軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16 不遜な輩に救いの手……なはず

戦士もどきは錆びついたブロードソードを高々と振りかぶり、まっすぐ突進してくる。その動きは単調で鈍重ながらも、圧倒的な質量と殺気を帯びている。

とっさに盾を前に構え、全身の力で受け止める。ズシリとくる衝撃の大きさに足元がずるずると土を削り、後退を余儀なくされる。鉄と鉄がぶつかる不快な金属音が辺りに響き、膝がわずかに震えた。

ようやく勢いを殺しきり、隙ができた。

「くっ……そ! やたら重いな!」

全身の力を込め、相手を押し返す。

反動で奴の胸元が大きく開く。今だ。渾身の力で剣を振り抜いた。錆びにまみれた鎧が派手に砕け散る。いきおいそのまま切り裂き、がら空きの腹部を横殴りに叩きつける。刃が鈍い感触を残しながら深く食い込み、直後どす黒い粘ついた液体が傷口から溢れ出し、とたんに腐敗したような臭気が鼻を突いた。

だが奴は引かない。肩にさび付いた剣を振り下ろしてくる。

――仕留めそこなった!

咄嗟に相手に身体を寄せる。ほぼ同時に痛みが走る。浅い。ヒットポイントを逃がせた。毒の可能性もあるか? じわじわと熱が広がる感覚が不安を煽る。しかし今は気を抜けない。

「こんのお!」

ベリータが素早く横から跳びかかり、鋭い動きで首を斬りつけた。その瞬間、戦士もどきの体がぐらりと揺れる。奴を押しのけ身を離す。

戦士もどきはよたよたと二歩、三歩と足を引きずり、最後は精根尽きたか。前のめりに地面へと倒れ込んだ。ガショリと鎧がひしゃげ、崩れる音。錆びた留め金が耐え切れず、いくつか音を立てて弾け飛んだ。

黒い液体が地面に染みを作るが、もう動く気配はない。

「大丈夫ですか!?」

ベリータが、眼を大きく見開いて駆け寄ってくる。その表情には、心配と緊張が色濃く刻まれていた。

俺は肩に手を当てて軽く回してみる。多少痛みはあるが、動かせないほどではない。

「問題ない! エリーを守れ!」

俺の言葉にベリータは気遣う様子を見せるものの小さく頷き、すぐに周囲の警戒へと戻った。

それでいい、まだアンデッドはうじゃうじゃいるんだ。俺もにじり寄ってくる連中に向かい、剣を構えなおす。

だがそれもすぐに杞憂に終わった。

間を置かず、背後からまばゆい光があふれるように広がっていく。エリーの魔法が発動したようだ。聖なるあたたかな光が波のように押し寄せ、触れたアンデッドの体が灰のように崩れ落ちていく。

うめき声はやがて悲鳴に変わり、奴らの群れは怯えたように後退を始めた。

ついに聖なる光が一閃し、辺り全体を包み込む。

残っていたアンデッドどもは、まるで消え去るかのように一斉に崩れ落ちた。

突如訪れる静寂。聞こえるのは風に揺れるわずかな葉擦れの音のみ。これまでの激しい戦いが嘘のような沈黙。

しばしの間、皆、呼吸を整える。 俺も深く息をつき、肩の傷口を押さえる。多少圧し切られたが、幸い動きには支障なさそうだ。痛みと疲労を感じつつも、仲間たちの無事を確かめるために周囲を見渡した。

「よくやった、エリー」

彼女はすぐ後ろにいた。

俺が声をかけると、エリーはほんのりと頬を染め、安堵の笑みを浮かべる。疲れているのだろう。彼女の息は荒いが、その目には達成感が宿っていた。

「みんなのおかげよ……ありがとう」

彼女は、仲間全員に感謝の気持ちを口にする。その言葉に、皆の表情もほっと緩んだ。

「けれどウォーレナ、ごめんなさい。傷の手当ては、少し待って……もらえるかしら」

自身もかなり消耗しているはずなのに。まず俺の体を気遣ってくれるのか。そんな彼女の優しさが胸に染みる。

門はまだ固く閉ざされたままだ。だが里の中からは、遠くかすかに戦いの音が聞こえてくる。敵が完全に一掃されたわけではなく、まだ戦いは続いているのだろう。

小休息をとりつつ、それぞれが周囲に警戒を続ける。肩の治癒も終えたしばらくの後、俺たちは互いに目を合わせ、頷きあうと門に向かう。

竜の里の南門は、荒々しい岩肌に囲まれた要塞のような佇まいだった。俺は重い鉄扉を叩き、声を張り上げた。

「私はウォーレナ=グレンヴィルという。速やかに開門されたい!」

門の上部に数体の飛竜の影が現れた。同時に鋭い咆哮が返ってくる。

「何者だ! 人間風情が、我らが里に何用だ!」

俺は深呼吸して、言葉を続けた。

「古竜クロエの契約者として、彼女に会いに来た! 彼女は今どこにいる? 彼女に会いたい。すぐ通してくれ!」

中からは回答の代わりに、疑いの視線が突き刺さるのが感じられた。

門番の翼竜たちが魔法の気配を高めている。追い払うつもりか。俺は盾を構え、意識を集中させたが、その必要はなかった。

「待って! 彼は本物です! お館様の契約者、ウォーレナ様です!」

涼やかな、馴染みある声。エルザだった。彼女は翼を広げ、優雅に舞い降りると我々の前に立ち、門番たちを制した。

そしてエルザは振り返ると、信じられないとばかりに俺を凝視し、首を力なく振る。

「ご主人様、本当にいらしてくださったんですね。道中よくご無事で……」

言い終わるかどうか。こらえきれないといった表情を見せ、抱き着いてきた。

「もう……二度とお会いできないと思っていました」

誤解が解けたのだろう、ようやく門が開かれる音が響き渡る。

「エルザ、無事でよかった」

俺も彼女に腕を伸ばし、軽く頰を寄せた。彼女の翼が柔らかく俺の背に触れる。

が、とたんに別の意味での鋭い視線が背後から飛んでくる。

エリーが俺の袖をぎゅっと掴み睨みあげてきたと思えば、ミミは髪をいじりながら舌打ちをし、シルヴィが炎の魔力を少し漏らしながら唇を尖らせたのを受け、ベリータが素早い動きで俺の横に寄り、肘で突ついた。

「陛下。シルヴィの前でそのような所業は、ちょーっと感心できませんよ? もちろん、私の前でも!」

俺は苦笑して手を上げた。