軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第85話 シルヴィアが……

「……で? ブリージダ嬢の発作はどうにかなったのか?」

エドワードがふてくされたようにカロージェロに尋ねた。

カロージェロは何と言うべきか悩んだ後、

「……多少、抑えられるかもしれません。彼女の場合、ストレスと言いますか、精神面での問題でして……」

と、伝えた。

「精神面?」

エドワードが訝しげにカロージェロを見る。

「侯爵令嬢で、しかも王族の婚約者だった方です。いろいろと負荷がかかり、さらにそれを表に出さず常に冷静沈着であれ、と己に強いています。高位貴族の侍女もそうですが……それとはまた別のプレッシャーでしょう。……これ以上は、令嬢ご本人が話さないかぎり、神官の私からはお伝え出来ません」

エドワードは意外な回答を聞いたため、ふてくされた感情が飛んでいってしまった。

ストレスで失調するのは、確かによくあることだし納得は出来る。

通常の病ではないため聖魔術も効かないのかもしれない。

「……いや、ストレスの薬もあるだろう?」

「すでに飲んでいて、それでも崩すのですよ……」

エドワードのツッコみに、カロージェロは回答した。

抑えていても発作を起こすのか。

しかも、シルヴィアの前でだけ。

「……つまり、シルヴィア様がプレッシャーになっていると?」

エドワードにそう尋ねられたカロージェロは、躊躇いつつも肯定した。

「……プレッシャーとは違いますが、原因ではあります。ですので、いっそ開放されてはという提案をしました。侯爵令嬢ですので体面はあるでしょうが、多少なら許されるかと……念のため、シルヴィア様にも了承を得ました」

カロージェロの言葉を聞いたエドワードは、身を翻してシルヴィアのところへ走った。

そんな爆弾を抱えた令嬢が、シルヴィアにつらく当たったらどうするんだと罵る暇もない。

シルヴィアは確かに気にしないだろう。

舐めた住民希望者が何を言おうが冷酷に同じ文言をくり返す。

だけど、実家で酷い目に遭っていたシルヴィアを、これ以上つらい目に遭わせたくない。

「……シルヴィアさ――」

その思いでドローイングルームの扉を思い切り開けたら……。

「あああああ~~~~! かわいすぎるぅう~~~~!」

虚ろな目のシルヴィアに抱きつき、頰をスリスリしているブリージダ・コンシュ侯爵令嬢を目の当たりにした。

そして、飛び込んできたエドワードに室内の全員が凍りついた。

「大変申し訳ございませんでした」

エドワードは平身低頭した。

男性の従者が許可無く女性のみで行われている指導の場に突撃するなど、処罰モノだ。

だが、エドワードは筆頭護衛騎士であり、また城主代理でもある。

緊急時という弁解をするのならば無礼は許される立場だ。

だが、今回を緊急時と言っていいのか……。

勘違いで突撃したのだから、弁解のしようがない。

しかも、ブリージダの醜態を見てしまったのだから。

実際、ブリージダ付きの侍女は射すくめる勢いでエドワードを睨んでいる。

剣を持っていたらエドワードを叩き斬りそうなほどの眼力だ。

「…………いえ。おかげで開き直りましたので、謝罪は結構ですわ」

シルヴィアを膝に抱いたブリージダが、落ち着いた声で言った。

「……私、かわいいものが大好きですの。第二王子殿下の婚約者であったときは戒めのため封印しておりまして……。そのせいか、かわいいものを見ると、動悸が激しくなりめまいを起こしたりしますの」

と、ブリージダがとんでもないカミングアウトをかましてきた。

「第二王子殿下から婚約を破棄され、自分をさらけ出してよくなりましたが、それでも身についた感情を抑える術はなかなか抜けず……。そして今回、七歳のかわいらしい城主のマナーレッスンを私が受け持つことになり、非常に楽しみにしておりましたの。どんな令嬢かしらと心を浮きたたせておりまして、そして到着しましたら……。想像をはるかに超えるかわいらしさで、もう、どうしていいのかわからずにおりましたのよ」

「…………さようでございますか」

エドワードは、それしか言いようがない。

シルヴィアの瞳のハイライトが消えているのが気がかりだが、虐待されているわけではない。むしろ真逆にかわいがられているし、褒められている。

膝に抱いたシルヴィアを撫でつつ、ブリージダが続ける。

「シルヴィア様が感情を抑え込もうとして発作を起こす私を気遣ってくださっていると聞いたときは、本当にうれしくて……。また、神官様が、シルヴィア様の一挙一動に沸き立つのは私だけではなく城塞にいるほとんどの方がそうなので、シルヴィア様が受け止めてくださるのなら多少は開放してもいいのでは……と助言をくださり、シルヴィア様にお話しして、少し開放してみましたのよ」

少し?

それで少し?

全力ならどうなるの?

エドワードは恐ろしくて訊けなかった。

シルヴィアも訊けないだろう。

エドワードは、豚に乗ったシルヴィアを見たら心臓が止まるんじゃないかと思い、やはり厩舎に近づけないようにしたのは正解だなと、内心で考えていた。