作品タイトル不明
薔薇姫との遭遇⑤
展示ブースを進みながら、時折カミリアさん越しにロズミエルさんが説明を入れてくれて、それを参考にしつつ順に見学していった。
そして、最奥のエリア……これまでよりも一際荘厳な雰囲気がある場所に辿り着いた。広めの部屋になっているようで、その入り口には神族らしき方がふたり立っている。
「……こ、ここが神域の品を展示するエリアですか」
「はい。ここがこのブースの中でも最も重要な場所です。戦闘に長けた神族が複数警備しています」
パッと見ただけでも凄く重要な場所という雰囲気にジークさんが気圧されたように呟くと、スカイさんが軽く説明をしてくれる。
さすが神域の……シロさんに関わる品は厳重に警備されるのは当然と言えば当然だ。神族たちにとってもここの品に万が一でもなにかあるわけにはいかないのだろう。
「かなり広い部屋に見えますけど、結構多くの品が展示されてるんですか?」
「いえ、神域の花が三本と、シャローヴァナル様がよく使うというティーカップと同型のもの、シャローヴァナル様によって想像されたテーブルの計五点ですね」
気になって質問してみたが……学校の体育館の三倍ぐらいはありそうな広さの部屋に、展示されているのは五点だけという凄まじさ。
スカイさんも心なしか緊張しているように見える。
皆若干雰囲気にのまれつつも、部屋の中に入り厳重に展示された五つの品を順に見て回る。品物ひとつに対してひとりの神族が警備についており、なんとなく空気もピリッとしているような気がする。
「……これが神域にのみ咲く花。物凄く清廉で神聖さを感じる雰囲気ですね」
神域にしかない花を興味深そうに見つめるカミリアさんの隣で、ロズミエルさんも食い入るように花を見ていた。
いままでずっと険しい表情のままだったロズミエルさんだが、いまばかりは目を輝かせて嬉しそうな表情を浮かべており、緊張を忘れるほど熱中しているみたいだった。
「私もこの目で見たのは初めてで、少々感動しています。この花々が咲き誇る光景が神域に広がっているのでしょうね」
「……いや、ここにある三つの花はシロさんとお茶する時にはあまり見ない花ですね。普段シロさんがいる場所とは別のところに咲いてる花じゃないですかね? 見覚えはあるので、どこかに咲いてるのは間違いないと思いますが……」
「そうなのですか? カイトさんは神域の花畑を見たことがあるんですよね? 神族として、非常に羨ましく思います」
展示されている花は、たしかに見た覚えはあるのだが……あんまりよく見る印象じゃない。どこに咲いてる花なんだろうか?
(温泉の近くに咲いてる花ですね。イチョウや紅葉に合わせた色合いで作りました)
あぁ、そっか! だから見覚えがありつつも、なんとなく普段見ているのとは色合いや雰囲気が違うと感じたのか……。
そういえば、あの温泉宿の近くにもいろいろな花が咲いてた気がする。というか、結局あの温泉はそのまま残してあるのか……。
(また入りにきますか? というか、今日の夜にでも入りませんか? 温泉から見る花火は美しいと思いますよ)
……う~ん、景色も綺麗でいいお湯だったし、機会があればまた入りたいという気持ちはある。温泉に浸かりながら花火を見るというのも、実に魅力的な話だ。
ただ、ひとつ質問ですが、そうなった場合俺がひとりで入るという選択肢は?
(ないです)
そっかぁ、ないかぁ……う~ん……水着を着てくれるなら……。
(交渉成立ですね)
交渉を始めたつもりはなかったのだが、いつの間にか話がまとまってくしまった。なんとも言えない気持ちを感じつつ、視線を動かすと……なぜかロズミエルさんが食い入るようにこちらを見ていた。
感応魔法によって伝わってくる感情には強い期待のようなものが含まれていたが、相変わらずなにかを喋ってくれたりはしないのでよく分からず首を傾げた。
するとそれを察したカミリアさんが、苦笑を浮かべながら説明してくれた。
「……たぶん、エリィはもっと神域の花畑についての話を聞きたいのだと思います。花好きのエリィにとっては夢に見るほど憧れる場所ですからね」
「ああ、なるほど……えっと、シロさんと普段お茶する時は、なんて言うかもっとパステルカラーというか淡い色合いの花をよく見ますね。ただ、結構な頻度で変わってるので、その時の気分で配置とかは変えてるんじゃないかと思います」
「……」
ロズミエルさんは俺の話に集中しているのか、何度も頷きながらもキラキラとした目をこちらに向けてきていた。
というか、さっきより少し距離が近くなっているというか、ロズミエルさんと会ってから一番近くまで来てるかもしれない。
「……えっと、他になにを言えば……」
説明といってもなにを言えばいいのか分からず困っていると、急にロズミエルさんが一気にこちらとの距離を詰め、俺の耳元に口を寄せたかと思うと……蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきた。
「……よ、よく見かける花とかは?」
「え? う、う~ん、そうですね。必ず白い花がありますね。百合ではなくて、見た目はタンポポっぽいんですが花弁は真っ白でした。ほぼ必ずあるので、お気に入りの花なのかも?」
「そ、そうなんだ……私も、見て見たいなぁ」
……びっくりした。いろんな意味でびっくりした。急接近されたのもそうだが、話すまで十六時間かかると言っていたロズミエルさんが、いきなり直接話しかけてきたのにも驚いた。
それだけ、神域の花に興味津々だったということなのだろう。