で視線を動かした。

「うん? どないしたん?」

「ああ、いえ、先ほどそこの店に入っていった男性……この辺りの区画にしては、かなり高級な服を着ていたので……一見するとカジュアルな服でしたが、かなり質のいい素材でしたね。私の見立てでは銀貨単位……いえ、もしかすると金貨単位かもしれません」

「はぇ~そりゃ景気のええ話やな。まぁ、貴族の子息とかやない? この辺には中央区画には無い店も多いからな」

「釣具屋に入っていきましたね……私たちも買いますか? 仕入れのコストを抑えられるかもしれませんよ」

「あはは、そりゃええな。大量に釣って売ったら大儲けやな……まっ、そんな上手いこと行くなら、漁師は苦労せんよ。それにウチ釣りは苦手やしね」

そもそも茜は性格的にジッとしていることが苦手なので、釣りには致命的に向いていない。本人もそれを自覚しており、釣具屋の方を見ることもなく足を進めていく。

もし仮に、楽し気に雑談を行いつつ歩くふたりが釣具屋に立ち寄っていれば……異世界人同士の偶然の出会いとなったかもしれないのだが……。

「そういえば会長、今日行く取引先は久しぶりに会う相手とかではないんですか?」

「違うけど、なんで?」

「いや、会長は『依然と見た目が変わっている』じゃないですか。急に『若返って』いたら先方が驚くかと思いまして……ほら、いままでは会うたびに年々横にばかり大きくなってたのに、急にしぼんでしまって」

「ホンマにな~あのまま行くと、縦なんやか横なんやか区別がつかんようになるとこや――いやいや!? 別に太ってへんかったやろうが!? そもそもの話、生命神様の仮祝福で若返っただけやねんから、体形は変わってへんて……」

茜は六王祭にも招待を受けていて、その際にライフの祝福により若返っている。彼女の年齢は58歳だが、現在は十代の頃に若返っていた。

「そうなんですか? じゃあ、一体胸はどこに落としてきたんですか?」

「そう……アレは、強い雨の降る日のことやった――ってこらっ! お前、しまいにはいっぺんしばくぞ!!」

「はぁ、やれやれ……会長が、メイドである私に勝てるわけがないじゃないですか」

「事実やけど、ドヤ顔で言われるとムカつくな。給料下げたろうかな……」

「安心してください。胸は小さくとも会長の顔立ちはとても整っていますし、十分すぎるほど魅力的ですよ。むしろこれで胸も大きかったら、同じ女として嫉妬してしまうほどでした」

「……ホンマ、調子のええやっちゃ」

くるっと掌を返して賞賛してくるフラウを見て、茜は呆れたようなため息を吐いた。