軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約披露パーティーの心構え

婚約披露パーティーまで残すところ一週間となった日、外交で他国にいた王弟が戻ってきた。

そこで国王の執務室に全員集まり、今後の対策について話し合いをすることになった。

セラフィーナ達が執務室に入ったとき、すでに王弟レザール・チェザリー公爵もいて談笑していたが、レザールはこちらに気づくと立ち上がって両手を広げた。

「私のかわいい甥っ子達!ずいぶん大きくなって!見違えたよ!」

「またか。三ヶ月前に会っているだろう」

「相変わらずですね、叔父上」

「ご無沙汰しております」

呆れるレオナルド、苦笑するアレクセイ、淡々と返すロイズにレザールは笑った。

「ははは!お前達は変わらないな。ユーリも久しぶりだね。レオの面倒を見るのは大変だろう」

「お久しぶりです、閣下。毎日振り回されております」

楽しそうに笑うレザールは国王とはそれほど歳の差はないはずだがとても若く見えた。

レザールはティターニアを視界に入れると先ほどの緩い空気を一掃し、姿勢を正して神殿の礼をとった。

「ご無沙汰しております、巫女姫ティターニア様。我が国にお招きできましたこと、大変嬉しく思っております」

「お顔を上げてください。このたびはお骨折りいただきありがとうございます。どうかこれからも末永くよろしくお願いします」

ティターニアとレザールは微笑み合った。

その後レザールはセラフィーナに顔を向ける。今はフィーナの装いだが事情は伝えてあるそうだ。

「君がユーリの妹君かい?前伯爵は元気でおられるかな?」

「お初にお目にかかります。セラフィーナ・ダウナーと申します。あの、祖父をご存じでいらっしゃいますか?」

「若い頃にね、色々教えてもらったよ。“その国に行くのならその国について知らねばならん”と言われてね」

懐かしい言葉だ。

セラフィーナがまだ幼い頃、祖父ガーレンに言われて猛勉強を始めるきっかけになった。

あのおかげで今のセラフィーナがいる。

「レザールよ、積もる話もあるだろうが皆を座らせてやってくれ」

「そうよ、レザール。女性をいつまでも立たせておくものではないわ」

「おや、これは失礼」

国王ガイルと王妃レイチェルに言われて皆で席に着こうとしたが、なぜかレオナルドの横にセラフィーナが腰掛けることになってしまった。

王族だらけの中で同席するのはおかしいと後ろに控えようとしたが、「いいから座れ」とレオナルドに半ば強制されたのだ。

「まずはレザール。コクーンでの報告を」

「はい。巫女姫様の代替わりですが、次代はコクーン国王太子妃の妹君に決定しました。来年の豊穣の祭りはティターニア様に取り仕切っていただき、その際に代替わりの儀をしたいと神官長は仰せです。ティターニア様、神官長より労いとお祝いのお言葉を頂戴しております」

優しく微笑むレザールにティターニアは瞳を潤ませた。

「来年の豊穣の祭りが、コクーンへの最後の訪れになりますことご了承ください」

「はい、覚悟はできております。私はこれまでずっとコクーンを慈しんでまいりました。ですがこれからはクレイズの王族一員として、アレクセイ様とともにクレイズの平和と発展のために励んでまいります」

きっぱりと言い切ったティターニアはいつもの穏やかな表情ではなく凛としており、しっかりと前を見据え国を背負って立つ覚悟を感じさせる。その決意を皆が受け止めた瞬間でもあった。

ガイルとレイチェルは笑顔で頷き、後ろのリンカは瞳を潤ませた。

そしてアレクセイは。

「ああ、ああ!ティア!君はなんて素晴らしいんだ!私とともにクレイズを!!」

いつものアレクセイ節が始まった。

皆またかと思ったが、先程の決意表明の前では仕方ない。

だがいつまでも止まらないアレクセイに、レオナルドが両手をパンッと鳴らす。するとアレクセイはハッとなって口を閉じた。

それじゃまるでペットのしつけ。

全員思ったがアレクセイはレオナルドに怒るでもなく、「それでは説明します」とキリッとしたので誰も何も言わずに話が進む。

「パーティーですが手配もほぼ終えており順調です。国賓のうちエメレーンはレオが、マチュアの王太子ご夫妻はユーリが付き添います。それで叔父上、フィーナ嬢のエスコートを頼んでもよろしいでしょうか」

「もちろんだよ。フィーナ嬢、こんなおじさんで申し訳ないがよろしくね」

「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」

アレクセイがテキパキと進めていく。

「それから国内の妃候補だった者達ですが、大体は落ち着いてきました。ただ有力候補といわれたマケドニー公爵とペドラ侯爵はまだくすぶっています。次代が公爵から侯爵家に落ちるマケドニー、野心の強いペドラ、この両家は注意が必要です」

マケドニー公爵家は、先々代王弟が王族から外れる際に興した家だ。公爵を名乗れるのは三代目までなので、マケドニー家の次代は侯爵家になる。

先々代は穏やかな方だったらしいがその息子から野心が強くなり、現公爵も娘を王妃にしたいと狙っているらしい。

そして現ペドラ侯爵の姉はレイチェルとともにガイルの婚約者候補だった。最終的にレイチェルに軍配が上がり、その姉は他国に嫁いだ。

そうとう悔しかったらしい。ペドラ侯爵家から王太子妃をという野心が今も根強く残っているとの話だ。

レオナルドが軽く手を上げた。

「さらに残念なお知らせだ。今回サライエからは第三王子が来ることになった」

「なんだって!?」

「まことか?」

「あいつが来るのかぁ。アレク大変だなぁ」

ガイルとレザールがアレクセイに可哀想なものを見る目を向けており、当のアレクセイもうんざりしている。

サライエとはクレイズの西隣の王国だ。

その第三王子が来ることが問題のようだが、意味がわからないセラフィーナとティターニアはきょとんとした。

レオナルドが説明する。

「サライエの第三王子は昔、エメレーンに一目惚れしたがこっぴどく振られたんだ。それを根に持って、当時婚約者だった兄上に会う度に絡んでくる。今回もそうなるだろう」

「出来のよい兄達と比べられてきたみたいでね。ちょっと歪んでいるんだ。候補だった者もだけど、第三王子もティターニア様にちょっかい出してくる可能性が高いよ」

「そうだな。どちらも対策としてはティターニアに近づけぬことが一番であろう。婚約披露が終わるまではティターニアのいる宮の出入りを禁じる。だが何が起こるかわからぬからな。アレク、気をつけてあげなさい」

「もちろんです。私がティアを守ります!」

力強く頷くアレクセイにティターニアは微笑んだ。

その後は宰相を中心に、当日の警備の手配などの最終チェックをする。

一通り話が終わったところで、ふとガイルがセラフィーナに話しかけた。

「そういえばフィーナ嬢はサライエ語も解すのであったか」

「おっしゃるとおりです」

「へえ、すごいね。さすがガーレン殿のお孫さんだ。他にどこの国の言葉がわかるの?」

レザールが興味津々で聞いてきた。

「中央大陸と東大陸はすべて話せます。南大陸は独学なのであまり進んでいません」

その言葉に皆が唖然とした。

「え……?フィーナ嬢はクレイズ含めた中央の六ヵ国と、東の四ヵ国すべて話せるの?」

「はい」

「……まさかユーリもか?」

アレクセイの質問にユーリアスは肩をすくめた。

「まさか、違います。私は中央はすべて話せますが、東は母の祖国のサルーンだけです。セラフィーナは子供の頃から尋常じゃない勉強量を自分に課していましたから」

「いや、ユーリのそれでも十分すごいのだが……」

皆が黙ってしまった。

なんだか変な空気に落ち着かないでいると、隣のレオナルドが口を開いた。

「驚いたな。お前が言葉をすべて話せるとは思わなかったぞ」

「あれ?言いませんでしたっけ?」

「聞いていないな。それだけ話せるのは外交官の中でもトップのみだ。今は叔父上と私だけだぞ。外交官の最低ラインはクレイズを除いた三ヵ国語以上だ。大体皆四、五ヵ国語を話せるかどうかだ」

セラフィーナがびっくりしていると横からレザールがまた質問する。

「もしかしてマナーとかも覚えているの?」

「一般常識の範囲です。例えばサライエは大皿料理でおもてなししますが、その隣国ゾーイックでは敬遠されているとか。南隣のマチュアは季節の折には民族衣装でお祝いされますが、時期によってまとう色が決まっているとかです」

皆がピシリと固まる中、レオナルドは笑った。

「はははは!やるな、お前!知識も一般の外交官並みだ!あいつらにお前の爪の垢を煎じて飲ませたいな!」

「レオナルド様が言うと本当にやりそうで怖いのですけど」

そんな話をしているとレザールが感心したように話しかけてきた。

「二人はずいぶん仲が良いんだね。そういえばレオが崩しているし」

「ああ、叔父上。こいつといると退屈しないからな。せっかくだから叔父上にも見せてやろう」

レオナルドはセラフィーナを見てニヤリと笑った。

ああ、この笑いは……

「隣に行って着替えてこい。ターニャ!」

「かしこまりました!」

目を輝かせたターニャが大きな荷物を持っていた。

それいつの間に持ち込んだの?!

その後は大変だった。

せっかくだから着替える最中を見たいと言い出したレイチェルと、連れられるようにティターニアも一緒に隣の部屋に入った。変わっていく姿にレイチェルは感嘆し、ティターニアは目を丸くした。

執務室に戻ると、初めて残念令嬢を見るレザールは顎がはずれたかのように口を開いた。

ガイルは喜び、レイチェルが偽装の過程を事細かに伝える。アレクセイとロイズ、宰相も改めて見るとすごいと沸いた。

その様子にレオナルドとターニャは満足げに頷き、一歩下がったところでユーリアスとゾーラは苦笑した。

国王ガイルの執務室はかつてないほどの賑わいを見せたのだった。