軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第76話 エルドウィッチ戦争(1)

それは突然のことだった。

雷が落ちたかのような轟音と閃光――。

ユグドラシル王国から北西にあるシンリンゲン大草原――突如大草原の中央あたりに、 それ(・・) は出現した。

すぐにドラゴンたちが知らせてくれて、俺はいったん世界樹の身体に戻った。

見張りに行っていたドラゴンたちが、みな一斉に逃げるようにして、世界樹のもとまで戻ってくる。

「なにごとだ」

「どうやら、ハイヤールがやられたみたいです……」

「そんな……ハイヤールが……」

ドラゴンたちの会話からすると、どうやらハイヤールがやられたようだ。

ハイヤールは勇敢な雄のドラゴンだった。だが、いったいなんでそんなことに……。

ハイヤールなら、もし危ないと思ったら逃げ帰るくらいはできそうなものだ。

それに、ドラゴンがそう簡単にやられるとは思わない。

「やはり……アレのせいか……」

「アレはいったいなんなんだ……?」

俺のもとからも、その姿を確認することができる。

世界樹からそれまではかなりの距離があるから、うっすらとぼんやりしてはいるのだが……。

だがそれにしても、その怪物は、あまりにも大きかった。

そのあまりにもの大きさに、縮尺が違っているのではないかと錯覚するほどだ。

シンリンゲン大草原の真ん中に突如現れたそれは、怪物と呼ぶにふさわしいものだった。

そうだな、大怪獣とでもいえばいいのだろうか。

それは場違いなほどに大きく、まるでそこだけ異質な空間のような感じがする。

大自然の中に、突然巨大な高層ビルが出現したかのような違和感。

それは、動く城のようなものだった。

距離としては、ユグドラシル王国からはかなり離れたところにいる。――のだが、あまりにも大きすぎるため、ここからでも見ることができる。そして、あまりにも桁違いに大きい。

「あれは……べへモス……!?」

フランリーゼがそう言った。

俺は一度人間の姿に戻り、地上に降り立つ。

「べへモス……!? あれが……」

「セカイ様、大変です。あれは神話上の生物。なんであんなものがこんなところにいるのかはわかりませんが……とにかく、手をうたないと……」

べへモスといえば、ゲームなんかでもきいたことのある名前だ。まさか俺がこの目でお目にかかる日がくるなんてな……。

それはまるで城や要塞が歩いているようなものだった。

べへモスが歩くたびに、地面が抉れ、地鳴りが響く。

そしてどうやら、一直線にこちらに向かってきているようだった。

「奴の狙いは……おそらくはセカイ様でしょう……」

「えぇ……!?俺が……!?」

「バハナムトのように、世界樹を食べようとしているのかもしれません……。いや、しかし、あれが自然発生したはずもない……。おそらくあれは、何者かが悪意を持ってこの場に呼び出したものでしょう。召喚魔法の類に違いない。だがそれにしても、べへモスを召喚できるほどとなると……宮廷魔術師……いや、それ以上のレベルだぞ……」

「とにかく、ユグドラシル王国がピンチってわけだな……」

「やつがユグドラシル王国にやってくる前に、仕留めましょう。大丈夫です。セカイ様には指一本触れさせません!」

さっそく、フランリーゼ率いるドラゴンたちが、べへモスへと向かって飛んでいった。

俺たちも、こうしちゃいられない。

なにが目的かはわからないがべへモスがこちらに向かってきているというのなら、立ち向かわなければならない。

このままみすみす踏みつぶされてしまうわけにはいかないからな。

だけど、べへモスがいるのは、レルギーノ大森林からは遠く離れたシンリンゲン大草原だ。

シンリンゲン大草原へ行くまでには、かなりの距離がある。それこそ馬車で数時間はかかる。

「俺は……外に出られないじゃないか……くそ……」

俺は歯噛みして、自分で自分の膝をぶっ叩いた。

ユグドラシル王国がピンチだっていうのに、俺は指をくわえてみていることしかできないのか?

シンリンゲン大草原はデズモンド帝国よりも遠くに位置するので、世界樹の枝を伸ばして戦うこともできない。べへモスがもっと近づいてくれば、それも可能だろうが……。

みんなに任せて、みんなが戦っているあいだ、俺は引きこもっていろっていうのか……?

そんなこと、できねえだろ……!

俺が意を決して、外出を決意したそのときだった。

俺の前に、ゴブリンとワーウルフたちがやってきた。

「セカイ様、大丈夫です。べへモスは俺たちがなんとかしますよ。セカイ様には指一本触れさせません。だから、セカイ様はここで待っていてください」

「そんな……そんなことはできない……! 俺も戦う……!」

「だけど、セカイ様はお外に出られないでしょう!?」

「そうだけど……でも……!」

「大丈夫です、セカイ様。セカイ様は、このユグドラシル王国にとどまって、我々の帰りを待っていてください。べへモスには全勢力をもって対処するつもりです。しかし、もしもの場合にユグドラシル王国にも戦力を残していなければなりません。ユグドラシル王国を空にすることはできないのです。なので、セカイ様はこのユグドラシル王国をまもっていてください」

「たしかに……それもそうだが……だけど、俺はみんなが倒れていくところを見ていられない……!俺のために戦ってくれているのに……!」

「相手の目的はおそらくセカイ様です。だからこそ、セカイ様がみすみす出ていくことは避けなければなりません。大丈夫です、俺たちはやられませんから、すぐにべへモスを退けて、戻ってきます」

「俺が目的だからこそ、俺が出ていくべきじゃないのか……!?」

「堪えてください……。それに、セカイ様にはお子様がいるではありませんか。ドライアド様たちを戦場へ連れていくことはできません。セカイ様はここで、ドライアド様たちをお守りください」

「っく……どうしようもないのか……それに子供なら、お前たちにだっているだろう……」

「わかってください。これもユグドラシル王国のためです。我々は、セカイ様を失うわけにはいかないのです。他のものなら代わりはききます。ですが、あなたさまはこの国の国体そのものなのです。通常の状態ならともかく、外に出て不調なままのあなたさまを、べへモスの前にみすみす差し出すことなどできません」

「でも…………!」

俺はためしに、一度また森の外までついていくことにした。

しかし、一歩森を出るとだめだった。

尋常ではない吐き気が俺を襲う。

なんで、外に出るってだけで、俺はこうもダメなんだ。

仲間が殺されて、国がピンチだっていうときにだ……!

「う……おぇ……」

「ほらね……。そんな状態のあなたを、連れてなどはいけませんよ……」

「す、すまない……本当に……」

「あやまる必要はありません。セカイ様、あなたを守るのが、我々の使命であり喜びなのですから」

俺はなんとかゴブリンたちになだめられる形で、ユグドラシル王国にとどまることを決意した。

俺は、この国を守らなければならない。そして、子供たちを……。

「では、セカイ様、行ってまいります」

「ああ、べへモスを頼む。俺はお前らの留守を守るよ」

「ええ、お願いいたします」

わずかばかりのエルフ、ゴブリン、ワーウルフの戦力をユグドラシル王国に残し、残りの戦力はみなべへモスを止めるべく、向かっていった。彼らには、ありったけの世界樹酒と、世界樹の葉を持たせた。もしハイヤールの死体を回収できたのなら、世界樹の葉で蘇らせることができるはずだ。

のちに、俺たちはこの選択を後悔することになる――。

かといって、他になにか手があったかと言えば、なかったのだが。