軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15 戦中の空、戦後の空

「あー、 タリン姫(彼女) に手を出すのはナシでたのむ。お前たちが犯罪者になるのは許さない」

えぇ……って顔するな。その気持ちだけ受け取っておく。

「じゃあ仕方ないからさ、あんな 姫(オンナ) のことなんか忘れて、……あ、アタシがさ、その、いつでも慰めてあげてもいいんだからね。や、別に深い意味はなくて! ご主人様が寂しいだろうから、し、仕方なく、仕方なくよ? ほホント深い意味はないんだからね?」

左からなにやら誤魔化したいのか、押し殺したような早口なライザの声。

「私はいつでもいいですよ。ご主人様がお望みならばいつだって。喜んで伽もさせていただきますから」

右からは落ち着いた大人の女性らしいエルザの声が。

「ちょ、おねえちゃんずるいそれ」

「ずるくなんかありません。お慕いしております、と申し上げているだけよ」

なんというか、左右でうるさい。

「いやいや待て待て。そういうのは大丈夫だから、間に合ってるから」

ぐい―っと両手でやさしーく身を離してすばやく立ち上がる。振り向き見下ろした先には不満げな二人の表情。彼女たちも心底俺のことを心配してくれているのがわかるから、無下にはできないところが辛いところだ。思わず胸に熱いものがこみ上げてくる。

「でも、二人とも、ありがとな」

そう言うしかないじゃないか。そして二人の髪をくしゃっと撫でる。ライザは口をとがらせ、エルザは柔らかく眉尻を下げた。

このあと家のことはクロエに頼み、俺たちは買い物に行くことにする。

元の姿である飛竜となったエルザとライザ、二人の背にそれぞれエリーと二人乗せてもらい、南にある少し大きな町まで飛んだ。

目立つといけないので地面から少し高いところを飛んでもらう。ぷかぷか浮かぶ雲の少し上を飛んでいると、まるで雲一つない青空の下、雪原を猛スピードで滑っていくような感覚にとらわれる。そんな中時折切れる雲の切れ間からはミニチュアの家や道路がちらちらと覗き見えて、ここが実際は決して人がひとりでは到達し得ない場所なのだと思い知る。

乗り慣れていると言っていい。だがいつも戦場の陰鬱とした景色ばかりが流れていた。地上に興味があるとすれば目標はどこか――殺すべき対象はどこだ――そればかり追っていた。

今あらためて地上を眺めるとちょうど雲が切れ、美しく整列する並木道がずっと先の方まで続いているのが見えた。その脇にはキラキラと陽の光を反射する湖。遠くには青くかすむ森が。さらに遠くには白く雪を冠した峻険な山々が雄大なその姿を横たえている。

こんなに地上が綺麗なものだったなんて、知らなかったな。

「相変わらずこの子たちは速いわね! もう街が見えてきた!」

大きな声に引き戻された。風切り音に負けないように大声を張り上げたのだろう。振り向くと髪をおさえつつ、エリーが笑っていた。

「ああそうだな! エルザ、あの手前の森に降りてくれるか!?」

俺を乗せるエルザは「くるる」と同意の鳴き声を返してくると同時に徐々に高度を下げ始めた。

そういえば最初にエリーが彼女たちの背に乗ったのはいつだったか。

エリーが彼女たちの背に乗るのは初めてじゃない。蛮族との戦闘でも上空から広域回復支援を行うためによく彼女たちの背に乗った、いわば戦友だ。

彼女の目にも、いままでと違うこの景色は特別に映っただろうか。

まもなく街の住民にいらぬ動揺を与えぬよう、街の近くの森に降り立った。

「ねえ兄さん。すっごくきれいな景色だったわね! 私、いままで何度か乗せてもらったけれど、こんなきれいな風景を見たのははじめて!」

降りた早々、エリーが興奮気味に語りかけてきた。「帰りもたのしみ~」などとご機嫌なエリーに、胸が温かくなる気がした。

その後街で必要な物を買い揃えることができたため再びノーウォルドへの帰途につく。行きとは違い、少し下げた高度でのんびりと飛ぶ。今度は陽が傾き赤く染まりかけた空からの景色に、エリーが感動の声をあげるのを聞きながら今後についての思いを巡らす。

とりあえずは家だ。クロエのバカが踏みつぶした家を何とかしなければ落ち着いて体を休めることもできない。まだ住み始めて日も浅かったのが幸いした。さほど物も買いこんでいなかったし、つまりはエリーたちが好む物を買い揃えることもできるということだ。もうそこはいい方向に考えることにしよう。

それからはみんなの意見を聞きたいところだが、森林の奥にあるというダンジョンを見てみたい。人数もそろっているし、規格外のバケモン(竜だが)が三人もいるから、安心して潜ることができるだろう。

かくいう自分も成人してすぐに騎士団に入ったから、冒険者という言葉に並々ならない憧れを抱いてしまっている。スローライフとは縁遠いキーワードだが、抗いようのない好奇心も同時に持ってしまっていることは否定できない。

あとは周辺の魔物を適度に狩りながら畑を充実させるのはどうだろう。人も増えたわけだから、それなりに規模を増やさないと維持するのが難しくなるかもしれない。

そうだ、どうせなら家畜も増やしたい。肉や乳が採れればさらに余裕のある、ゆったりしたスローライフが送れるに違いない。

いろいろ考えることがあって楽しいな。戦場ではついぞ考えも及ばかったことばかりの毎日だ。

などと考え事をしていたらあっという間にノーウォルドに着いた。

さてわが家だったところに戻ってみればなにやら騒がしいことになっていた。丸太が山積みになっているところはまぁお察しだが、見慣れぬテントが立ち並び、狐人族がわんさか集まって鍋を作っている。これはいったい? などとエリーたちと首をひねっていると、「ダンく~ん!」などという呼び声と共にミミがにこやかに手を振って駆けてきた。まぁなんというか、可愛いと思うよ。同時に隣から殺気のようなものが感じられるけれど。

「おかえりダンくん! おつかれさま~、ご飯できてるよ!」

「ああミミ、ただいま。ありがとな。えーっと、ところでこれはいったい?」

周りを見渡すとミミは頭をかきながら、えへへといい笑顔を見せた。

「えっとね、家が壊れた話をしたら、ウチの部族の人たちが新しい家を作るの手伝ってくれるって、みんな来ちゃったの!」

カラカラと笑うミミにもはや笑うしかない。でもまぁ、ありがたい話ではある。

「お、お嬢の婿殿が帰ってきたか」

「なんでえなんでえ、お嬢のほかにもこんな 別嬪(べっぴん) ばかり集めやがって」

婿ではない。おまけに好き好んで集めたわけでもない。誤解するのはやめてくれたまえ。

「そうなんよー、ダンくんモテモテだからさ、ウチも頑張らないとだよねー!」

ミミが周りにいる壮年の狐人族に話しているとき、ふいに大きな声が響き渡る。

「お前か! 俺の女をかっさらっていったやつは!?」

声に目を向けると、そこにはガタイのいい一人の狐人族の男が立っていた。

あら? なんか俺、やっちゃいました?