軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族もドン引くレオナルドのご機嫌ぶり

試験から二日後、レオナルドに連れられてセラフィーナはガイルの執務室に来ていた。

いつものメンバーが揃っている。

「セラフィーナの試験の結果が出たのでな」

試験は大きく分けて二つに分類される。

ひとつは言語の理解度、もうひとつは文化の理解度だ。こちらは国民性や特産物、風習、歴史など多岐に渡る。

これをセラフィーナは自国を除いた計九か国の試験に挑んだわけだが。

いつもはキリッとしている宰相が困惑気味な顔をして言い淀む。

「えー、ウォホン。えー、驚かずにお聞きください。まずは言語の理解度のほうです。こちらは九か国とも、ほとんど満点に近い結果が出ました。これはクレイズ語とほぼ同等に操れると言っても過言ではありません」

その瞬間、皆が驚きに目を見張った。

まさか!本当に?!そんな言葉が頭の中を駆けめぐる。

ガイルが首をギギギと動かし、宰相と目で会話する。

“本当か?”

“本当です”

「えー、そして文化の理解度ですが。こちらは国によってばらつきがあるものの、すべて高得点です。サイプレスが群を抜いており、次にマチュアとサライエ、サルーン、コクーンと続きます。その下に残りの国が並んでいますが、結果については何の問題もありません。むしろトップお二人に次ぐ実力といえるでしょう」

皆がビシリと固まる。

一介の伯爵令嬢が、トップに次ぐ実力?!

目を見開いたレザールがガイルを見る。

同じくガイルもレザールを見る。

動揺したアレクセイがロイズを見る。

それを無視してロイズはメガネをくいっと上げる。

執務室がシーンとなった。

そんな中、セラフィーナはひとり呑気に笑顔を浮かべた。

よかった。これなら問題なさそうだ。

だからにこにこしていたのだが、誰も何も言ってくれない。

セラフィーナが困惑しだしたとき、隣のレオナルドの肩が揺れだした。

「くく。くくく。はは!ははははは!さすがだセラ!私が見込んだだけはある!」

レオナルドはパッと髪を掻き上げた。愉快で仕方ないといった顔をしている。そして何を思ったか、いきなりセラフィーナを抱き上げ自分の膝の上に乗せて、頬にチュッとキスをした。

え………?今キスされた?!

びっくりしたセラフィーナは叫ぶ。

「レ、レオ様!な、何するの!」

「くくく。ご褒美だ!素晴らしい結果を叩き出したな!これで誰も文句を言えないぞ!セラ、よくやった!頑張ったな!」

「あ、ありがとう。で、でも今は降ろして!」

「ダメだ!私は今最高に気分がいいからな!ははははは!」

レオナルドの様子にセラフィーナは焦る。

なんで急にこんな機嫌よくなったの?!

王族の前でこんな!でも無理やり突き放すなんてできない!

膝の上でオロオロしているセラフィーナを、レオナルドはかまわずぎゅっと抱き締める。さらに再びチュッとキスをする。

セラフィーナの顔がカーッと赤くなった。もうどうしてよいかわからず両手で顔を隠す。

「ふ、不敬で申し訳ありません!」

セラフィーナの叫び声で、皆ハッと我に返った。

試験結果に唖然としている中、急に始まった二人のやり取りについていけず、レオナルドがセラフィーナをぎゅうぎゅう抱き締めているのを、ただポカンと見ていたのだ。

ガイルが咳払いをする。

「い、いや。気にするでない。レオが勝手にやっていることだからな。だがレオ、セラフィーナが恥ずかしがっておるぞ。降ろしてやったらどうだ?」

「父上、このまま話の続きをどうぞ。それとも何か問題が?」

レオナルドが威嚇してくる。

セラフィーナを離したくないらしい。

「い、いや。ま、まあ問題ではないな。セラフィーナ、そのままでよいから落ち着いてくれ」

「そ、そうよ、セラフィちゃん。気にしなくて大丈夫よ」

「「…………」」

セラフィーナには悪いがもう誰も何も言えない。

ガイル達は改めて二人を見る。

真っ赤な顔を両手で隠しているセラフィーナと、目をキラキラさせてニッコリ笑い、歌でも歌い出しそうなレオナルド。恥ずかしがっているセラフィーナはともかく、家族でも初めて見るようなレオナルドの機嫌の良さに、皆の顔がひきつる。

ハッキリ言ってものすごく怖い。これが急降下でもしようものならとゾッとする。

もう見なかったことにして、セラフィーナに賛辞を送ることにした。

「いや、素晴らしい結果だな!」

「本当ね!凄いわ!」

「とても頑張ったんだね!」

「私の部下にほし……いや、なんでもない」

ギロリと見られたアレクセイは途中でやめた。もう余計なことは言うまいとティターニアを愛でることにする。

元凶とも言うべきレオナルドは変わらずセラフィーナをぎゅうぎゅう抱きしめ、なんならまたチュッとやっている。

ガイルはそんな息子達の姿に引きながらも、ゴホンと咳払いしてからセラフィーナに声をかけた。

「セラフィーナ、もう気にせんでよいから話を進めようか」

「は、はい。お願いいたします」

セラフィーナももう諦めて、レオナルドの膝の上で姿勢を正す。

「まずは二人の婚約について議会の承認が必要だがこちらは問題なかろう。これだけの高得点を出しておるからな。それに伴い、まもなく城で行われる卒業パーティーで、レオナルドの婚約者として紹介しよう」

「は、はい。よろしくお願いします」

「そして卒業パーティーの半年後に、レオナルドとセラフィーナの婚姻を執り行う」

セラフィーナはびっくりする。

王族の婚姻が半年後?!

過去前例すらないのではないか。

目を丸くするセラフィーナにガイルが苦笑した。

「セラフィーナのその表情の意味、わかっておるつもりだ。だがこれはレオが望んだことなのだ」

「そうなの?レオ様」

セラフィーナが恐ろしくニコニコしているレオナルドに問いかける。

「ああ、そうだ。私は卒業したら本格的に外交官として他国を回ることになる。そのときはセラ、お前を妃として隣におきたい。試験結果がよければ半年後でもいけると踏んでいた。だがお前はいつも私の予想を上回る!これほどの結果を叩きだすとは思わなかったぞ!これなら婚姻を早める強力な後押しになるだろう!はははははは!」

レオナルドは高笑いをした後セラフィーナの頬にまたチュッとした。

セラフィーナはレオナルドの機嫌のよさがやっとわかった。二人の結婚をすぐにでもと望んでくれていたのだ。

半年後とはさすがにびっくりだが“妃として隣に”なんて理由を聞けば逆に嬉しい。

「ふふふ。そうだったの。レオ様がそう思ってくれてたの嬉しい。勉強頑張ってよかったわ」

「そうだな。本当によくやった」

レオナルドに頭を撫でてもらい二人で笑いあっていると、ウォホンと咳払いが聞こえた。

セラフィーナはハッとした。

二人の世界に入りかけていたが、まだ謁見中だった。

「まあ、そんなわけだ。セラフィーナとしても問題なければ早々に学園をスキップしてもらい、すぐに婚約と婚姻の手続きに入る。かなりハードなスケジュールになるだろうが、そこは二人とも頑張ってくれ」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」

「話は終ったな。セラ、部屋に戻ろう」

そう言ってレオナルドはセラフィーナを抱っこしたまま立ち上がり、部屋から出ようとする。

「ま、待って待ってレオ様!!このままでは爽やかな貴公子のイメージが崩れてしまうわ!」

「むう。お前にそれを言われるとはな」

レオナルドはしぶしぶセラフィーナを降ろした。だが腰に手を回しその場からさっさと連れ出そうとする。セラフィーナは挨拶だけでもと思ったが、きちんと振り返ることすらできない。

「し、失礼しま「ガチャン」

扉は閉められた。

それを呆然とみつめるクレイズ王国王族達。

セラフィーナはというと、その日一日レオナルドに抱きつかれたまま過ごした。

次の日には議会で無事承認が下りた。

当初、セラフィーナ・ダウナーなどという伯爵令嬢では、レオナルドに相応しくないという意見が多数あった。自分の娘を嫁がせたいという野心から。娘がレオナルドに心を寄せているという親心から。

だがセラフィーナの試験結果に皆の目が点になる。

「ダウナー嬢と同等、もしくはそれ以上の結果を残せるご令嬢がいれば、この場で推挙してもらえますか」

宰相の言葉に全員押し黙った。

そんな令嬢いるわけないだろ、誰もが思った。

「で、ですが婚姻まで半年というのはいくらなんでも……」

一人の貴族が勇気を振り絞って声をあげたが、王族皆からの厳しい視線に尻すぼみになる。

アレクセイが口を開く。

「確かに期間は短い。だが、これだけの結果を残している以上、教育などまったく必要ないことはわかるはずだ」

ガイルも続く。

「早めに婚姻を済ませ、外交官夫人としてレオナルドとともに他国を回ってもらうほうが、クレイズのためになるといえぬか」

レザールが言う。

「コクーンとも三ヵ国同盟で強い繋がりができたからね。第二王子妃が東に精通しているというのは我が国の強みになるよ」

貴族達はぐうの音もでなかった。

そもそも自分達の娘では、セラフィーナに成り代わることなんて絶対無理だ。断言できる。

もうそれなら半年後でも一年先でも変わらない。

議会の承認は無事下りた。

アレクセイ達はホッとした。

レオナルドの機嫌を損ねずに済んだことに。

その後、セラフィーナが第二学年でありながらスキップ試験にも合格し、卒業条件を満たしたことが議会に告げられた。あまりの才女ぶりに、皆ただただ言葉を失うのだった。

こうして異例ともいえる二人の婚姻も同時に公布される。

そしてセラフィーナは、卒業パーティーに卒業生として、またレオナルドの婚約者として出席することになった。