軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次女と黒薔薇様②

エルローズの店まではそんなに遠くないので基本的には徒歩で向かう。エルローズはオーダーメイドのドレスをメインに扱っているが、お店の方には既製品も置いてある。既製品は庶民でも手に入れることができる値段の服もあり、女性の憧れのブランドといった感じだ。もっとも既製品として売り出している服は、どれもぎりぎりを攻めているのでどうしても着る人を選んでしまう。セレスはもう少し大人になってから挑戦したいと思ってはいるのだが、師匠が古典派なので嫌がるかもしれない。

セレスとリドが歩いている姿は、同じ黒い髪ということでひょっとしたら親子に思われているかも知れないと思い、セレスはちょっと申し訳ない気持ちになった。エルローズくらい大人の女性なら一緒に歩いていてもおかしくないかもしれないが、セレスだとまだまだ保護者と子供にしかきっと見えない。

「あ、あの…」

「ん?どうした?」

「私と歩いていたら、親子に思われるかもしれないと思うと、少し申し訳なくて…」

セレスの言葉にリドはびっくりした顔をしてからふっと笑顔になった。

「気にするな」

「ローズ様と歩いていたなら、絵になったと思うんですが…」

美男美女が並び立つ様はきっと世の女性たちの憧れの的になったであろう気がする。

「ローズと俺が一緒に歩く……??それ、何の罰ゲームだ?」

美男美女でお似合いかと思っていたら、まさかの罰ゲームの感覚だった。

「無理だな。ローズとは友人だが、俺も基本は古典派だ」

リドさんもきっちり着てからのチラリズム派だった。そこはもう個人の好みの問題なので、どうしようもない。友人だろうが譲れぬ一線はきっとある。

「…聞いてもいいですか?」

「答えられる範囲でならな」

「…黒薔薇様っていうのは何なのですか?」

アヤトが面白がって言っていた「黒薔薇様」という呼び名が気になって仕方がない。ちょっとしゃべれるようにもなってきたし、思い切って質問してみようと思い、セレスは真正面からリドに聞いた。

「……君は、『3人の薔薇姫』という童話を知っているか?」

「3人の薔薇姫?えっと、白薔薇の王子のやつですか?」

「そうだ」

『3人の薔薇姫』という童話は昔一度だけ読んだことがある。

あるところに3人の美しい薔薇のお姫様がいました。 黄金(きん) の薔薇姫、 紅(あか) の薔薇姫、そして黒の薔薇姫。白薔薇の王子は3人のうち誰か1人を妻にと願い、それぞれに贈り物や愛の言葉を捧げました、こんな感じから始まる童話で、最終的には、何だかんだで白薔薇の王子は見事3人全員に振られましたとさ、という感じで終わるお話だ。

ディーンに読み聞かせの話を探している時に読んだのだが、これは果たして童話なのか、と思い本を閉じて封印した。教訓としては愛する人は1人にしましょう、ということになるのだろうとは思うのだが幼児にはハードルが高すぎる。

「白薔薇の王子が振られてしまうお話ですよね」

「ああ、俺たちがまだ学生だった頃に、生徒会の出し物としてそれの劇をやることになってな」

昔を思い出したのか、リドの目が少し遠い感じになった。

「アヤトは当時の生徒会長である日突然、生徒会長の権限で配役を決めました、と言われたんだ…」

「あ、ひょっとして…」

「そうだ。だが、やると決まった以上、きっちり黒の薔薇姫を演じきったさ。完璧な女性を目指すために、知り合いの女性に礼儀作法もきっちり習った。それ以来、生徒会の出し物は必ず誰かが女装か男装をするのが定番になったと聞いている」

確かにセレスが学園に通っていた時も生徒会が男女逆転の劇をやっていた。その伝統のスタートがまさかの師匠だった。そしてリドは、どうやら完璧主義者だったらしい。

「…当時のお姉様って…?」

今は完全なる女装だが、当時の姿はどっちだったんだろう。

「学園の校則には、学生は指定の学生服を着用すべし、とだけ書いてあったな。アヤトはちゃんと学生服を着ていたから問題にならなかった。それも規則にきっちり沿った服だったから教師も何も文句は言えなかったよ」

アヤトはただ女子の制服をきっちり着ていただけだ。それも似合っていたし、校則にも違反していない。

「当時のアヤトは今と違ってさらさらの真っ直ぐの髪にこだわっていたから、見た目は深窓のご令嬢という感じだった」

女子の制服を着ている時は髪をおろして、なぜかたまに男子の制服を着てくる時はポニーテールにして男装の麗人風にして楽しんでいた。

「お姉様は生徒会長だったんですか?」

「そうだ。悔しいことに常に成績は1番で人気も高かった。勝手に配役を決められた時は「悔しかったら生徒会長になってみなさい、おほほほほ」と言っていたな」

その光景が目に浮かぶ。きっと楽しそうな笑顔をしていたに違いない。

「ちなみにその劇の時、お姉様の配役は?」

「当然、黄金の薔薇姫だ。紅の薔薇姫がローズだった。当日はドレスをローズが用意してくれて、化粧はアヤトがしてくれた。アイツ、あの当時から化粧がうまかったよ。大盛況だったおかげでしばらく黒薔薇姫の呼び方が定着してたんだ…」

アヤトはリドを黒薔薇姫の呼び名を定着させるほど美しい女性に化けさせたのだろう。

今は身体付きもしっかりしているし、上位の冒険者らしい感じがする男性なのに、学生時代とは言え完璧な女性に化けさせたアヤトの化粧術は尊敬に値する。ドレスを選んだというエルローズもリドの体型その他もろもろを考え抜いて女性に見えるドレスを用意したのだろう。あの2人が組んだら、どんな男性も女性に見えるようにしてくれるんじゃないだろうか。

「ローズ様も同じ学年だったんですか?」

「ん?君はあの2人の年齢を知らないのか?」

「お2人とも年齢不詳すぎて…。近い年齢なのかな?とは思っていましたが」

「そうか。俺も含めて同じ年齢だよ。学園の教師陣からは、ある意味もっとも苦労した学年だ、と言われたな」

基本能力は高い人間が多かったが、どこか性格的にぶっ飛んだ人間が多かった。

おかげで基本的には放置でよかったらしいが、やらかす時は盛大にやらかした。生徒会だろうが一般学生だろうが関係なく巻き込まれるせいで、妙に結束が強い学年だったと思う。その後始末が大変だったと学園長には何度か嘆かれたのだが、だいたいの場合、非は相手側にあったのでこちら側の人間が処分を受けることはなかった。

そのせいか、学生時代の人脈は今も大変役に立っている。

ただし、学生時代から変わらないぶっ飛んだ性格の者が多いので、制御には大変苦労している。

「お姉様がいて、ローズ様もいる学生生活…。見てる分には、楽しそうですね」

「そうだな。巻き込まれない限りは楽しいだろうな」

残念ながら、リドはいつでも巻き込まれたし、何なら騒動の当事者だったこともあるので苦笑するしかなかった。