軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5 彼我の差

「さあ、効いてくださいましね…… 水榴弾(ウォーターグレネード) っ!」

シルヴィの掛け声の直後、人の頭部より少し大きめな水の塊が岩トカゲに向かって放物線を描き飛んでいく。

間もなく岩トカゲの頭上でバシャリと弾けた水の塊は、ヤツの全身を濡らす。

意外だったのは直後のヤツの反応だった。慌てたように踵を返す。これは見込みが当たったか?

追い打ちで竜術を仕掛ける。

「閃風!」

クロエの特訓の結果、簡易詠唱で発動できるようになった初伝の竜術を発動する。

剣を振るたびに風の刃が生成され飛んでいくスキルだ。先ほどからバシン、バシンと岩トカゲに命中している。が、相手は岩のバケモン。かまいたちのようなものではダメージは入らない。

だが狙いは そこ(・・) じゃない。

「あの、ウォーレナ様、あれじゃあ効果がないんじゃ……?」

ベリータがいぶかしげに問いかけてくる。

「まぁ見てろって。俺の読みが正しければもうじき……お、効果が出てきたみたいだぞ」

俺が首をしゃくって岩トカゲを指すのに合わせ、みんなの視線はトカゲに向く。

「あ、あれ? なんだか、動きが鈍くなってない?」

エリーが指摘した通り、岩トカゲの動きは徐々に鈍くなってきている。狙い通りだ。

「ああ。みんなも経験ないか? 水かぶった後に風が当たったら寒くして仕方ないっての」

「雨の中での掃討作戦を思い出して、ちょっと気が滅入るわね……」

おっと、どうやらエリーのトラウマを刺激してしまったようだ。

「つまり、寒さで動けなくなったってこと?」

「その通り、ミミ。ベリータと二人でとどめを」

すっかり動けなくなった岩トカゲの相手は難しいものではなかった。やわらかい部分を中心に攻撃を加え、冒頭の状況からは信じられないくらい、あっさりと倒してしまった。

だが実際に山にとりついた段階でこの有り様だ、さらに進めばどうなるのだろうか。

そんな憂いの答えは、間もなく明らかになる。

手練れだか熟練の域だか――そんなもの、結局はヒト同士での物差しに過ぎないということが。

数刻後、俺たちは一頭の魔物にいいように翻弄されていた。

……いや、遊ばれているんだ、これは。

パーティーの周りを素早く駆け回る魔物。大型のネコ科のそれだ。ただその姿は禍々しいほどの漆黒に覆われ、ギラリと光る金の瞳と時折チロリと除く真っ赤な舌、それにやたら長い牙だけが色を持っている。

――コイツ、笑ってやがる。

「ダンくんヤバいよ、このままじゃ」

珍しくミミが焦りの色をにじませる。彼女にかかっても目で追うのが精いっぱいのようだった。時折矢を射かけるものの、魔物はそんな抵抗をあざ笑うかのように素早く跳ね回り、すべて躱してしまう。

「わかってる! ヘイトをこっちに向ける! その隙に」

「わ、わかりまし……きゃあっ!」

ベリータが魔物の体当たりを受け、吹き飛ばされる。

「ベリータっ!」

「よせ、下がれシルヴィ!」

シルヴィが気を取られた隙をつく格好で、魔物が彼女に襲い掛かる。

「くっ、 挑発(トーント) っ!」

しかし魔物はこちらを気にも留めない。まっすぐシルヴィを狙う。彼女の表情に驚愕の色が浮かぶ。

「こなくそ、こっち向けコラァ!!」

掛け声と同時に投げたナイフがヤツの臀部に刺さり、ようやくこちらを向いた。かと思った次の瞬間には俺の盾に食らいついていた。

噛みついた盾ごとグイグイと押し込んでくる。食い千切ろうとしているのか、盛んに首を振ろうとするのを何とか留める。なんて馬鹿力だ。

「これでも……食らえ!」

もう一本ナイフを取り出し、ヤツの腹に突き立てた。

ギャアッというヤツの悲鳴にもお構いなしに刺さったナイフをグリッと捻る。ひときわ大きい悲鳴を上げたクソデカネコが、盾ごと俺を蹴り飛ばす。

地面にひっくり返されたので慌てて身を起こす。馬乗りになられるとまずい。だがその心配は杞憂だった。

奴はまるで音が聞こえてくるようなくらい、腹からやっぱりどす黒い何かを吹き出しながら、苦し気に地面を転がっている。

荒い息を整えつつ立ち上がり、ベリータに目配せする。彼女は一つ頷くと、とどめを刺しにかかった。先ほどまでの苦労が嘘のように、あっさりとカタがつく。

気を抜いたその時だった。

「おい、貴様ら」

すっかり油断していた。背後からかけられた声に慌てて振り返ると、そこには二体の竜が。いつからそこに? 全く気付かなかったことが地味にショックだ。

「たかが山猫一体に、どれだけ時間を掛けてるんだ?」

翼竜の一人があきれた様子で問いかけてくる。

「あ、アンタたちは?」

「質問に質問で返すのは失礼だとは思わないのか、人の子よ。我らはこの先にある村の住人よ。で? 貴様らは何用でこんなところまで。自殺志願か?」

「俺たちはいま、竜の里に向かっている。そこでクロエと会いたい。急ぐ旅なので、この先の情報など、教えていただけると助かるんだが」

「は? 竜の里に貴様らが? ははっ、面白い冗談だ。たどり着けると思っているのか、そんな腕で。それに貴様、クロエ様とどういう……?」

そこで翼竜は俺をしげしげと見つめ、やがて目を細めると言葉を継いだ。

「なるほどなぁ。貴様がクロエ様の。……しかしクロエ様もお人が悪い。なぜこんな人の子に力など」

こいつ、クロエのことを知っているのか? しかし世間話ができるほど時間もない。

「それは話すと長くなる。それよりあまり時間がないんだ。情報が無いようなら失礼する。先を急ぎたい」

俺の様子に鷹揚としたしぐさでもう一人の翼竜が答える。

「まぁ待て。ただ死にに行くだけなのも芸がないだろう。少し村で稽古をつけてやろう」

「そんな時間はないんだ。俺たちは急いで」

「黙ってついてこい」

その直後全身にショックが走った。身体に力が、入らない。

「ウォーレナ!」

エリーの悲鳴のような声を聴いたのを最後に、俺は意識を失った。