軽量なろうリーダー

鼻歌の令嬢は知らない、全ての至高が彼女を奪い合う戦場になることを

作者: 満原こもじ

本文

王立アカデミーはヘブロニア王国の最高教育機関です。

ですから我が国の優秀な方達は、ほぼほぼ王立アカデミーの卒業生在校生ですね。

では王立アカデミーは天才ばかりかというとそんなことはなく。

何故なら貴族の優先入学権という制度が定められていますから。

優先入学権とは、『直系二親等以内に爵位貴族家当主ないし元当主がいる場合、無試験で入学を認める』というものです。

簡単に言えば貴族の子女なら入学できるということですね。

わたしのような男爵家の娘であれば、大威張りでアカデミー生でございって顔ができます。

元々アカデミーは貴族の学校として設立されたという設定ですから、当然と言えば当然です。

……今『設定』という言葉が聞こえたような?

敏感ですね。

ここは乙女ゲーム『剥奪聖女、だがしどけない』の世界なのです。

そう、わたしは現代日本からの転生者です。

もちろんわたしは『剥奪聖女、だがしどけない』をプレイしたことありますよ?

前世ではゲームくらいしか楽しみがなかったですから。

ところがわたしが転生したのは、ヒロインの聖女でも悪役令嬢でもなく。

名も覚えていなかったモブ男爵令嬢なのですよ。

ルーシー・ライトと申します。

どうぞよろしくお願いいたします。

で、わたしはどう生きるかというのが大きなテーマではないですか。

いや、ヒロインの平民聖女様はともかく、第一王子殿下との婚約が破棄されて断罪される悪役令嬢様は公爵家の令嬢なのです。

身分からすればわたしと関わりができるとは思えませんし。

攻略対象の令息方も同様です。

メインキャラ様達はメインキャラ様達でお楽しみください、どうぞ。

わたしはモブだから当然ですけれど、目立たない栗色の髪でごく平凡な顔立ちで。

大恋愛しようなんて考えていないのです。

だって転生前もお独り様でしたし。

貴族の娘に生まれて、働かなくても楽に暮らしていけるって素敵。

どなたか適当な方がいれば、結婚もやぶさかでない、ってくらいです。

優先入学権で入学した男爵令嬢なんて、普通はいい令息をゲットしようと考えるものだと思います。

勉強なんかそっちのけで。

でもわたしに恋愛願望はありませんから……ちょっとしかありませんから、ライバルとなる他の令嬢と対立することはないと思うのですよ。

結婚しないことまで含め、より多い選択肢があるということです。

前世の知識(と言っても大したものはないのですけれども)を活かしてエンジョイ生活できれば万々歳ですよ。

シナリオの強制力?

あるかもしれませんけど、モブには関係ないですよね?

とにかくわたしはマイライフを満喫しようと思ったのです。

ふんふ~ん。

いい天気ですわ。

でも今日は詩の朗読会です。

詩は貴族令嬢の嗜みですから、こうした催しは時々あるのですよ。

あら、あそこにいらっしゃるのは聖女様ではありませんか。

輝くようなピンクブロンドがとてもお美しいですわあ。

さすが『剥奪聖女、だがしどけない』のヒロインだけのことはあります。

しかしお一人ですね。

肩を落とした、沈んだような雰囲気なのは気になります。

聖女様は平民ですので、わたしが話しかけてもそう失礼に当たらないのですよ。

聖女様、どうされました?

詩の朗読会が憂鬱?

えっ? 気楽な催しだと思いますけれど、何故なのです?

聖女様の声が小さい? 発声の仕方が?

いや、わかりますね。

詩の朗読って、ただ大声を出すと優雅でないと言われてしまうのですよ。

貴族ですと幼い頃から淑女教育を受けるもの。

しかし平民の聖女様には馴染みがなくて感覚がわかりづらいかもしれません。

よろしいですか、聖女様。

もそもそ喋るのは一番よろしくないです。

聖女様の地声はとても奇麗ですから、目線真っ直ぐでやや斜め上に声を飛ばす感じだといいですよ。

そうそう、お上手です。

十分今日は乗り切れます。

でも聖女様、今後も人前に出る機会が多くなりそうですよね。

何らかの対策をするべきだと思います。

どうすればいいかですか?

教会には聖歌隊があるではないですか。

あの発声法を習えばよろしいのでは?

頭に響かせる聖歌の発声法は、絶対に今後聖女様の役に立つと思いますよ。

ナイスアイデアですか?

お褒めいただきありがとう存じます。

わたしにも前世のカラオケやらボイトレやらの知識が少々は……いえいえ何でもないのです。

えっ? わたしが聖女様のお友達に?

恐れ多いではないですか。

どうしてそんなに悲しそうなのです。

友達がいない? 聖女様お可愛らしいですのに?

ああ、やはり平民の聖女というのは距離感が難しいのではないかということですか。

よろしいですとも。

わたしでよろしければお友達になりましょう。

では朗読会の会場にまいりましょうか。

ふんふ~ん。

いい風ですわ。

明日が王立アカデミーの剣術大会なものですから、今日は壮行会なのです。

要するに剣術大会に出場する男子に女子がお弁当を持ってくるという、甘酸っぱああああいイベントなのです。

もちろんわたしもお弁当をたくさん持ってきましたとも。

いえ、わたしは推しの男子がいるわけではないですよ?

でもイベントに参加することこそエンジョイマイライフではないですか。

聖女様を含めたお友達の皆さんとお弁当を持ってきたので、あぶれている可哀そうな男子に食べさせてあげればいいですわ。

いいことをした気になりますしね。

えっ? メインキャラの一人、騎士団長子息様に話しかけられましたよ。

ああ、ヒロインの聖女様が一緒だからでしょうね。

すごくいい匂いがする?

お目が高い、というかお鼻がよろしいですね。

揚げ物をたくさん持ってきたのですよ。

思春期の男子なんて揚げ物大好きに決まっているのですわ。

お友達と示し合わせて、皆でたくさんの揚げ物に絞って持ってきたのです。

チマチマした可愛らしいお弁当じゃもの足りないという予測は当たっていたようですね。

聖女様効果もあるのでしょうけれども、たくさんの男子に取り巻かれました。

遠慮なさらず、どんどん召し上がってくださいな。

その白いタレがおいしいですか?

タルタルソースというのです。

前世の……いえ、我が家ではよく使われるソースでして、揚げ物にはピッタリですよね。

えっ、作り方を教えてくれ?

卵黄と塩と酢を入れてよくかき混ぜたものに植物油を少しずつ加えた調味料をマヨネーズと言いまして。

タルタルソースはマヨネーズに刻んだタマネギとか漬物を混ぜたものです。

そちらの赤いタレもなかなかおいしいですか?

ケチャップと言います。

うちライト男爵家では外国から導入したトマトという作物を作っているのですよ。

そのトマトを煮潰し、塩や香辛料を加えて保存性を高めたものです。

これもインパクトありますよね。

御馳走様ですか?

いえいえ、お粗末でした。

明日の剣術大会頑張ってください。

でも騎士団長子息様はさすがにメインキャラの一人ですねえ。

引き締まった大きな身体に赤の短髪がとっても精悍に見えます。

騎士団長子息様がニカッと白い歯を見せ、笑いかけてくださいました。

とても素敵ですねえ。

えっ? わたしに恋愛願望は特にありませんよ?

でもいい男はいい男として観賞するに決まってるじゃないですか。

はあ、堪能いたしました。

ふんふ~ん。

今日のわたしはお淑やか。

いえ、こんなことを言うと普段のわたしは淑女の範疇を外れているようですけれども、そんなことはないのです。

モブはモブらしく大人しくしていないといけませんからね。

悪目立ちはよろしくないです。

本日はアカデミーの休日ですが、図書室で本を読んでおります。

アカデミーは休日でも図書室を開けているのですよ。

勉強や調べごとをする人がいるからでしょうね。

大変意識が高いですねえ。

素晴らしいことだと思います。

はい? さようです。

ルーシー・ライトです。

何故か『剥奪聖女、だがしどけない』のメインキャラの一人、侯爵令息様に話しかけられましたよ。

同じクラスではありますが、存在感のないわたしのことを御存じだったのですね?

優秀な侯爵令息様にお声がけいただけるなんて光栄です。

長身で青髪で眼鏡のよく似合う侯爵令息様は、『剥奪聖女、だがしどけない』でのわたしの推しでした。

その侯爵令息様とお話しできるなんていい日ですねえ。

侯爵令息様は第一王子殿下に婚約破棄される、公爵家の悪役令嬢様の幼馴染なのです。

『剥奪聖女、だがしどけない』の設定上、難しい立場でいらっしゃいます。

苦労性のイケメンって素敵。

えっ、わたしの成績がいい?

いえいえ、モブが目立ってはいけませんから、試験は手を抜いてもにょもにょ。

今は勉強ではなく、ただ本を読んでいるだけなのです。

こちらのもにょもにょ……世界のことを知りたいものですから。

意識が高いなんてことはなく、ただの趣味みたいなもので。

侯爵令息様はどうされたのです?

はあはあ、第一王子殿下の側近として、政務にも携わっているのですね?

大変優秀でいらっしゃるのですね。

でもお疲れのようにお見受けいたしますけれど。

会計に誤りがあるようだがどこがまずいのかわからない?

ありますね、そういうこと。

参考になるかはわかりませんけれど、うちライト男爵家で用いている複式簿記という方法があるのですよ。

興味がおありですか?

こう取り引きが借方と貸方の両方に記載されるので、二重にチェックされることになるでしょう?

一見面倒に思えますが、間違いや不正が大変少なくなるというメリットがあるのです。

えっ、画期的なやり方ですか?

前世のごにょごにょ……大したことではないのですよ。

チラッと話しただけなのに理解してしまう侯爵令息様こそ、すごくないですか?

いずれヘブロニア王国の帳簿の記入は全てこれにすべき?

かもしれませんね。

このやり方を文官達に広めたいが構わないかですって?

もちろん構いませんとも。

お国のためになるのはわたしの喜びでもありますから。

こうしちゃいられないから王宮に行く?

お忙しいのですねえ、さようなら。

ふんふ~ん。

今日はまた絶好の買い物日和ですね。

侍女とともに街へ繰り出してきました、が?

何があったのでしょう。

トラブルですかね?

広場に人だかりが……あっ、あれは公爵家の悪役令嬢様?

数人の刃物を持った悪そうな男達に囲まれています。

憲兵は何をしているのです!

いや、間に合いませんね。

悪役令嬢様は婚約破棄さらに断罪される見込みの方とはいえ、今の時点では第一王子殿下の婚約者です。

お救いするのが王国の臣の務め。

何かあったら逃げるよう侍女に言い含め、一歩前に進み出ます。

何だあ、姉ちゃんですか?

あなた方に名乗る名はありません。

それよりあなた達、そこのお方に何をするつもりです?

第一王子殿下の婚約者、将来の王妃様でございますよ。

無礼はこのわたしが許しません。

はあ、知ったこっちゃない?

気の強いいい女は好みだから誘ってるところだ?

……隣国の訛りがありますね。

そういえば『剥奪聖女、だがしどけない』の中にも、似たようなイベントがあった気がします。

悪役令嬢様が白昼堂々誘拐され、以降第一王子殿下との間がギクシャクしてしまうのでしたか。

姉ちゃんも気が強くていい?

姉ちゃんってわたしのことですよね?

残念ながらわたしはヒゲ面のチンピラはストライクゾーンじゃないです。

ごめんなさい、顔をチェンジしてから出直してきてください。

ますます気に入った?

ええ? ちょっとあなた方の嗜好がわからないです。

ついていけません。

と、突然二人のチンピラがわたしに飛びかかってきたところへバインド!

わたしの得意とする、麻痺と沈黙を付与する魔法です。

チンピラ全員(と悪役令嬢様とその従者も。ごめんなさい)が効果範囲内です。

バタバタと倒れます。

ようやく憲兵が来ましたね。

協力御苦労様?

いえいえ、誇りあるヘブロニア王国の臣ですから当然のことです。

それよりこのチンピラの皆さん、どうも怪しいです。

喋りに隣国訛りがありました。

背後関係をよく洗ってくださいな。

悪役令嬢様とその従者に治癒魔法をかけて麻痺と沈黙を解きます。

わたしのバインドは範囲魔法なものですから、悪役令嬢様も巻き添えにしてしまいました。

不手際で申し訳ありません。

本当にごめんなさい。

えっ、助かったですか?

あんなに見事な魔法は見たことがない?

こっちの世界むにゃむにゃ……魔法は不思議な力だものですから魅せられてしまいまして。

そうです、わたしはルーシー・ライトでございます。

どうして悪役令嬢様がモブのわたしの名前を御存じなのですかね?

礼なんか結構ですよ。

悪役令嬢様は将来のヘブロニア王妃たる方なのですから。

お助けするのが当然です。

えっ、涙?

ど、どうされたのです悪役令嬢様。

わたしは聖女様の友達だから、悪役令嬢様の敵かと思っていた?

……ちょっとその理屈はわかりかねますけれども。

聖女様は純粋ないい人ですよ?

ようやく貴族の中で生活するということに慣れてきたようなのです。

悪役令嬢様も聖女様と話してみることをお勧めいたします。

わたしが仲立ちですか?

もちろん構わないのですけれど、わたし悪役令嬢様と聖女様の間に立つなんて恐れ多いです。

男爵家の娘に過ぎませんので。

わたししかいない?

そ、そうですか? では承ります。

では失礼いたします。

ええと憲兵さん、何か?

事情聴取ですか?

あらあら、今日は大変ですね。

ふんふ~ん。

この季節、アカデミー裏庭で食べるお弁当は最高ですね。

髪をくすぐる心地良い風が吹きますので、二割増しでおいしく感じます。

御馳走様でした。

午後も張り切ってまいりましょう。

あれ? あちらからいらっしゃるのは第一王子殿下と侯爵令息様と宮廷魔道士長子息様ですよ。

メインキャラ三人組、しかも豪奢な金髪とぴちっとした青髪とおかっぱ薄オレンジ髪のコントラストが素敵です。

淑女の礼で挨拶いたしますと、何と三人がわたしのほうに来ましたよ?

どうしてですかね?

はい、ルーシー・ライトと申します。

えっ? わたしのことを御存じですか?

侯爵令息様経由でお話が行ってますのでしょうか。

第一王子殿下に知られているなんて面映いです。

先日の話の報告が行っていたのですか。

悪役令嬢様がチンピラに絡まれておいでで。

いえ、第一王子殿下に頭を下げていただくほどのことではありませんよ。

魔法ですか?

得意と言いますか、好きなのです。

はい、宮廷魔道士長子息様が今、感知魔法を張り巡らせていることはわかります。

側近として重要なことなのですよね。

えっ、感知魔法に気付いたくらいで驚かれても。

わたしのバインドですか?

範囲魔法化していると悪者をいっぺんに制圧できるので便利なのです。

教えてくれ?

よろしいですよ。

こうこうこんな感じのアレンジです。

魔法について突っ込んだ話ができるって楽しいですね。

宮廷魔道士長子息様も満足のようです。

……大きな声では言えませんが、こっちの世界に転生した時に絶対魔法を覚えようと思いました。

だって魔法ですよ?

使いたいと思いますって。

魔法を習得するのはすごく大変だろうですって?

いえ、実りのないサービス残業を思えば、努力が身になることは全く苦でないのです。

悪役令嬢様と聖女様の仲ですか?

一度話したら打ち解けたようですよ。

お二人とも特別な立場ですから、わたしのようなモブには理解できない気持ちというのがあるのだと思います。

いや、悪役令嬢様が聖女様との間を取り持ってくれとおっしゃったものですから。

大変助かった?

大げさですって。

そんなわたしの才を見込んで話がある、ですか?

わたしに才などありませんけれども、第一王子殿下に問われたなら臣として誠心誠意お答えいたします。

何でございましょうか?

はあ、陛下に宿題を出されている?

次期王としてヘブロニア王国の発展に繋がるアイデアを出せ?

あっ、ございますございます!

わたし前々から規格の標準化を進めてくださらないかなあと思っていたのです。

わかりにくいですか?

ええと例えば長さや重さの単位が地方によって違ったりするじゃないですか。

同じ単位でも微妙に大きさが違ったりして。

そうですそうです、取り引きの時の揉め事になりますよね?

事務仕事だってそうですよ。

紙の大きさが違ったりすると整理が面倒ですから、同じ紙屋から仕入れるって話になるじゃないですか。

こうなるといくら安くても新規の業者が参入しにくくなりますよ。

事務仕事に使う紙の大きさはこれとこれって規格を明確にしておけばいいのです。

そういう標準化を進めてほしいものは世の中にたくさんあります。

いいヒントになったですか?

それはようございました。

ただのわたしの我が儘を口にしただけのような気がいたしますのに。

とんでもないことです、どういたしまして。

はい?

ああ、確かにわたし、明後日で一六歳になります。

よく御存じでいらっしゃいますね。

いえいえ、キラキラしい皆様に祝っていただけるなんて、望外の尊さでございます。

ありがとうございます。

……皆様どうして獲物を見つけたような目なのでしょうね?

モブには理解しかねますけれども。

ではこれにて失礼させていただきます。

ルーシー・ライト男爵令嬢は『鼻歌の令嬢』として知られている。

本人は知らないであろうが、あの鼻歌を聞くと一日幸せだとも。

ルーシーはいつも朗らかで機嫌がよく、他人を悪い気分にさせないからだ。

地味だが可愛らしい令嬢の代表格と思われていた。

しかし最近ではそれ以上の存在と見做されている。

何故なら聖女の親友ポジションにすっぽり納まっているから。

世界唯一の聖女と交流を持ちたい者は大勢いた。

が、平民ということもあり、当初聖女は貴族嫌いと思われていたのだ。

教会との兼ね合いもあり、距離を測りかねていた者が多かった。

しかしルーシーを通せばうまくいく。

また第一王子の婚約者である公爵令嬢を魔法で救ったとも言う。

さらに公爵令嬢と聖女の仲立ちをしたとも。

根も葉もない噂であったが、第一王子の婚約者は聖女に交代となるのではないかという憶測が一時期流れていたのだ。

公爵令嬢は大変ナーバスになっていたというが、実際に聖女と話すと仲良くなったという。

ルーシーの功績は大きい。

そしてルーシーの魔法の実力は呆れるほどで、宮廷魔道士長子息もとても敵わないと言っていたとのこと。

ほぼ独学で身につけたというのは考えられないそうだ。

アカデミーの成績がいいのはむろんのこと、様々な分野にわたって独自の知識と発想を持っている。

もちろんそれは前世の知識であったが、由来などどうでもよかった。

重要なのはルーシー自身に価値があるということ。

優先入学権でアカデミー生となった男爵令嬢は、婚約者を探すことしか頭にないというのが、常識であり定説でもあった。

だからルーシーも当初は全く重視されていなかった。

ところがあの令息に色目を使うことがない『鼻歌の令嬢』は、本人が意識することないまま重要なポジションに上り詰めてしまっているのだ。

ルーシー自身が自分をモブと思い込んでいるにも拘らずだ。

ルーシーは知っていただろうか?

乙女ゲーム『剥奪聖女、だがしどけない』の詳細設定資料集にこのような一節があることを。

『ヘブロニア王国では男性から女性への婚約申し込みは、女性が一六歳になってからという不文律がある』

三日後からルーシー争奪戦が始まることを、本人はまだ知らない。