軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第88話 教会で話す

ジーナが金を盗むわけがない。

だが、問題は そ(・) こ(・) じ(・) ゃ(・) な(・) い(・) 。

ジーナの語った話と、服飾に関してのあの腕前。

訴えた側は恐らく、 ジ(・) ー(・) ナ(・) 自(・) 身(・) を奪いにかかっている。

連中の前に現れたら、どんな手段を使ってもジーナを連中の家に閉じ込めて二度と出さないように画策するだろう。

ジーナは突っぱねるだろうが……どんな手を使ってくるかわからない。

相手は、長年ジーナと暮らしてきたのだ。お人好しで押しに弱いジーナを丸め込むのは簡単だろう。

ジーナもまたシルヴィアと魔術契約をしているので逃れられないはずなのだが、連中が上手いことジーナを閉じ込めるのに成功してしまったら、ジーナは脱出できないだろう。

武器は新しく持たせているが……さすがに長年ともに暮らしてきた者たちを問答無用で始末するのはジーナの性格上無理のはず。

「……最悪の場合は、金で解決するけどな」

「念のため、メイヤーにも頼んでかき集めておきます」

たかが町の工房だ、本来ならそこまで金があるはずがない。だが工房の息子の婚約者は豪商の娘だそうだから、そこから借りた金を盗んだと言ってきたら予想以上にふっかけてくるだろう。

もう一つの懸念は、公爵領の事件となるのでシルヴィアの名前を出しづらいのだ。

シルヴィアが無事生きのびて城塞の主になったことを、まだ公爵夫妻の耳に入れたくない。

なので、出来る限り穏便に済ませたい。

「……隣国に要請を出せないのがつらいな。公爵領内では、公爵令嬢の肩書きはわりと無力だからな……」

「……要望とあらば、公爵夫妻に穏便に引退していただくよう、ノマーニと計らいますが」

ベッファが声をひそめて言うと、エドワードが苦笑した。

「それも、最悪の場合だな。 ま(・) だ(・) 、時期じゃない」

「かしこまりました」

ベッファは、エドワードの言葉の真意を正確に捉えた。

エドワードは、時期が来たら公爵夫妻を排除する気だ。

シルヴィアには弟がいて次期公爵はその弟だろうが、シルヴィアの邪魔になりそうなら即排除するだろう。

そしてベッファもその手助けをするだろう。

カロージェロは、ジーナを教会へ呼び出した。

家令として、また神父として、ジーナの話を聞こうと考えたからだ。

教会のほうが気持ちが落ち着けるだろうとも考えた。

「カロージェロさん、どうかしました?」

ジーナが現れ、困った顔で尋ねる。

空気の読めるジーナは、カロージェロが内密の話がしたいということがわかったが、教会でとなると、プライベートの話ということになる。

自分の過去がバレたかな……? と考えつつ、面談用の小さな部屋の椅子に座った。

カロージェロも座り、居ずまいを正す。

「……エドワードさんに、貴方の叔父上様の捜索を頼んだでしょう?」

「……え。はい。それが……」

頼んだことで何か問題があったのかな? とジーナが戸惑う。

「これから話すことに関連があるので、差し障りのない程度でいいですから私にも経緯を教えていただけないでしょうか」

カロージェロが深く頭を下げたので、ジーナは慌てた。

「頭を上げてください! 大した話じゃないので、言ってなかっただけですから! ……あと、私とシルヴィア様のなれ初めの話にもつながり、シルヴィア様の権威が落ちるのが心配で――」

「それはあり得ませんので、ご安心ください」

被せてカロージェロが否定したので、ジーナはうなずいた。

「そうですね、あり得ませんでしたね。えー、では、話します」

ジーナは簡単に、両親が事故で亡くなり、救助してくれた町の住民の、服飾工房の親子の家に住むことになり、家族同然という言葉に騙されて無料で奉仕することになったこと、叔父が引き取ってくれると言ったのに断り続けたこと、そこの息子は結婚をちらつかせていたのに蓋を開けてみれば豪商の娘と婚約し、自分を囲うような発言を婚約者の前でして怒らせ、さらには結婚させない雰囲気もあったので、婚約者の手を借りて逃げ、逃亡の途中でシルヴィアとエドワードに会い、行動を共にし、シルヴィアに侍女として雇ってくれないかと頼んだことを話した。

「ずっと気に掛けてくれていた叔父には申し訳なくて。謝り、ここで幸せに働いているからもう大丈夫だと伝えたかったんです。それで、エドワードに頼みました」

カロージェロは、痛ましそうにジーナを見つめていたが、軽く頭を下げる。

「話していただきありがとうございます。……なるほど、そういうことでしたか。では……私がジーナさんに話すことになった経緯をお話しします。エドワードさんは、ベッファに調査を頼んだようです。恐らくエドワードさんの伝手では調べきれなかったのでしょう。ベッファはノマーニさんに頼み、ノマーニさんは一族の者を使って調べました」

ジーナは驚いた。

「え。そんな大ごとになったんですか?」

「大ごとというほどでもありませんよ。ノマーニさんの前職は情報屋です。確かな伝手があるのですから、活用しただけでしょう」

ジーナは、納得出来るような出来ないような気持ちでうなずく。

カロージェロは、ジーナを見つめながら語る。

「……ジーナさんの叔父上であるコスマさんは、ジーナさんのことをずっと気にかけていました。何度もジーナさんの住む町へ足を運び、近隣の方へ近況を尋ねていたそうです。……そして、もしもジーナさんが今のところから出るようなことがあったら知らせてほしいと頼んでいたそうです」

ジーナは驚いた。

あれ以来、二度と姿を現さなかったので、もう町には来ていないと思っていたのに。

実際は、気にかけて見つからないように何度も様子を見に来てくれていたなんて。

叔父の優しさと思いやりに触れ、思わず涙ぐんでしまう。

「……叔父は正直に『行商なのでずっとついていてやれないし、不自由もさせると思う。だけど、今よりはマシな生活を約束するし、やりたいことがあるのなら、手助けする』って私に言ってくれていたんです。なのに私は……両親が亡くなったことで、甘い言葉を囁かれてそれに縋りつき何も見ないようにしてしまいました。そんな私なのに……ずっと……見守っていてくれていたなんて……」

さぞかし歯がゆかったことだろう。

バカな姪は目を覚まさず、ただ働きでこき使われてそれでも工房の親方親子の甘い言葉に縋りつき利用され続けている。

力尽くでも連れ帰りたいと思ってくれていたのかもしれない。