軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47. 私も、好きな人と結婚しました

これは働き者な村娘のお話。彼女は父を亡くし、病弱な母と幼い弟を養っていました。

「好きな人ができたから、お前に代わりを用意した」

婚約者の隣には、美しい町娘がおりました。

「街で仲良くしてる奴がさ、嫁を探してたんだよ。お前の話したら是非とももらいたいって」

家族を支えるため、娘はその人の婚約者になることにしました。

「じゃあ、お幸せに」

娘はそれだけ言って村を出ました。

「これからよろしくお願いします」

麓の町の中でも一際大きな屋敷が、娘の次の婚約者の家でした。彼は街で有名な商会の息子でした。

「あー、うん。よろしくね」

商会の息子は、ボロ雑巾のような娘を気に入りませんでした。

「愚図だね! これならメイドの方がまだマシだよ!」

日中の介護に加えて、夜は経理の勉強。娘はとにかく頑張りました。

「好きな人ができたんだ。次の嫁入り先は見つけておいたから、勘弁してくれないかい?」

しかし、商会の息子は他領で一番大きな商会の娘と結婚することにしました。

「仕事でお世話になっている人で、ウィンザー侯爵の騎士なんだけど、家のことに手が回らないらしいんだよね」

他に行く当てもなく、村娘は騎士の元へ行くことにしました。

「お幸せに」

娘はそれだけ言って街を出ました。

長い間荷馬車に揺られてたどり着いた侯爵領は、街よりも栄えていました。そんな街中の集合住宅……アパートの一室が騎士の家でした。

「これからよろしくお願いします」

「急なことですまないが、よろしく頼みます」

騎士は真面目で、仕事一筋な男でした。娘は黙々と家事をこなしました。

「本邸のメイドが足りないらしく……」

「わかりました。行って参ります」

娘は時たま侯爵邸のメイドもしました。侯爵に薬を盛ろうとした輩をとっ捕まえたこともありました。

「好きな人ができました。悪いとは思っています」

それなのに、騎士は遠征中に助けてくれた男爵令嬢に恋に堕ちてしまいました。

「ですが、主君が貴方を婚約者として迎えたいと……」

主君とは、つまり侯爵のことでした。

「お幸せに」

娘はそれだけ言って、街の家を出ました。村娘に断る道はありませんでした。

「君に、私の婚約者をお願いしたい」

結婚するつもりのなかった侯爵は、薬を盛ったやつを捕まえた娘を信頼し、お飾りの婚約者にしました。

娘は淑女教育を受けることになりました。本来は何年もかかるものを、一年で叩き込まれました。乳兄弟である王子が来客した時は必死に対応しました。娘はお飾りの婚約者として尽力しました。

「私は、愛する人ができてしまった」

侯爵は、他国から送られてきたものの王子に認められなかった可哀想な姫君を愛してしまいました。

「殿下が、君を娶りたいと」

娘に断る力なんてありませんでした。

「お幸せに」

娘はそれだけ言って邸宅を出ました。

豪奢な王宮で、娘は次の役目を待っていました。

「結婚しよう」

しかし娘に告げられたのは、求婚の言葉でした。

「なぜ結婚するのです?」

「好きだから以外に理由があるか?」

王子は娘を愛していました。

幼馴染から商会に、商会から騎士に、騎士から侯爵に、侯爵から王子に。

こうして、娘は王太子妃となったのでした。

「ざっくりしたあらすじで行くとこんなものかな?」

開いた口が塞がらない。あまりにも都合のいい部分だけを切り取りすぎているというか。侯爵邸のふかふかなソファから立ち上がる。

「なんでそんな悪者に書けるんですか!? その物語の侯爵って貴方ですよね!?」

心底驚いていると、侯爵がハハハと笑う。相変わらずよくわからない人だ。

「いやぁ、このくらいに書いておいた方がいいんだよ。実名は出していないし、平民出身が王妃なんてって言われるよりはマシだろう?」

「がっつり乳兄弟って書いてましたよね?」

「まあ私は人気者だし、貴族だからね。表立って石を投げつけられたりはしないさ」

オスカー様から街で有名な作家は偽物で中身は侯爵だと聞いた時も驚いたけど、今ほどじゃない。趣味だからって……意味がわからない。

というか三年も一緒に暮らしていたのに気づかなかった。サーラ様は知っているどころか母国にいた時から愛読者だったようだし。

「彼らも悪役にされたところで何も言わないし、言えないだろう」

それはそうだけど、だとしても酷い。ここから虐げられた描写とオスカー様との恋愛描写を増やすとかなんとか……。

「君はどう思うかい?」

「アンナはボロ雑巾じゃない」

「あのねぇ、脚色っていうのは大事なんだよ。民衆の同情を引かないと」

オスカー様はどこか見当違いなことを真顔で言っていた。

そんなこんなで大衆小説は無事に出版されて、侯爵の思惑通りなのかすぐに噂になり、麦わら一本で大金持ちになった男のおとぎ話に例えられ、私はわらしべ王妃と呼ばれるようになる。

「では誓いのキスを」

王都の教会で、吐息が落ちた。オスカー様の綺麗な青い瞳からポロリと涙が溢れる。言葉を交わさずとも、オスカー様がオスカー様であることが伝わって、思わず私からもキスをした。

「好きな人ができたから、お前には代わりを用意した」と言われ続けた結果、私も好きな人と結婚することができましたとさ。

────Fin.