軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白神祭夜②

空に咲く花火の光だけで、他は暗かった芝生の丘から場所は変わり、強くはないが淡く優しい光に照らされた木造りの廊下を素足で歩く。

白神祭の花火はかなりの数が上がるみたいで、それなりに時間は経ったがいまだに花火の上がる音は聞こえている。

まぁ、それはそれとして……俺はなぜこういう状況になっているのだろうと、そんなことを考えつつ、服を脱いで腰にタオルを巻く。

「交渉は成立したので」

「……そうですね」

そうなんだよなぁ、たしかにそういう話をしたんだよなぁ。展示ブースに行った時に、流れではあったが温泉に一緒に入る約束をした。

シロさんは俺の要求通りに水着を着てくれているので、こちらとしても言葉を違えるわけにはいかない。

まぁ、実際に温泉に入りながら花火を見るというのはなかなかできない贅沢だし、正直ちょっと楽しそうではある。

緊張は……する。いくら水着とはいえ、普段の服装や先ほどまでの浴衣と比べれば露出の範囲は桁違いなので、どうしても目のやり場に困るというのはある。

「……それはそれとして、なんか温泉もちょっとパワーアップしてません?」

「日々改良を加えています。源泉かけ流しです」

「どこに源泉があるんですか……」

以前神界に来た際に、最高神の三人とシロさんと俺の五人で入浴した温泉だが、久々に訪れるとかなりパワーアップしていた。

無駄に広すぎた温泉はややコンパクトにしつつ、景色に力を入れたのか木や花などが増えており景色が以前より良くなっている。

「……湯も変わってる気がしますね」

「日替わりです」

「え? 日によって変わるんですか!?」

「はい。一ヶ月でローテーションします。源泉かけ流しです」

「……どんな源泉ですか、どんな……」

えらく源泉かけ流しを押してくるので、専用になんか亜空間的なのを造ったのかもしれない。それはそれとして、シロさんの言う通りならこの温泉には30種類の湯が存在するということ……え? なにそれ、面白い。

「毎日入りに来てもいいんですよ?」

「……正直他の湯に興味が無いと言えば嘘になりますので、その、機会があれば……」

俺、割と温泉好きなんだよなぁ……今日のお湯は、透明に見えるが少し青みがかっている感じで、あまり見ない色ではあるが、これはこれでとても綺麗だ。

少し爽やかな香りもする……軽く体を洗ってから入ってみると、なんとなく清涼感がある感じで気持ちがいい。

「……ちなみに、生えている木や花も日替わりです」

「景色も変わるんですか!?」

「毎日入りに来てもいいんですよ?」

「……」

30種類の景色と湯が楽しめる温泉? な、なんて魅力的なんだ。つい反射的に毎日入りにきますって応えそうになってしまった。

ま、毎日云々は置いておくとしても、また入りにきたいという気持ちは滅茶苦茶強くなった。ぶっちゃけ、なんかシロさんの掌の上のような感じはあるが……。

「まぁ、それはそれとして……滅茶苦茶綺麗に花火が見えますね」

「温泉に入りながら花火を眺めるというのも、いいものではありませんか?」

「なんかものすごく贅沢な時間を過ごしている気分ですよ。シロさんが提案してくれてよかったです」

「快人さんに喜んでもらえたのなら、私も嬉しいです。ところで、快人さん……いまなら恋人による酌も付きますが?」

「それは大変魅力的な提案ですね」

少し口角を上げながら、シロさんは熱燗がのったお盆を湯の上に出現させ、お猪口を俺に手渡して酒を注いでくれる。

本当に贅沢だと、そんな風に感じながら酒を飲むと……。

「すごく美味しいですね。正直、俺は日本酒はあまり得意じゃなかったんですが、これは物凄く飲みやすいです」

日本酒はちょっと辛い酒も多く、苦手というほどでもないがそこまで好みというわけでもないといった感じだったが、この熱燗は凄く飲みやすい。

アルコール度数はかなり高いと思うのだが、辛さはほぼ無くむしろ甘い。フルーティな香りが口の中に広がり、後味もすごくいい。

「快人さんの好みに合わせて作ったので、気に入ってもらえたのならよかったです」

「……ありがとうございます。せっかくですし、お猪口をもうひとつ出してもらえません? シロさんも一緒に飲みましょう」

「そうですね。では、いただきます」

今度は俺がシロさんが手に持つお猪口に酒を注ぎ、軽く乾杯してから一緒に酒を飲む。空には美しい花火が上がり続け、温泉が優しく体を温めてくれる。

そして隣には愛おしい恋人がいて、こうして互いに注ぎ合って酒を楽しむ……これは本当に、言葉で表現するのが難しいほど、素晴らしく贅沢なひと時だと、そう心から感じた。