軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 クラスチェンジは突然に

――小鳥のさえずりと、甲冑が擦れる音に目を覚ました。

腕の中ではエリーが穏やかな寝息をたて眠っている。彼女の手入れの行き届いた銀髪は、僅かに差し込む日の光でさえ、反射してキラキラと輝く。

最近は、女性に対する恐怖感はすっかり影を潜めていた。エリーをはじめ、共に過ごす素晴らしい仲間たちに囲まれるうち、どこかに霧散してしまったらしい。俺も癒されたということか。彼女たちには感謝しかない。

そんな中エリーの脆い一面を目の当たりにし、昨夜はどうにも我慢ならなかった。彼女を元気づけたい、功績や能力を認めたい、守りたい。……彼女と共に歩みたい。様々な思いが募り募って、とうとう――

すべて俺のエゴだ。反省はする。だが後悔はない。

エリーは支度に時間がかかるということで、先に出ることにした。女性は大変だ。テントを出て黄色い太陽に挨拶代わりの欠伸を見せていたら、背後から突然声を掛けられた。

「陛下、ゆうべはお楽しみでしたね」

「うわあ、びっくりした。……なんだよミミ。この世の終わりのような声出して」

睡眠不足のようなミミが、生気をなくした目をしつつ、ぼそぼそと抑揚無く話す。

「いやあ、とうとうエリーをガチで手籠めにしたようで。クラスチェンジおめでと、これで魔法使い卒業だねー」

「うん、言い方もうちょっと優しくして?」

心なしかミミのアイコン、大きな耳もしおれている気がする。そのまま二人で並んで歩く。

「いやー、よかったよ。エリーも気にしてたから。ダンくんとの仲が進まないって。後がつかえてるんだから早くしろって周りもすごくて」

「そういう話題、出るんだ」

なんでさっきから抑揚無いの? んでなんで死んだ魚のような目してんの? てかつかえてる、ってなんなの?

「えぇ? そりゃ女同士だから、多少はね? ……でもさ」

そこまで言ってからミミが言いよどむ。なんだよ、じれったいな。

「も、もちろん良いことなんだよ。ダンくんもちゃんと女の子に興味があるってことが解ってやったー! って気分だし? そもそもウチは……二番目だし……」

ちょ、早口。それに最後は徐々に消え入るように声が小さくなったため、よく聞き取れなかった。

「えと、話が見えないんだが」

「だっ、だからさ、今度はウチのことも見て欲しいっていうか。その、さ。ちょっとだけ悔しいっていうか。……んもう、わかれし! バカっ」

ぽすっと軽く肩を叩くと、ミミは小走りにその場を後にした。……いい加減、分からないふりは、できないよなぁ。

詰所のテントに向かうと、すでに騎士たちは詰めていた。敬礼に答礼しつつ奥へと向かう。東部方面騎士団の幹部と、ギルバートが出迎えてくれた。

「おはようございます、陛下」

「ああ、みんなおはよう。状況は」

「よくありませんね。昨日夕方辺りから流言が流されております。主に陛下と騎士団への誹謗が中心です」

「ちょうど市場で大演説やらかした後からでしょうなぁ」

周りからさわさわと笑いが生まれる。……やけに行動のタイミングがいい。やはりこれはタダのデモではない、ということか。

「すみません、昨日は出過ぎたマネを」

遅れてやってきたエリーが、早速話のネタにされた件を詫びた。

「いえ、エレノア殿。あのタイミングで止めていなければ市場は壊滅的な被害が出ていたことでしょう。良い判断だったかと」

東部方面の騎士の言葉にエリーは胸をなでおろしたかのようだった。

「大丈夫か、エリー」

「もう、さっきも言ったでしょ。大丈夫」

急に詰所がシンとなった。なんだなんだ? こっちをじろじろ見るな。

「なんだ? 報告は以上か?」

「いえ! 流言の影響でしょうか、市民に動揺が広がっており、騎士団の活動にも支障が出始めています。協力に消極的な市民も現れていますので、事態は悪化していますね」

若い騎士が続けて報告をする。

「さっき見回りを先導してきたんですが、子供に『お前らも国を盗んだずるい王様も、俺が大きくなったらやっつけてやる!』なんて言われちゃって……はは」

余計な事言うな! などとベテランに小突かれた。

「いや、真実が知りたい。できれば隠さないでほしい。ありがとう、君」

とはいえ、国を盗んだずるい王様、か……。へこむなぁ。などとしょんぼりしていると背中に温かいものが。エリーが背中に手を添えている……のか。ちら、と彼女を見ると首を少し傾けまなじりを下げた。

また急に詰所がシンとなった。なんだ一体?

「えーっと……以上か?」

「あ、し、失礼しました! そのような情勢ですので、見張りと巡回は厳とします。場合によっては市民との衝突もあり得ます。辺境伯閣下との連携も必須かと」

「そういや昨日のバタバタで辺境伯への挨拶ができてなかったな」

午前のうちにでも辺境伯の城に行かねばなと考えている時に、バタバタと慌ただしく何者かが掛けてくる音がした。

「報告!! デモ隊が中央広場に集結し武装蜂起! 自治権を求めてこちらに進行を始めております。我々への要求は、辺境伯領からの即時撤退です!」

走りこんできた騎士の言葉に周りは一斉に臨戦態勢となった。

「なんだと? 辺境伯閣下の動きは」

「現在のところ、動きがありません」

「辺境伯閣下に伝令! デモを鎮圧するために助力を仰ぐのだ!」

団長と幹部数名を残し、ほとんどの者は一斉に詰所を後にした。これはもう呑気に辺境伯と面会、なんてことは言えなくなってきた。

そもそも公式には 俺(国王) がここに来ているという事実はない。下手にそのことが公になるほうが悪影響に働く可能性が高いだろう。

伝令によると、辺境伯は鎮圧部隊を編制中であり、昼過ぎには市内に展開するとのことだった。遅すぎると息巻く騎士たちを何とかなだめていたが、午後には事態は更に悪い方向に転がっていった。

「ベルクヴェルクの兵が展開しました! ……しかし」

「しかし、なんだ」

伝令が言いよどむ。おおかたロクでもない内容だろう。

「は、基本的には城の周囲を取り囲むように配置し、デモ隊を城に近づけさせない布陣となっています」

「防御戦というならわからなくもないが……このタイミングでか? 妙だな」

「ええ。デモを鎮圧する気が無いのでしょうか。こちらはまさに睨み合っているという状況ですのに」

ギルバートが歯がゆそうに爪を噛む。

「そもそも君たちがここに居るのは、辺境伯からの要請だったと聞いているが?」

「はい。先週から警備目的で滞在しております」

東部方面騎士団のメンバーは与えられた職務を忠実にこなしている。

「辺境伯の兵とデモ隊は衝突してはいないのだな?」

「ええ。デモ隊が相手にしていない、というように見えます。最初から騎士団しか対象としていないような」

それはつまり、辺境伯とデモ隊がグルである……大臣たちの報告内容を裏付ける動きではないか。

「よし。今夜調べものをする。騎士団は絶対こちらから手を出してはならんぞ」

「ええと、調べものって……?」

ギルバートがあいまいな笑みを浮かべる。たぶん、君が思っていることだよ。

「ああ。辺境伯の城に潜入する」

「ですよねー……」

さて、長い一日になりそうだ。