軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

88.ダンジョンの可能性

「恩人に、だと?」

サメチレンのお偉いさんが眉をひそめた。

おれをジロジロと値踏みするように見つめてくる。

ヘビかは虫類、それを連想させる様な不快な目だ。

「みた感じただの冒険者だが、お前は何者だ」

「佐藤亮太、見ての通りただの冒険者だ」

「ただの冒険者がなんでここにいる」

「助けを求められたら来るのがあたり前だろ。それよりそっちはなんで来なかった。シクロより遥かに近いんだろサメチレンは」

「シクロ?」

男の眉がピクッと跳ねた。

「救援の検討はしていた、新しいダンジョンとなれば相応の相手を差し向けなければならない。能力を含めて慎重に人選をする必要がある」

「シクロダンジョン協会はすぐにおれに依頼した」

男を睨む。

「冒険者の能力なんて毎日ダンジョンを周回してるから把握してるはずだ。検討って一体何を検討してたんだ」

「……」

男の顔が更に険しくなった。

一方で、おれの言葉に乗っかって他の村人たちが「そうだそうだ」「すぐに冒険者に依頼したら半日のうちに来れただろ!」と男をヤジった。

男はおれを睨んで、更にぐるっと村人たちを睨んだ。

蛇の様な目つきに村人たちは一瞬ひるんだが、すぐにまた反発して大声を上げた。

男は村長に振り向き、言った。

「話は分かった、どうしてもシクロにつきたいのなら止めない」

「シクロではない、恩人につくのだ」

「「「そうだそうだ」」」

「同じ事だ」

男は冷笑した。

「それなら村を作る時に投資した金を返してもらおう」

「むぅ……」

村長がひるんだ、村人たちも静まりかえった。

そこに、男が更に追撃をしかけるかのように。

「100億、耳を揃えてかえしてもらおう」

「馬鹿な! そんなにもらってはいない」

「世の中には利子というものが存在する。そうだろう?」

男は村長や村人をグルっと見回して、冷ややかにあざ笑った。

無理難題をふっかけてるだけ、というのがおれにも分かった。

「砂糖2000トン分か……」

「それ多いのか少ないのかわかりにくい!」

夜になって、連絡を受けてやってきたクリントを村長の家に案内した。

おれと村長から大体の事のあらましを聞くと、クリントは難しそうな顔でつぶやいた。

ちなみに連絡は魔法カートを使った。

手紙をカートに入れて転送機能を使って家に送って、セレンの一件で顔が知られてるエミリーがクリントに手紙を持っていった。

そこからクリントが急行してきて、今に至るだ。

そのクリントは相変わらず角砂糖が氷山の如く浮かび出ているコーヒーを飲みながら、難しそうな顔でつぶやく。

「ふっかけてきてるのはまず間違いない。最初以外ほとんど援助してなかったのだな」

クリントが村長に聞く。

年齢で言えば村長はクリントの倍近くはあるが、立場と態度は年齢差を逆転している。

「は、はい。その通りです」

「村の規模をざっと見させてもらったけど、この人数に村の様子、初動資金ならその100分の1ってところだろうな」

1億ってことか。

それが多いのか少ないのかおれには分からないけど、クリントがそう判断するのならそうなんだろう。

「シクロもそういう村をいくつか持ってる。正直立ち上げるよりも維持する方が金がかかる。ダンジョンのない村は赤字の垂れ流しなのだ」

「まともな収入がないからな」

「ああ、だが先行投資でもある。このようにダンジョンが生まれれば。ダンジョンは一度生まれれば消えることはないからな」

「そうなのか」

それは初耳だ。

「まあ、消えないだけで、ニホニウムみたいなさらに赤字を産むダンジョンもあるがね」

ニホニウムはおれにはありがたいダンジョンだけどな。

「それでいくと、このダンジョンは少なくとも黒字だ。シクロが引き受けてもいい」

「我々は恩人に――」

「砂糖2000トンでさえなければ」

村長が「うっ」と呻いた。

「ダンジョンの調査をしなければならないが、今の状況でそれだけの大金を出すのは難しい」

「難しいのか?」

「もっとなにか……こっちにうま味があるダンジョンの追加情報があれば話は別だが」

クリントのセリフに村長は困り果てて、すがる目でおれを見た。

いや、そんな目を向けられても困る。大体金の話だ、しかも100億とか、おれが払える金額じゃない。

だからクリントに連絡をしたのだが、そのクリントが現状出せないという。

どうしたらいいんだろ。

「ここにサトウさんはいないか! いた!」

村長宅の扉が乱暴に開け放たれ、一人の男が飛び込んできた。

「あんたは?」

見覚えがあるが、名前は知らない。

たしか……。

「カルロだ! 朝ダンジョンの前であった」

「……ああ、アランがモンスターに勝てると言った」

モンスターに勝てる、ダンジョンに潜れる。

そうアランが実体験込みで判断した時に出したいくつかの名前の一つだ。

そのカルロは切羽詰まった様子で言ってきた。

「大変なんだサトウさん! アランが戻ってこない」

「何だって?」

カルロとダンジョンの前にやってきた。

何人かの村人が集まっていて、持っているたいまつが照らし出す顔は不安そのものだ。

それもおれが現われると一瞬で反転した。

「サトウさんだ! サトウさんが来てくれた」

「アランが助かるぞ」

「お願いしますサトウさん! お父さんを助けて」

歓声を上げる村人。

昨日助けたアランの息子リックがおれにすがってきた。

話を聞かせてくれ、どういう事なんだ?

「アランさんと一緒にダンジョンに入ってたんだけど、もう夜になるから戻ろうといったら、アランさんがまだいけるっていって中に残ったんだ」

「馬鹿め! あれほど無茶しないで切り上げろって言ったのに」

「それで、あの……」

別の村人がおずおず切り出した。

「ちっこいのと違う、すごく強いモンスターもいたし、アランはいつまで経っても戻らないから」

「違うモンスター?」

いくつかの可能性をすぐに思いついて、村人に確認する。

「そのモンスターは一匹だけか? 見た後にもとのちっちゃいヤツはみてるか?」

「え? ……えっと、いました。ダンジョンから出てくるときも最後まで追いかけてきたから」

「レアか!」

同時に元のモンスターが存在しているって事は少なくともダンジョンマスターじゃない。

その事にちょっとだけホッとした。

「話は分かった、おれが入る!」

そう言って、村人たちが安堵する中、おれは慎重に銃にあらゆる弾を込めて、ダンジョンに足を踏み入れた。

ポーチを装備して、道中の小悪魔を倒して進んだ。

やっぱり動きがトリッキーで、たまに死んだふりとかしてこっちを騙そうとするやっかいなモンスターだが、最初の頃に比べてだいぶなれてきて、倒し方が分かってきた。

モンスターはなれたが、ダンジョンはそうはいかなかった。

人間が入るたびに構造が変わるローグダンジョン、アランをしらみつぶしに探して回った。

「……やってみるか」

片方の拳銃に強化弾を5発、残り1発に追尾弾を込める。

それを前方に向かって、何もないところにうつ。

銃口を飛び出た銃弾がまっすぐ飛んで行き、角で曲がった。

弾を追いかける、50メートルくらい進んだ先で小悪魔が地面に倒れているのが見えた。

致命傷じゃなかったから、もう片方の銃の通常弾でトドメを刺した。

更に追尾弾を込めて打つ、角を曲がる弾を追いかける。

半分狙い通りだ。

ダンジョン構造が分からなくてモンスターがどこに出るのか分からないから、最大の威力を発揮する追尾弾でモンスターを探した。弾はモンスターを追いかけていくから、おれはその弾を追いかけた。

それを繰り返して、六度目。

追いかけた先にそのモンスターがいた!

ヤギの頭に人間の体。コウモリの様な悪魔の翼をはやして、身長は2メートルと大きい悪魔のモンスター。

他とはあきらかに違う、レアモンスターだ。

「アラン!」

その足元にアランが倒れていた。

呼びかけても反応はない。

「くっ!」

とっさに銃弾を連射して悪魔を追い払い、回復弾をアランに撃ち込みつつ突進して接近する。

悪魔は弾を払いのけつつ飛び下がり、回復弾はアランに当たって魔法陣を展開して癒やしの光を放った。

「う、ん……」

うめき声と共に体が動いた、生きてる。

そのまま強化弾マシマシのMAX回復弾を撃ち込んでから悪魔と向き直る。

肌にビリビリと突き刺すプレッシャーを感じた。

レアなだけに、優しくない相手のようだ。

それでもやらなきゃならない。

先手必勝、通常弾を連射した。

悪魔は拳で銃弾を全部払いのけた。

人間と似ているフォルムで、どことなく格闘家を連想させる様な防御。

「通常弾じゃだめか、なら!」

今度は左右に冷凍弾と火炎弾を込めて、同時に撃った。

弾は途中で融合して消滅弾になった。

悪魔はよけた! 拳で払う事なく大きく真横に飛んで弾をよけた。

弾はまっすぐとんでいって、ダンジョンの壁をえぐった。

ごくり、とツバを飲んだ。

目の前の悪魔を見る。

通常弾を払いのけた、消滅弾は初見ですぐによけた。

こいつはつよい、というより賢い。

小悪魔も妙にずる賢かったが、こいつはそれ以上にちゃんとした賢さだ。

やっかいだ。どうしようか――、

と思っていると悪魔が肉薄してきた。

速さBは余裕である突進力で、銃弾を弾いた拳を振るってくる。

腕でガードしつつ真横に飛んだ。

着地、腕がひりひりする。力はAはありそうだ。

悪魔は更に襲ってくる。片手を突き出し魔法陣を広げると、矢のような炎が3本飛んで来た。

「魔法も使えるのかよ!」

地面を蹴って後ろに飛びつつ冷凍弾を打って相殺。とっさの事で一発が外れて、炎の矢が一本飛んで来た。

腕をクロスしてガード、炎が全身を包む。

炎が消えた後、回復弾を注射のように自分に撃つ。

かなりの火力だった、バイコーンホーン以上インフェルノ未満。

魔法は詳しくないが大雑把に見積もってレベル2ってところか。

速くて、強くて、魔法も使える。

その上賢い。

オールラウンダーのやっかいなヤツだ。

「だが!」

銃を片方だけしまい、深く息を吸う。

カッと目を見開き、地を蹴って突進。

速くて、強くて、魔法も使える?

たしかにやっかいだ、だが。

速さも力もおれのが上だ。

悪魔以上の突進力で一瞬にして懐に肉薄し、銃を持たない方の手で喉を掴んでそのまま押していき、電車道で壁に押しつける。

どん! とダンジョンが揺れる程の衝撃で、悪魔の体が半分ほど壁にめり込む。

悪魔が抵抗、豪腕を振ってきた。

歯を食いしばる!

体力S、そしてHPもSだ。

来ると分かって耐えようと思えば耐えられないことはない。

巨大ハリセンで殴られた程度の衝撃を根性でたえつつ、喉を掴む手に力を込め、銃口を悪魔の開いた口に突っ込む。

パン! パン! パン! パン……。

ゼロ距離の連射、悪魔の体がビクビクけいれんする。

撃ち終わると悪魔の体がだらっと脱力した、頭が半分吹き飛んでいた。

やがて、しゅうう、と音を立てて消えて行く。

「ふう……」

息を吐いた。

初めての相手、強くて早くて賢いヤツだったから、ちょっと手こずった。

オーソドックスな強さだから、この先周回する冒険者にとってやっかいな相手だな、と思いつつ銃をおさめる。

ふと、違和感を覚えた、腰のあたりがずっしりしている。

見るとポーチが膨らんでいた。

ポーチをあけて、中を見ると。

砂金の他に、黄金色に輝く固まりがあった。

取り出すとずっしりしている、質量的にやっぱり黄金だ。

重さは約一キロってとこか? 写真で見たことのある金塊そのものだ。

一キロなら、これ一個で数百万ピロってところだろうな。

「これ……ダンジョンの価値上がらないか?」

砂金をドロップするダンジョン、金塊をドロップするレアモンスター。

おれは金塊をもって、クリントのセリフを思い出したのだった。