軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 早朝デートと行動力

朝からエリーとふたり、市場を物色する。双子は留守番で家事を任せてきた。ビルが抗議の声をあげたが、メグが羽交い絞めにして送り出してくれた。

ゆるりと歩いてながめているが、規模としては王都サザンポートの朝市とは比べるべくもない。さぞエリーにとってはつまらないだろうと思い隣をみるが、北方の品々が珍しいのかきょろきょろと興味深そうにしている。意外と楽しんでいる様子でほっとした。

エリーはときおり袖を引っ張りあれやこれやと声をかけてくる。そんな彼女は朝からすこぶる機嫌がいい。何かいいことがあったのだろう。俺もうれしいし、実に有意義だ。

家畜は予定通り 輓馬(ばんば) と牛、あと玉子が欲しいという彼女の要望に応え鶏を買った。家畜小屋が一気に賑やかになることだろう。後で家に届けてくれるよう言づける。

「新婚かい? いいねぇ」などと家畜商人が冷やかしてくるのを苦笑いでいなす。

エリーが「いっそそうなっちゃう?」などといたずらっぽい笑顔で覗き込んでくる。冗談めかして口にする彼女にまともに受け答えできない自分がどうにも情けない。

そのあと野菜とハーブの種をあれでもないこれでもないと議論した結果、ニンジン、キャベツ、レタス、カブなどを選んだ。特にカブは生育期間が短めなので早く収穫できる点がいい。夏までにとりきれるので、夏に次の野菜を植え付けられるのもありがたいところだ。

ハーブは完全に専門外なのでエリーに任せることにした。商人とやり取りしているのを横で聞いているのだが、先ほどから呪文のような名前がいくつか飛び出す。見たことがないものばかりなのはもちろんのこと、聞いたこともないものもある。

ちなみに彼女のお茶として口にしているのはいくつかあった。ただ見慣れているものが乾燥したものだけなので、実際にどう生えているのかには興味がある。意外と色々あったと、満足そうにしている彼女の様子にこちらもなんだかうれしくなる。

半分は俺の冗談がきっかけだったのかもしれないが、こんな身寄りのない辺境で暮らすのだ。エリーにも楽しみは多い方がいい。

「さてと。市場での用事は済んだよね」

そうだなと返すと、にんまりとエリーが笑う。

「ちょっと、行きたいところがあるんだけど」

んん? この顔をするのは決まって悪だくみするときだ。ガキの頃から変わってない。

彼女は俺の手を取りずんずん通りをすすむ。

「おーい、どこに行こうというのかね、お嬢様?」

「ふふん。それはね……ここよ!」

そういって立ち止まった先には見慣れた建物が。

「冒険者ギルド、だな」

「ええ、そうよ」

「なんでここなんだ? なにかクエスト依頼するのか?」

「何言ってんの、私もクエストこなす方になりたくって」

「え、まさか」

「そう。そのまさか。私もなるわ。冒険者に!」

「いやお前な」

「お前って言わない。てか兄さんたちは冒険に出て、私だけ家で待ってろっていう気? 冗談でしょ?」

「いや、はい、あでも」

「ま・さ・か。そんな楽しいことから私だけ除け者にしようだなんて、まさかまさか思ってないわよね兄さん?」

わー、いい笑顔。

確かに楽しいことは多い方がいいとは思った。思ったけれどもこれは……!

とあれこれ考えている間に意気揚々とドアを開け、冒険者ギルドに消えるエリーの姿に苦笑するしかなかった。

本当にお前ってやつは……相変わらずのじゃじゃ馬っぷりだよ。まったく。

ギルド前の広場で屋台の串焼きをくわえて待っていると、また勢いよくドアが開き銀髪をキラキラとなびかせたエリーが、満面の笑みで 冒険者証(ギルドカード) を突きつけてくる。

「ふっふーん、ほら! できたよ私のカード! ね、みてみてー」

ああうん、すごいすごい。でも申請したら縄付き以外はほぼ誰でも作れるものだから。ね? 恥ずかしいからさ、天下の往来でそんなドヤらないで。

「Bランクで作らせてくれってすっごく言われたけれど、兄さんと同じにしてください、ってお願いしちゃった。一緒にがんばって、ランク上げようね!」

いや俺は別にランク上げに興味は、などという言葉はかき消された。早速クエスト受注しちゃおうよとぐいぐい引っ張られ、ギルドの中に。エリーはその勢いで掲示板を一瞥、サクッと選んで決めてしまった。薬草の採取依頼。Fランクらしい、実に控えめな依頼だ。

エリーにはきっと、行動力上昇のバフが常時かかっているに違いない。

まあいいか。二時間もあれば達成できるだろう。昼飯前のちょっとした運動だな。

◆◆◆

一旦家に戻り、荷物を置くと双子を引き連れ森に向かった。

今回の依頼は森の辺縁にある薬草の採取だ。いうほど危険もない、その分報酬もそこそこの初心者向けクエストと言える。

「ねぇ、おねえちゃん。野菜やハーブと薬草って何が違うの?」

道すがらビルがエリーに問いかける。エリーは彼らの「おねえちゃん」呼びにはめっぽう弱いらしく、途端ににへらと相好を崩す。

「えへ、えへ、そうねぇー?」

などとバカになるのがなんとも締まらない。その反応、スケベなおじさんのそれだぞ?

それにビルよ。お師匠に対しての言葉遣いと、ずいぶん違う気がするのはお師匠の気のせいかなぁ? くそ、俺もたまに呼んでやろうかな。おねえちゃん。面白そうだし。

「んー、分かり易くいえば魔力を帯びているかそうでないか、かしら」

もちろん植物の違いはある。畑で採れるハーブや野菜などとは似ても似つかない姿だ。例えば今回の依頼品である『 回復草(レストグラス) 』。草と名前についちゃいるが、見た目は苔と草の中間の見た目をしていて、なんだかモフモフしている。だがぱっと見は何の変哲もない植物と思われても不思議じゃあない。

一般的な植物と大きな差としては彼女がいま言った魔力を帯びているかが挙げられる。

世界には魔力はどこにでもある。それこそ人が暮らす街にも。

そんな魔力だが偏在はする。平地は少なく、森や洞窟、ダンジョンなどの順に濃度は濃くなっていく。そんな場所を好んで自生するのが薬草のたぐい。人為的に栽培ができないとされている。ある程度環境中の魔力が濃くないと育たないらしいからだ。だから自生したものを取りに行くしかない。なのでクエストにもなるわけだ。

「……というわけ。今日は回復薬の原料の採集ね」

「ふーん。なんで作れそうなものわざわざ取りに来なきゃいけないんだっておもってたけど、そういうことだったんだね。やっぱりおねえちゃんは物知りだね!」

「ぐふっ」

エリー。レディーが出してはいけない音を出してる気がするんだが?

彼らに教えながらではあったが目的の薬草も順調に集まり、そろそろ引き上げるかと考えたころに事件は起こった。

「た、たすけて、ください!」

悲鳴に似た声のおかげで、のんびり採集クエストの雰囲気が一気に緊張感をまとった。