軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 太公望とカナヅチヒーラー

はぁ。おかしい。

準備は万端。仕上げも上々。

なのにどうしてこうなった?

「よっしゃあヒット!」

「こっちもまた掛かりました!」

はしゃぐ声はメグとビル。大きくしなった竿が大物ゲットを雄弁に物語っている。

領内――といっても領地を治めているつもりはないので家の庭の延長線上なのだが――家にほど近い場所を流れる川で釣りをしている。

今日の主役はどうやら双子だ。すでに生け簀には数えきれないほどの魚がひしめき合っている。対する俺はというと、現在のところいわゆる坊主だ。

おかしい。餌も仕掛けも同じなのにこの違いはなんだ?

水面のそこにはときおりキラリキラリと日の光を反射する影が見え隠れしている。つまりそこに魚は居るのだ! なのになぜ?

「おっし、またまたヒーット!」

「すごいじゃんビル! これ今夜の晩御飯よゆーっしょ!?」

爆釣具合にミミも驚きの声を上げる。

うん、すごいねホント……。あ、ちょうちょキレイね。

「メグたちすごいわね、今日のおかずには事欠かないわ。塩焼きにバター焼き、それにマリネでしょ、唐揚げもよさそう。……余ったら油漬けにして保存すればいいわよね。ね、どう思うダン」

エリーがウキウキしてます、って全身で表現しつつ今夜の魚料理の献立を口にする。笑顔がとってもかわいい。よだれ出てんぞ。

「ん? そうだな、シンプルに塩焼きもいいけれど……エリーがつくるものなら何でも美味しいから、期待してるよ」

「ええ? そう? じゃあ今日もいっぱい作ってあげるね、ってきゃっ!」

こちらを振り向いて油断していたのか、突然竿が引かれたことに驚いた様子であわてて竿を手繰る。

そのためか緩い足元に取られたエリーはバランスを崩した。あぶない、という間もなく竿を放り出してエリーを支えるため身を乗り出した。

「きゃあっ!」

おかげではっしと彼女の腰を抱え込むことができたがこちらも元々足場の悪い場所。こらえきれずに共に川に落ちる。せめて下で支えようと潜り込む。間を置かずにひんやりとした水中に飛び込んだ。

川とはいえ割と水深がある。が、幸い泳ぎは得意だ。何とかなる……と思っていたがあることを思い出して青ざめる。

エリーが超級カナヅチだったことを。

まだ水中に潜っている状態だがエリーはというと、わかりやすくバタついている。完全におぼれる人のそれ。

水面に上がり彼女を背後から抱きかかえる。意外と流れが速い。どんどん下流に流されていく。川岸ではミミが何やら叫んでいる。やっとのことでエリーを水面に引き上げた。

「ごほっ! けほっ。 た、たすけて」

やはりエリーは水に恐怖感を持っているのか、それからもせき込んだり暴れたりとなかなか落ち着いてくれない。

あまりに暴れるもんだから色んなところを触ってしまって非常によくない。

そのまま確保した状態で「落ち着けエリー。俺が支えてる」って何度か声をかけてようやく落ち着いてくれた、のだが。

「あの、ダン」

「どしたエリー。まだ怖いか?」

「ううんそれは大丈夫だけれど、その……手が……」

手? 手がどうしたと意識を向けた瞬間悟った。

あーっ、これはいけませんねえ。……どうやらちょーっとまずいところにワタクシの手があるようですね?

具体的に語ると、服の中に手を突っ込んでがっつり掴んでますね、これ。いわゆる鷲掴みってやつです。

薄手の生地だったからでしょうね、水中で大きくはだけたところに手が入ってしまったんだと思います、はい。

エリー、すっげー暴れてたしなぁ、ってなに冷静に分析してるんだっ!

「す、すまんすぐに離すから」

慌てて放そうとする手をエリーは押しとどめる。

「だめ離さないで! ……や、やっぱり怖いから。えと、足がつくとこまで連れて行って。それまではその、仕方ないから」

そのまま二人無言でざぶざぶと岸に向かう。そんな中だから揺れる揺れる。あったかい。やわこい。手からこぼれ落ちそう。こいつぁ活きがいいな!?

永遠に岸まで着かないんじゃないかと思っていたのも束の間、足がつくところで解放してやるとエリーは数歩離れて服を整えてから、安心したかのように一息ついた。

「あの、エリー。その、ごめんな」

「う、ううん。助けてくれたんだもん。感謝しなきゃなのは私のほう。ありがとね」

背中越しで表情はうかがい知れなかったが、エリーの首筋は日焼けのせいかほんのり赤みを帯びていた。ただすっかり水を含んだ服は背中といわず全身に容赦なく張り付き、否応なしに彼女の身体のラインを露わにさせる。

浮き彫りとなった肩甲骨に、背中に張り付く乱れた髪に。すぅっと通る背骨のくぼみに。腰からお尻にかけてのなだらかな曲線に。そのすべてに、思わず目を奪われる。みるみる口が渇きを訴える。

見てはいけないと理性が訴えるものの目が離せない。日の光を受けキラキラときらめくしっとりと濡れた彼女のその姿に、夢中になった。

美しい、と思った。

そんな視線に気づいたのか。気づけば振り向いた格好のエリーにジッと見つめられていた。

我に返って辛うじてこれだけ返事をする。

「な、なに?」

頬をまっかに染めたエリー、恥ずかし気にお尻をうしろ手にやんわり隠す。

「……えっち」

「あ! いやっ! そういう意図で、見ていたわけではっ」

「きゃーっ、エリーさんその恰好ダメー! ダンさんあっち向いてて!!」

メグの叫びに「イエス、マム!」と今までの人生のなかで恐らく最速の回れ右をキメた先では、ミミがにやけ面でこっちを見ていた。

「ダンくん、いいもん見れたね?」

「う、うっせ!」

今そういう突っ込み、禁止! 余裕ないんだから!

あの後エリーが風邪をひくといけないということで早々に家に戻った。

俺の心配は? って言ったら「ダンくんは大丈夫っしょ、鈍感だから」ってミミに笑われた。嘘でもいいから心配してるふりくらいしてもいいじゃないか。ちょっとさみしい。

竿なんかの道具を片付けて屋根がないオープンリビングに戻ると、ビルがソファに寝ころびながらなにやらキラキラした石を手に持って眺めていた。

「どした、ビル。珍しいものでも拾ったか」

「お師匠。ほら。さっき綺麗な石がいくつか落ちてたからさ、一つ持って帰ってきた」

そういってグイと突き出した手にはときおり白くギラリと輝く綺麗な金属質の石。

「ん……? これ、もしかして」

「宝石!? 俺お金持ちになれる!?」

ビルが慌てたようにソファから跳ね起きる。

「いや、宝石じゃあないけれど……多分だが 白銀鋼(しろがねこう) の鉱石じゃないかなこれ」

「白銀鋼?」

白銀鋼(しろがねこう) 。鉄より加工は難しいが、強度、靭性ともに優れおまけに鉄より軽い。主に高価な武器や防具の原料となる。我が国では産出する山が少なく輸入頼りと聞く。

「へぇ。そんなレアな金属なんだ。……それがなんで川に?」

「もしかしたら上流に鉱脈があるのかもな。明日にでも見に行くか」

「楽しそう! 行きたい!」

おいおいビルさんや。ソファでぴょんぴょん跳ねるのやめなさい。

よし、明日はちょっとした資源探索だ。