軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次女と女性騎士②

念願の女性騎士に会えたセレスがやることと言えば、当然どんな薬が欲しいのかの聞き取り調査だ。

「ヒルダさん、女性の騎士さんたちには、どんな薬が必要になりますか?」

一通りの挨拶が済んだ後、主の新しいお嬢様は、とても薬師らしい質問をしてきた。

今までヒルダが会ったことのあるギルド所属の薬師たちは、こんな感じに仕事に一途で、もっと周りを見て薬以外にも興味を持て、と忠告したくなるようなタイプの人間が多い。

お嬢様も例に漏れず、そのタイプのようだった。

国王陛下が大変苦労する様が思い浮かんで、とても楽しい。

あのクソガ……ではなくて、若い頃少々ヤンチャが過ぎた国王陛下がこのお嬢様に振り回されていると思うと、ヒルダの心は大変和んだ。

オースティからの命令は、いついかなる時でもセレスの傍にいて、彼女を守れというもの。

この、いついかなる時でも、という辺りに、オースティの本心が見え隠れしている。

遠回しに、セレスとジークフリードの邪魔をしろ、と言っているようなものだ。

ヒルダがちゃんと理解して頷いたので、オースティもニヤリとしていた。

オルドラン公爵家は、こういう悪役顔が似合う人材が多くて楽しいのだが、あの可愛らしいご子息も将来はこうなるのかと思うとちょっと残念だ。

「そうですね、日焼け止めは、出来れば汗に流されない物があると嬉しいですね」

「汗でとれたら意味がないですものね。手荒れなどはどうですか?」

「ひび割れたり切れたりすると痛みもありますが、それくらいなら慣れていますので、問題はありません。ですが、ぱっくり割れてしまうと出血がひどくなる時があり、そうなると剣を握った時に血で滑ったりするので、すぐに止血出来るような物がほしいですね」

ヒルダの言うことをふむふむと聞いているセレスは、間違いなくギルド所属の薬師だ。

絶対にこの方、薬関係だと暴走する。

ヒルダは妙な確信を持った。

たとえば、珍しい薬草があると聞けば一人でもどこかに行ってしまうとか、知らない薬について書かれた本があったら時間と食事も忘れて読みふけるとか。

聞いた話では、感染力の高い伝染病が流行った時に、真っ先にその中心地に行って薬を作っていたらしい。

一応、公爵令嬢となったので多少は自重してほしいが、それよりも薬師として動く方を優先するのだろう。

「今までの止血剤だと、大きめの傷に使うことが多いから、けっこうぬるっとしてたっけ。さらっとしつつも、止血、痛み止めは即効性を重視。仕事中に使うから、香りはなし。あ、でも、日焼け止めの方には、虫が嫌がる匂いだけは入れようかな。あれだったら、人にはほとんど分からない匂いだし」

それは嬉しいかも。地味に虫刺されは痛いし痒い。腫れる時もあるので、刺されなくなるのは大歓迎だ。

「日焼けした時に使えるように、全身用の保湿クリームも作らなくちゃ。刺激しないような成分にして……いっそう、昼用と夜用に分けようかな」

セレスがあーでもないこーでもないとぶつぶつ言っているのを、ヒルダは微笑ましく見ていた。

オースティからは、セレスとジークフリードが男女の仲にならないように徹底的に邪魔するように言われたが、この感じだと薬のことで頭がいっぱいになっていそうだ。

ちょっとずつほしい薬について相談すれば、旅の間も退屈せずに済むだろう。

ジークフリードからは嫌がられそうだが、雇い主の命令だから仕方ない。

彼が国王陛下だろうが、身分を隠して同行する以上、そんな扱いはしない。

バレバレだろうが、あくまでもジークフリードはセレスの護衛の一人だ。

「お嬢様、どのような薬だろうと、我々は騎士です。仕事に差し支えない薬でお願いします」

「もちろんです。でも何というか……制限があると燃えますよね」

「あぁ、そうですね。模擬戦でも武器制限された時は、いかに手持ちの武器で相手を叩きのめそうかと考えるのが楽しいです」

考えたらちゃんと実行に移すのがヒルダという騎士だ。

ちなみに新人には、持つ武器は制限されても肉体の動きは制限されていない、己の肉体は武器だ、という言葉を、実地で体験させている。

蹴っても殴ってもルール的には全然有りなのだから、仕方がない。ルールとは、いかに抜け道を見つけるかが勝負の分かれ目になるのだ。

そして実戦では、ほんの僅かな差が命の分かれ目にも成り得るのだ。

近付いてきた敵を蹴るだけでも命が助かる確率が高くなるのなら、やらない手はない。

こうやって公爵家の騎士たちは、常日頃から鍛えられているのだ。

「お嬢様も同じですか?」

「はい。薬で制限をかけられると、クリアするために試行錯誤するのが楽しいです。どうやって意地悪な制限の隙間を掻い潜ろうかと、寝食を忘れて没頭してしまうので、いつも怒られます」

「お嬢様も、立派なオルドラン公爵家の方ですね」

血の繋がりはないというのに、そういうところはオースティに似ている。

オースティも自分が気になったことに対しては寝食を忘れて考えていることがあり、その度にクリスティーンに怒られている。

もっともオースティの場合は、制限の隙間を掻い潜るというよりは、斜め上から謎の解答を導き出すタイプだ。若干、力技も入れてくる。

「騎士には色々な制限があります。たとえば、絶対二日酔いにはならないようにする、とか、居場所はなるべく明確にしておく、とかですね」

「騎士さんって、飲む時は豪快に飲んでるイメージです。もしうっかり飲み過ぎた次の日は、どうしてるんですか?」

「まぁ、気合いで何とか。さすがにどうしてもダメそうなら考慮はされます。新人だと、まだ自分の飲み方というものを知らない者も多いですからね」

「……先に飲める二日酔いに効く薬を開発する?でもそれだと、自分の酒量が分からなくなるかな?」

今ある二日酔い用の薬は後飲みなので、予め飲んで酒の席に挑める薬を開発した方がいいのかセレスが迷っていると、ヒルダが笑いながら止めた。

「お嬢様のおっしゃる通り、薬に頼ってしまうと自分が飲める酒量を見誤る者が出てくるので、それは必要ありませんよ。己の身体を知り、管理するのも騎士の務めです」

「そうですね」

「二日酔い用の薬も、ほどほどの効果があるものでいいんですよ、薬で治ると分かれば、馬鹿な飲み方をする者も現れますので。ほどほどの効果できっちり苦しめばいいんです。身を以て知るのは、大切なことですよ」

ヒルダさんはきっと底なしなんだろうなぁ、同じくらいの酒量かそれ以上のお酒を飲んでも変わらないヒルダさんに、多くの騎士たちが挑んでは負けていそう。

にっこり笑うヒルダを見ながら、セレスはそんなことを考えていたのだった。